8話 シークとイルと化け猫娘の宅配便
血飛沫霧の捜索から町へ帰還し翌日の朝
宿のシークの部屋のドアをノックする音がする。
「イルさんシークさんお届けものでにょ」
「はいはーい、今いきまーす」
シークは寝巻き姿で扉を開ける。
化け猫娘の宅配便だもふもふしたくなる配達屋が出迎える。
「酒場の方からシークさんイルさんはこの宿にお泊りだと聞いてきたにょ」
「あっ、ノフルさんからだ!」
荷は170×50×50くらいの大きさの箱だ
「じゃあ、お代とサインをお願いにょ」
「着払いかよ、げっ、12000円!?後で請求だな」
シークはサインと料金を支払う。
「おーい!イル!ノフルさんから荷物届いたー」
シークはイルの部屋に向かって叫ぶ、暫くするとイルがドアからでてくる。
「なんたなんだとりあえず部屋に運ぼうか」
「うん、前回の報酬かな」
2人は部屋でワクワクしながら箱を開封する。
箱には目を閉じたノフルの体がバラバラに切断され入っていた顔も体も無残に切り傷がありいたいたしい。
「そんな、ノフルさん…」
「契約期日は今日か、まだ契約までの時間はあるが…真面目そうな天使だったからな」
「っはぁあぁぁ〜!よく寝た!あらシークさんイルさんおはようございます!」
箱からむくっと呑気そうな半透明の体のノフルが起き上がる。
「俺天使の幽霊って初めて見たよ」
「あぁ、俺もだ」
「何言ってるんですか2人とも契約の時間はしっかり守ってますし天使はピーやピーピーしない限り不死身なんですよ」
「ほら報酬なら一緒に持ってきましたよ!」
半透明のノフルは箱の中の血まみれの鞄を掴もうとするが鞄が身体を透き通り掴めない。
「この鞄か、うん確かに依頼料は頂いたこれで契約は成立だな」
イルの言葉と同時にノフルのバラバラな体から黒いモヤが消える。
「はぁ、契約時間間に合って一安心です。っあれ?っいやぁーー!!なんで私バラバラなんですか?」
ようやく事態をのみ込んだノフルは青ざめる。
「いや、俺達じゃない箱を開けたら既にノフルさんの身体はバラバラだったんだ」
「そんな…あ!この箱よく見たら私が入っていた箱と違います!」
「さっきの配達屋なら何か事情を知ってるかも」
「それです!!私を運んできた配達屋まだいますか!探してきてとっちめます!」
「あそこ」
シークは窓の外でトラックを発車させようとする配達屋を指差す。
「そこかぁーー!逃がさーん!」
ノフルは窓から飛び出しトラックに向かって飛んでいく。
配達屋のトラックは動き出していたがノフルは構わずトラックの前ガラスに張り付く、とトラックはエンストし止まり、同時に配達屋は身体がぞくっと寒気を感じ自身の意思とは関係なくトラックから降りシーク達の宿の部屋にやってきた。
「やっぱり正直に謝るかにょ…。」
配達屋はシークの部屋の前で立ち尽くし考え込む。
「連れてきました〜!シークさんドアを開けてください」
シークがドアを開けると配達屋と配達屋の背後に悪霊と思えるほどの静かに微笑むノフルが憑いている。
配達屋は気まずそうに話しだす。
「実はここに運んで来る途中亡者に何度も襲われましてお客様の様の荷がトラックから落ちて亡者に襲われてバラバラになってしまいました、申し訳ないですにょ」
「配達屋の善意の心に働きかけたの」
と幽霊ノフルがシークとイルに説明する。
配達屋には幽霊ノフルの声も姿も見えていないらしい
配達屋は箱の中のバラバラのノフルをチラッと見る。
「お客様の大切な荷を傷つけてしまい誠に申し訳ないですにょ、送料は返還致しますしお届けもののお代も弁償もさせて頂きますにょ」
