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短編小説 柱時計

作者: ヨッシー@

短編小説「柱時計」


カタカタカタ…

ガタガタガタ…

ガタンガタンガタン…

「地震だ、これは大きいぞ、」

揺れる星田時計店、

壁の柱時計も激しく揺れる。

カタカタカタ…

地震が収まってきた。

ボーンボーンボーンボーン…

柱時計が鳴り出す。


テレビの声、

「昨夜、起きました地震は震度5弱、…大震災の余震とみられ…」

その日の朝、

「今朝の地震は大きかった」

「家が壊れるかと思ったよ」

店内の落ちた物を拾い、片付ける時男。

「あれ、」

柱時計が動いている。

「不思議だ、」

「何十年も動かなかった柱時計が動いている」

「地震のショックかな」

「いくら修理しても動かなかったのに」

「不思議だ、」

「ゴメンクダサーイ」

「はーい」

背の高い外国の紳士が立っていた。

「コチラ腕時計ノ修理ヤッテマスカ?」

「はい、やっております」

見上げる。大きい。

「ワタクシ、スチュアートと、モウシマス」

「大使館ノフルイ、友人カラキイタノデスガ、ナオリマスカ、コレ」

箱から腕時計を出す。

「これは、年代物ですね」

「ハイ、50年マエノ品物デス」

「祖父カラノ贈リ物デシテ、」

「立派な品物ですけど直せるかどうかは〜」

「オネガイシマス、明日マデニ、アナタシカ、イナイノデス」手を合わせる。

「困ったなぁ、」

「出来るだけの事はしてみます。期待はしないで下さい」

「アリガトウゴザイマス、」

激しく手を握るスチュアート。

実は、私は時計の修理には自信があった。

祖父が有名な時計師で子供の頃から手ほどきを受けていたのだ。

最近は、あまり修理は無いが、

「さて、」

ゆっくりと裏蓋を開けてみる。

「これは、」

中は、ギッチリと油が固まっており、黒く変色していた。

「悪い油を挿したな、」

「壊れたとは違うようだ」

「しかし、これは全部分解して、油を溶かして…間に合うかな、」

「まあ、久しぶりのお客様だ、頑張ろう」

深夜、

時男が机で黙々と修理を行なっている。

「あー疲れた、」

「後は組み立てるだけだ」

「ちょっと休憩するか、」

時男、ソファーに横になる。

そのまま、眠ってしまう時男。


チュン、チュン、

朝日が時男の顔を照らしている。

ガバッ、

飛び起きる時男。

「しまった、寝てしまった」

「何時だ、」

時計は、7時を指している。

「まずい、早く組み立てなければ、」

慌てて机に向かう時男。

「はっ、」

綺麗に組み立たった腕時計がある。

「あれっ、おかしいな?」

グルグルと見回す。

どう見ても組み立ててある。

「不思議だ」

詳しく見てみる。

「ちゃんと動いている」

「オハヨウゴザイマス、」

「スチュアートさん、」

「アリガトウゴザイマス!」

時計を取り返し、大事そうに触る。

「あっ、まだ、」

「スイマセン、イソイデイルノデ、」

5万円を差し出し、去っていった。

「そんなに、要らないです…」

行ってしまった。

「まあ、いいか」

「動いていたし、」

「私も年かなぁ、寝てしまうなんて、」

「しかも、組み立てた記憶が、まったく無い、」

「不思議だ」

柱時計が鳴る。

ボーンボーンボーン…


数日後、

「コンニチハ、スチュアートノ友人ノ、マイクデス」

また、違う外国人がやって来た。

ドサ、

今度は、また骨董品な懐中時計を出した。

「オネガイシマス、ワガヤノ家宝デス」

「修理ヲ、」

「はい…」

また、引き受けてしまった。

懐中時計を開けてみると、

かなりの年代物だ。

部品もだいぶ擦り減っている。

「この手の予備部品は、と」

奥の棚の引き出しを調べる。

「あった、あった。一つだけあった」

「うん?」

その中に、小さな靴が一つあった。

「何だ、人形の靴か?」

しかも、その靴はボロボロだった。

「まぁ、いいか」

その靴を机の端に置き、作業を始めた。

深夜、

「なかなか手強いぞ、」

昔の懐中時計は、部品も手作りなので同じ部品を付けても動かないことがある。

「こっちを調整して、こっちをはめて、と」

グゥ〜ッ、お腹が鳴る。

時計を見る。

午前2時50分、

「夜食でも食べるか、」

台所に行く時男。

ラーメンを作る…

…食べ終わる。

「さて、続きをやるか、」

「あれ、」

きれいに組み立ててある懐中時計。

そっと、開けてみる。

完璧だ。完全に動いている。

「おかしいな、直したかな?」

「記憶が、」

「とうとうボケたかな、」

「まぁいいか、」

翌朝、

マイクがやって来た。

「アリガトウゴザイマス!」

「アナタハ、天才デス!」

「いや〜それほどでも〜」

10万円を渡すマイク。

「そんな、」

「いくら何でも多すぎます」

「ベツノ店デハ、コノ値段ヲ、セイキュウサレマシタ」

「デモ、ナオセマセンデシタ。ウケトッテ下サイ」

去っていくマイク。

「外人さんは、お金持ちだなぁ〜」

「まぁ、いいか」

「それよりも、認知症かな?記憶がないなんて」

柱時計が鳴る。

ボーンボーンボーン…


近所の靴屋

「これ何なんだけどさー」

あの小さな靴を、靴屋に見せる時男。

虫眼鏡で靴を見る靴屋。

「う〜ん、小さいのに、かなり精巧にできているぞ、これは」

「しかし、ボロボロだ。もう履けないな、」

「う〜ん、俺でも、これ作るのは難しいぞ」

この靴屋、以前は宮内庁御用達だったぐらい、腕がいい。だいぶ歳を取ったが。

こんな老人たちの店の集まり、さざなみ商店街。

いつ辞めてもいいくらいの店ばかりだ。

自分も含めて、


ある日、

初老のアラブ人が、訪ねて来た。

また、見たことのない高価な時計を差し出した。

一体、いくらするんだ?

