第七話
夏のレジャー、あなただったら山派?海派?雨月の家のピアノはヤマハですが…………どうでもいいことですね、はい。まぁ、どうせ夏は家でゴロゴロ程度で終わってしまうんでしょうけどねぇ。こんな夏こそ身体を鍛えましょう!外で遊ぶときは紫外線対策とボウシをきちんと装着していきましょう!
当主はお前の予定だ。
そういわれたときうれしくもなんともなかった。
ただ、友達が一人減ったぐらいだ。
――――――
廊下内部は見事に変化しており窓なんかぐにゃりと割れていた。それだけで熱波がどれだけすごかったのかわかるが今では再び寒くなってきており、足元には再び霜が折り始めていた。
先ほどの恐ろしい熱波のことを含めて不思議に思いながらも地下へと続く階段までやってくるとやはりそこも変化しており、既に熱で形状がぼこぼこになっている。落ちないようにしてゆっくりと地下へと下りることにしたのだった……。
「ひ、緋奈さん!?」
先ほど力を解放していた場所、そこには倒れている緋奈さんと、刀のようなものを持った一人の女性が立っているのを見て取れた。
「貴様か、このような無礼な龍をつれてきたものは!」
冷徹なまなざしに背筋をひやりとしながらも、冷静な頭は相手が怒っているのがよぉく、わかった。だが、そのまま見捨てて逃げるというのも人として問題があると思われたので急いで緋奈さんに近づいて起こす。
「だ、大丈夫ですか?」
「一応は……氷月、記憶失ってるっさ」
「氷月?私はそんな名前ではない。わたしの名前は雪子、雪原雪子だ」
「……」
雪子?どこかで聞いたことがある名前だな。って、さっきおっさんが言っていたような……
考え事をしていると雪子と名乗ったその女性は冷機を纏っている刀をこちらへと向けてくる。
「貴様ら、どこの賊か知らないが、私の家に忍び込むとはいい度胸だ。ここでたたききってくれる!」
「え?ええっ!?」
刀だと思ったそれは鋭くとがった一本の氷柱のようなものだ……その切っ先が消え、気がつけば目の前にいきなり現れそれを躊躇なく突き刺そうとしてくる。冷徹な瞳が一瞬だけ僕を捉え、無意識で身体が反応する。
「くっ……!?」
「ほほう、やるな」
危うく心臓を貫かれそうだったがそれを掴むことが出来た。所詮は氷柱だ……切っ先部分にしかダメージなんてないだろうと思っていたらそれは甘い見通しだったようだ。
相手は離れたが僕の手は凍っていた。
「え?」
「私のこれを素手で掴む愚か者は残念ながらお前が初めてだ……霜焼程度では済まんぞ」
淡く笑って氷柱をこれ見よがしに見せ付ける。相手は触っているのだがそれはあの雪子という人物には当然のように効かない様だ。
冷たいという感覚が既に痛みに変わっている手を押さえて困っていると声が聞こえた。
「……龍輝君、ちょっとみせるっさ」
「緋奈さん……」
彼女に両手で包まれるだけで凍っていた両手は人のぬくもりを得ることができる。いや、人じゃないんだっけ?それなら龍の?それともマグマの?
その光景を雪子は見ており、忌々しそうに舌打ちをする。
「……お前ら、何が目的だ?私の龍の力か?以前もそのような輩が来たが私はもはや龍ではない、単なる人だぞ」
どうも相手は根本的に勘違いをしているようだ。これはもしかしたら無駄な争いをしなくて済むかもしれない。
そういうわけで僕は両手を高く掲げた。意図がわかったのか、それともまねただけなのか…………緋奈さんも同じように両手を上げる。
「実は話を聞いてほしいんです」
「話?何だ?死ぬ前に何か残したいのか?」
「いえ、実は僕たち近所のトメさんの畑が冷害のために酷い有様になったと聞いてやってきた龍鎮めなんです」
「龍鎮め?」
「ええ、それでこの家が元凶だという事でこの龍…………緋奈さんと一緒にやってきてこの地下で一度龍を見つけました。風邪を引いているようだったので治したんですが……」
詳しく事情を説明し、一生懸命身振り手振りでがんばった。がんばった結果がいつも報われるわけではないが何とか今回は報われた。
「すまなかった!責任は取る!」
「やめてください!」
「やめるっさ!」
報われた結果として雪子さんは自害しようとしていたのだが。
「ここ一ヶ月間の記憶がないのと風邪を引いて暴れまわっていたとは……事実のようだし、やはり責任を取って……」
「こらこら、雪子やめなさい」
ソファーに座ってお茶を静かに飲んでいたおっさん(雪子さんのお父さん)が娘?の手を止める。
「お客様の前でそのようなお見苦しいまねをしては駄目だ。このたびは助けていただきありがとうございます」
深々と頭を下げられてしまったのでどうしたものかと思っていると緋奈さんはうんうんとうなずいていた。
「やっぱり十七年前と何もかわらないっさ」
「十七年前?」
すると緋奈さんは一才だ。
「病院であってその病院が氷付けになったっさ。原因が夜鳴きで今日みたいなことがその病院でもおこったっさよ」
想像したくなかった。
「そのときおじさんも今みたいに謝っていたっさ」
僕は額に手を当ててため息をついたのだった。
ぐだぐだな感じで終わりを迎えてしまったのだがどうにか依頼をこなすことができた……で来たのはよかったのだが、ここで一つ残念なことがおきた。
雪原邸の隣にはぼろいアパートがあり、先ほどの熱波は地下から隣のアパートを攻撃しダメージをあたえていたらしいのだ。
彼女の住むべき場所は燃えて灰になっていた。