「お届けものの天使様はバラバラになってしっかり死んでるんだがどう生き返らせてくれるんだ」
「よくできたマネキンかと思いまして…天使様の密入国でしたか、私も法には触れたくありませんにょ、口外しないかわりに慰謝料はお支払いできませんにょ、私は生きた天使様なんて見ていませんにょ」
配達屋は背後にぞくっと寒気がはしるのを感じた。
「だが天使様の入った荷を運んだのは事実だよな、亡者対策もできないようなら誰もあんたの所へ配達頼まんぜ、それか牢屋にでも入ってくるか?」
「…」
「配達屋さん今までのやりとりバッチリ撮影させてもらったわ、世の中に映像を流されて問題になるかは配達屋さん次第よ」
シークの姉が配達屋を脅し部屋を飛び回る。
「そんな…どうにか丸く収まりませんかにょ、それに亡者に何度も襲われたのも天使様に群がる亡者の習性だと思うにょ、私だけの責任でないにょ」
「はい、私も旅費をおさえようと密入国したのは認めます。亡者被害に巻き込んで申し訳ありません。ですがあまり騒ぎを大きくしたく無いので配達料も慰謝料もしっかり貰って配達屋さんをお許ししようかと思います。とお伝えください。」
ノフルはニコッと笑う。
イルはノフルの言葉を配達屋に代弁する。
「分かりました配達料も慰謝料もしっかりお支払いしますにょ」
「シークさんイルさん私の身体を縫い合わせてもらえませんか?身体を切り刻まれた衝撃で幽体離脱してますが…大丈夫ですまだ私は生きています、お願いします」
「わかった」「OK」
シークは怪訝な表情の配達屋に事情を説明する。
シークてイルと配達屋はノフルの身体を縫い合わせていく
「うげ、吐きそう」
「まだ心臓が動いてるな…」
「…」
「あっ!そこ縫い合わせ違います!しっかり身体見てくださいよ!」
ノフルが3人を注意しながら見守る。
縫い合わせたノフルの身体は縫い合わせだらけでアンデットのような見た目だ。しかし羽は根元から抜けたままだ。
「羽以外は完璧だな!」
「これじゃ天使じゃなくて見た目アンデットだな」
ノフルの幽体が自身の身体にもどり目を開け布団のシーツを身体に巻きつける。
「よし、じゃあ次は羽を探しに行きましょう!配達屋さん襲われた場所はどこですか?」
「シークさんイルさん依頼料は配達屋さんに払ってもらいますから大丈夫です!ね、」
ノフルが配達屋にニコッ微笑む
「はい、お支払いします。」
配達屋はノフルが笑うたびに背筋がゾクゾクする。
一行はトラックに乗って配達屋が襲われた街道に到着する。
「到着したにょ、普段この街道は亡者なんか滅多にでないにょ、でるとしてもほとんど無害の亡者ばかりですにょ」
一行はトラックから降り辺りを見回す。周りはランクの低い亡者の魂くらいだ。
「羽は落ちてないな、配達屋さんどんな亡者に襲われたんだ?」
「亡者は2匹いたですにょ、Cランク程の体生再起不完全型、体が大きくある程度知能ある飛行型ですにょ」
「飛行型かスピードがあると厄介だな」
ノフルは空を見上げる。
「来るわ!私の天使の気配これは私の羽だわ!」
雲の間から1匹の亡者が急降下してくる。狙いは天使のノフルだろう。亡者の身体にはノフルのものである天使の左羽が亡者の身体の一部になっている。
シークとイルは爆弾を地面に設置し、亡者が一行に喰らい付く寸前でノフルと配達屋を抱き抱え安全地帯まで跳躍する。
亡者は呻き地面に這いつくばるが天使の羽の加護のせいか亡者の傷の回復が早い。
「亡者の傷の再生が早いな天使の羽の影響か?」
シークは鉄の爪を装備し亡者の目を裂き、イルはステッキの鞘を抜き亡者に斬りかかる。