ダイヤ、ルビー、サファイア、エメラルド、宝石がふんだんに使われている。

素性や理由を聞かないと言う条件で、修理を引き受けた。

裏蓋を開けて驚いた。

「何だこれは、」

「時計じゃ無い!」

「内部まで宝石が付いている。見えないのに、」

設計に無理がある。

困ったぞ、ここを削って、ここを曲げて…

深夜、

「これは、無理だ!私には不可能だ」

「明日、謝ろう」

「もう、目も見えなくなって来たし…手先も動かない」

「この仕事、しおどきか…」涙が出てくる。

うつ伏せる時男。そのまま眠ってしまう。

柱時計が鳴る。

ボーンボーンボーン、

カタッ、

柱時計の横がドアの様に開く。

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「時計の修理の時間だぞ」

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「時計の修理の時間だぞ」

中から、小人が一人ずつ飛び出してくる。

ピョーン、ピョーン、

机に着地し、時計の回り集まっていく。

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「どんな時計も直すんだ」

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「今日のは、結構難しい」

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「赳夫のために、頑張るぞ」

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「赳夫は、命の恩人だ…」

赳夫?赳夫って…

私は、重いまぶたの向こうに小人たちが見えた…眠る。


チュン、チュン

いつもの様に時計が修理されている。

あの小人たちが修理してくれたのか…

あの柱時計の中に、

じっと見つめる時男。

早朝、

初老のアラブ人がやって来た。

怖い顔で時計を見回す。

緊張の時男。

ニッコリ笑い、時男に握手するアラブ人。

「アリガトウ」

「モシ、修理デキナカッタラ、ワタシ、クビ、キラレルトコデシタ」

首を切るジェスチャー。

10万ドルの小切手を出すアラブ人。

「そんな!いりません」

「実は、私が修理したのでは無いのです!」

「小人が、小人が、修理したのです!」

「ジャパニーズジョーク、」

ハハハハハ、

去っていくアラブ人。


テレビのニュース、

「…国の王子が、昨日着けていなかった時価9000万ドルの腕時計を、本日は着けています。紛失したか?故障したか?一次は騒がれていましたが…」

「時計?」

「あの時計だ!」

味噌汁を吹き出す時男。

「まさか、」

「王子の、」

「自価9000万ドル?」

テレビの映像をじっと見る。

「できなければ、私が首切り?」

アラブ人のジェスチャーを思い出す。

ゾッとする時男。青ざめた顔。

朝食が喉を通らない。

柱時計を眺める。

「ありがとう、命の恩人だ」

命の恩人?

小人は、確か、そう言っていた。

赳夫?爺ちゃんの名前だ、


靴屋にて

「辞めるのか、さみしくなるな」

「もう、目も手先も限界なんだ」

「解った」

「しかし、何故、小さな靴を注文?」

ニッコリ笑う時男。


仕立て屋にて

「何で、小さな服を五着も?」

ニッコリ笑う時男。


一週間後、

深夜、3時

ボーンボーンボーン

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「時計の修理の時間だぞ」

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「時計の修理の時間だぞ」

柱時計の中から、小人が一人ずつ飛び出してくる。

ピョーン、ピョーン、

机に着地し、時計の回り集まっていく。

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「どんな時計も直すんだ」

「あれ?」

「あれ?」

「時計が壊れていないぞ?」

「時計が壊れていないぞ?」

そこには、小さな靴と小さな服が五人分あった。

「何だこれは、」

「何だこれは、」

手紙が、

「今まで、本当にありがとう。最後に一花咲かせられました。

もう赳夫(爺ちゃん)のお礼は十分です。

これは、私(時男)からのお礼です。」

服の横には、小人用の懐中時計が5つあった。

大喜びの小人たち、

「時男のお礼が、いっぱいだ、」

「時男のお礼が、いっぱいだ、」


私は、思い出した。

戦時中、空襲の時、爺ちゃんは、

「この柱時計だけは!」と、火の粉の中、柱時計を背負って逃げて行ったと…


朝、

星田時計店のドアに張り紙がある。

「長い間、ごひいきにしてもらい、大変ありがとうございました。閉店することになりました。皆様、お元気で。星田時計店 店主

星田時男」

店の中、電気が消えている。

柱時計が止まっている。


朝日の中、時男が旅行バックを持って歩いている。清々しい顔をしている。

よく見ると、小人たちが時男の肩に乗っていた。

その服は、時男がプレゼントした物だった。

楽しそうな小人たち。

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「時男と一緒に引っ越しだ」

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「時男と何して遊ぼうか、」

「うんとこしょ、どっこいしょ」

「………」


都会のとある下町に、さざなみ商店街という商店街がありました。

小さな商店街の小さな時計店の、小さなお話でした。

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