1話 プロローグ
新作を始めました。
「どうやら無事にワープが出来たようだな?」
「はい、人類史上初の快挙ですね。まさか地球からほんの数分で太陽系外宇宙に移動出来るとは想像もしませんでした。」
計器類に覆われている室内で1人の男が安堵した表情で椅子に座っている。
その近くの椅子に座っている黒髪の女性がモニターを見ていたが、顔を男に向けニコッと微笑んでいた。
「こうして人類が太陽系から外宇宙に出るなんて想像もしなかったよ。原理は良く分からないが、この宇宙船に積まれている新エンジンの効果なんだろう?」
「そうですよ。このエデンに搭載された新エンジン『マナ・ドライブ』のお陰ですね。私はこの制御を任されていますが、こんな高効率のエネルギーなんて信じられませんよ。時空間まで歪ませてしまうとは・・・」
「まぁ、俺も雇われ艦長だし、詳細なんて全く知らないんだけどなぁ~」
男女の目の前には巨大なモニターに青々とした星が映されていた。
「この惑星エリスの遺跡から発見された技術なんだろう?この『マナ・ドライブ』って?しかし、こんな星が今までよく観測されなかったものだよ。50年前にいきなり現われたって教科書に書いてあったな。しかも遺跡まであるって・・・、俺達人間以外に知的生命体がいた証拠だよな。何か宇宙船のようなものまであったと噂で聞いていたけど、おかげでこうして地球の技術革新が進んだのは有り難い事だ。」
「そして、この星も開拓が始まるのですね。大きさもそうですが、大気組成や重力は地球とほぼ変わりませんし、生物も確認されています。まぁ、発見されてから今まではほぼ未開の星でしたけど、こうしてやっと我々先発隊が開拓を始めるのですね。」
「そうだな、この船に乗り込んでいる1万人もの開拓民には期待しているよ。そろそろあの星の重力圏だ、大気圏突入の準備をしないとな。」
「はい」
男が計器類を操作していると・・・
ビー!ビー!ビー!
「何だ!この警報は!第一級警戒警報だと?」
「艦長!時空間に異変が!」
女性がモニターを見ながら大声を上げていた。
「何なのだ、こいつらは・・・」
男が唖然とした表情でモニターを凝視している。
モニターに映っている姿は・・・
白く輝く女性のようなシルエットの物体が大量に宇宙船を囲むように浮いていた。
しかし、その大きさは普通の人の大きさではない。数十メートルもあろうかといえる程の大きな人型だった。
【よくも・・・、我ら・・・、の・・・、聖域を汚したな・・・】
「声?何であの物体から声が聞こえる?あそこは宇宙空間の筈だぞ・・・」
【我らの王を・・・、取り・・・、戻す・・・】
「王だと?」
【その前に・・・、略奪者に・・・、制裁を・・・】
人型が輪のように並ぶと、その中心の空間が歪んで見える。
「艦長、あの空間はワームホールです!あの人型は単独で時空間を歪める事が出来ます!」
「えっ!」
「信じられません!あのワームホールの向こう側に地球が見えるなんて!あり得ない!」
【滅びよ・・・】
人型の手から白い光が放たれ、ワームホールの向こう側に見える地球へ大量のレーザーみたいなモノが降り注がれた。
「そ、そんなぁぁぁ・・・」
男が愕然とした表情でモニターの光景を見ている。
青く輝いていた地球があちこち赤く輝き、みるみる赤黒くなっていった。
【これで・・・、あの星は・・・、滅びた・・・】
そして人型全員がクルッと宇宙船へ向き直った。
「この船も終わりか・・・」
男が呟いたが人型は何もしてこない。
「どういう事だ?」
【王が・・・、あぁ・・・、王が、こんな姿にぃぃぃ・・・、これでは・・・、王を・・・】
「何を言っているのだ?」
「分かりません。私の量子コンピュータでは計測不能のエネルギーが、この船からあの人型へと流れています。」
「艦長!待って下さい!」
「どうした?」
「こ、これは!」
女性が青ざめた表情でモニターを見つめている。
「発生源を調べたら『マナ・ドライブ』からです。ここから原因不明のエネルギーが放出されています。し、信じられません!ワームホールを作る時以上のエネルギーが!」
【王よ・・・、私達を・・・、拒む・・・、のか・・・】
メキメキ!
嫌な音が艦橋内に響いた。
「どうした!」
「艦長!お互いのエネルギーが干渉して艦に影響が出てます!このままではこの艦が真っ二つに!」
「し、信じられん・・・、この艦は全長10キロはあるのだぞ。小型のスペースコロニーほどもある大きさなのに・・・、そんな大きさの船をも潰してしまうほどのエネルギーなんて・・・」
「我々人類は禁断の力に手を出してしまったのか・・・」
「その力で地球も滅ぼされてしまった・・・」
「もう、人類は終わりだ・・・」
男がガックリと床に座り込んでしまった。
メキッ!
絶望の音があちらこちらから聞こえる。
「艦長!諦めないで下さい!まだ方法はあります!」
「イブ!それは本当か!」
「はい!確率は限りなく低いですが・・・、このままエリスの重力に囚われ墜落するようにし、地上へと不時着すれば助かるでしょう。現時点で既に10%の破損度まで進行して最終的には40%まで破損しますが、居住区は辛うじて生存可能の状態で不時着出来ると思われます。後は艦長の操縦の腕次第ですが・・・」
「分かった・・・」
男が立ち上がり席に座って計器を操作し始めた。
「俺の全身全霊を賭けてこの船を地上へと不時着させてやる!」
しかし、宇宙空間にいた人型からビームのようなものが一斉に船へと放たれた。
「くそ!これで終わりかぁああああああああああああああああああ!」
男が絶叫したが、突然、モニターを見ながら硬直している。
「そんな事が・・・、地球を滅ぼした攻撃を防ぐだと・・・」
何か見えない壁のようなものが艦を覆っていて、全ての攻撃を吸収していた。
「艦長!マナ・ドライブの稼働率が異常値です!この摩訶不思議なフィールドもマナ・ドライブが引き起しているものと推測されます。そのせいか、姿勢制御の調整が上手くいきません!」
「構わん!イブ!お前は全てのAI領域を姿勢制御に回せ!後は俺が何としてでも不時着させてやる!」
10キロを超える宇宙船が大気圏に突入し真っ赤に燃え上がった。
「艦長!」
「大丈夫だ!何とかなる!いや!何とかするんだ!このフィールドを利用すれば計算値よりも低い破損度で軟着陸出来るかもしれん!」
女性が艦長の傍に近寄りそっと手を添えた。
「艦長、信じています。私の演算能力を超える神のごとき操舵術を・・・」
「任せろ!」
大きな火の玉となった宇宙船が青い惑星へと落ちていった。