シークに亡者の尻尾が叩きつけられ空を飛ばされてシークは体制を崩す。
亡者の巨大な牙がシークをとらえる。
「シーク危ない!!」
「シークさん!!」
シークが覚悟を決めて目をつぶるが牙は襲ってこない
シークがゆっくり目を開けると配達屋がトラックから持ってきた鉄のパイプを大きく開いた亡者の口につっかえ棒にしてシークの盾になっている。
「配達屋ナイスだ!」
イルは亡者の身体の下を潜り抜け亡者の脚と、亡者の上に飛び乗り羽を爆発させる、亡者は再び体制を崩し地面の上でのたうちまわり始める。
「早いとこ亡者から羽を切り離そう」
「ああ」
シークとイルは暴れる亡者から羽を根元から切り取り、亡者には心臓部に鉄杭を打ち込み始末し亡者の魂を回収する。
シークはノフルの身体に亡者から取り返した左羽を縫い付ける。ノフルは羽の調子を見るため左羽を動かし状態を確かめる、
「左の羽は大丈夫のようです。シークさんありがとうございます。」
「左羽は戻りましたが右羽はどこに行ってしまったのでしょう…」
「私も心当たりはないですにょ、ですが配達屋としての情報網なら自身ありますにょ、独自のルートで必ず右羽を探してみせますにょ」
「では配達屋さんを信じてみます。連絡先の交換をしましょう」
シーク達は配達屋と連絡先を交換する。
「宜しくお願いします。配達屋のココさん」
「まかせるにょ、何か情報を掴んだら必ず連絡するにょ」
シーク達は配達屋のトラックでスタンガンタウンに戻りココと別れる。
配達料、慰謝料、依頼料は後日支払われる事で合意した。
「ノフルさん良かったのか?血書契約しなくて」
「はい、私はココさんを信じよと思います。それに天使の私では善意を引き出す力は使えても血書契約なんて呪い使えませんし」
「そうか、ノフルさんはこれからどうするんだ?天国へかえるのか?」
「はあ、私当分休暇を頂くことになりまして、それにこの身体と羽じゃ…」
ノフルは遠くを見るような目で答えた。
「そうか…ノフルさんも大変だな」
「私で良ければ何かお力になれる事はありますでしょうか?」
「俺達は用事があって人間界に行くために費用を稼いでいるんだ、手伝ってくれれば助かるんだが、それに人探しには人手が多いほうが、な、イル」
「シークがいいなら俺はかまわんが」
「人探しとは?」
シークとイルは行方不明のシークの姉の事をノフルに説明する。
「なるほどシークさんのお姉さん無事だといいですね、是非私も同行させて下さい!きっと天使の私にしかできないお手伝いもあるかもしれません」
「ありがとうございますノフルさん」
シークの姉はノフルに礼を言う。
「しかし、ハントをネット配信してるとは、カッコいいですね!」
「もちろん今日のハントも投稿予定です、ノフルさんもしっかり映ってますよ」
シークの姉がノフルの周りを飛び回る。
「これって天国でも閲覧できるんですかね、私の姿見られたくない人もいるのですが…」
「誰もノフルさんを天使だとは思わんだろ、」
「鏡みろよ」
「私を見かけで判断しないで下さい!私はアンデットではありませんから!」
ノフルはぷんぷん怒っているがシークとイルはノフルをアンデットアンデットとからかい笑ってはしゃいで踊ってみせる。
「はぁ、シークさんもイルさんも良い人そうですが所詮地獄の鬼なのですね…」
「まあ良いでしょう実名は困るのでお好きな偽名で呼んでください」
「じゃあフランケンのフランだな!」
「腐って乱れるで腐乱だな!ナイスネーミングだ!」
「はいはい、その呼び名で結構ですシークさんイルさん改めてお願いします」