59話 刑事と違法取引
「そういえば清流達はどうしたんだ?」
魔術通りに向かう烈華の運転する車にのったシークが烈華にたずねる。
「清流さん達はこの前の慈善グループ制圧の後処理で忙しいみたいでしたのでシークさん達は私の家に来てもらったんですよ」
ふーんとシークは相槌をし、車外に目が止まる。場所はちょうど清流の実家の小川家付近で川と田畑が広がる。泰徳が橋の上にいる。
「あれ?泰徳じゃないか?」
「本当だ!でも今は用は無いよね行こう…」
魂を導く者でなくほぼ初対面の泰徳に対して本当は仲良くなりたいがきっかけとか話題が続くか自信がなかった。魂を導く者さんが泰徳さんだったら良かったのにと思っていた。
泰徳は烈華の車の前方から走って近づいてくる。シークと烈華は泰徳と目が合い泰徳は車の窓をドンドンと叩くので烈華は窓を開ける。
「助けてくれ!シーク、魅魂さん!刑事に追われてるんだ!」
泰徳の視線に目を向けると若い私服を着た女が歩いて近づいて来る。
「警察に追われてるんですか?小川さん無実なら話せば分かるはずです」
「違うんだ俺は何もして無い!ただ交際を迫られてるんだあの女の刑事に、断ったら俺を殺して私も自殺するって…乱雨舞も捕まってしまって…」
「大気に眠る氷結の貴婦人よ我が愛する人を捕らえよ」
女の刑事が術を発動する。女の方から水龍姿の乱雨舞が泰徳目掛けて襲ってくる。乱雨舞の体は徐々に氷となり固まり迫る。
「泰徳!」
「小川さん!」
シークと烈華は何もできないまま叫ぶ。
◇
私の名前は菜々野彩花、刑事である。私は慈善グループ制圧の任務に参加し、ある男性に恋をした。
制圧完了後、地元の盟主の小川止水氏の屋敷に集まり会議を重ねる。
そんな時会議の休憩中トイレに行く為屋敷の縁側を通った時恋をした男性に再会をしたのだ。
「あの、私の事覚えてますか?昨夜は危ない所を助けてもらってありがとうございます」
「ああ、多分人違いだろ」
泰徳が答える。
「いいえ確か貴方でした!私は刑事の菜々野彩花です。お礼がしたいのでお名前お聞きしても大丈夫でしょうか」
確かに暗がりで顔はおぼろげだがこの男性に間違いない。ハズ…。
「刑事さん?今俺忙しんでお礼とかそんなの要らないで気にしなくて大丈夫です」
泰徳は彩花に軽く首を横に振る。
「宮さん!乱雨舞!楽しそうですね!俺も混ざって良いですか」
「良いよー泰徳!」
「泰徳おいでおいでー」
泰徳は縁側から立ち上がり庭で式神の水龍と遊ぶ外国人女性に呼びかけ、走って行ってしまう。
私は恋をした男性の泰徳と宮が楽しそうにはしゃぐ姿を見て唇を噛み締める。
「…私の方が可愛いのに、名前位教えてよ」
私は、ふと確か恋愛成就の法律違反の方法の術を使う女を思い出した。見逃す見返りに私に都合の良いように協力をするよう脅していた。確かお印様と言う女。
私は小川家から帰宅する前、魔術通りにある木蓮璃子の店にはいる。
店内に座る赤いヴェールの女、木蓮がたずねる。
「菜々野刑事さん?私を捕まえにきたの?」
「いいえ、仕事の依頼に来たの、貴女、式神のサキュバスの力を利用した恋愛成就の術が使えたわよね、強力なのをお願いしたいの」
「わけは聞きません。左手を」
木蓮が私の左手に術をかける。手のひらにはハートの弓矢を持つ天使が赤く光り、小指からは赤い糸が垂れている。
「確かこの印がある左手で握手すると良いのね、結果次第では良きに計らう約束するわ」
私は木蓮の店を出て自宅に向かう。その様子を見ていた同僚の御ニ蒼太に気づく事は無かった。蒼太は木蓮の店に入り彩花と同じ術をかけてもらい分析を秘密裏に進める。
私は次の日は非番を利用し泰徳の事を調べ上げ小川小春宅に忍び込む。
泰徳は自室で眠っている。私は泰徳にそっと近づき顔を見つめ布団を剥がし手を探す。
私は泰徳にかぶさり左手で泰徳の右手をゆっくり合わせよとした。私は鼻息があらくなり口からもハアハアと吐息とともによだれがたれさがっていた。
よだれが泰徳の顔に垂れ落ち、泰徳が目を覚ます。状況を理解するため沈黙するが、彩花の顔を見て泰徳が口を開く。
「何だ気持ち悪っ!」
「ハアハア…小川泰徳、貴方は必ず私を好きになる…他の男達みたいに私の虜になりなさい、ふーぅ」
「泰徳!危ない!」
乱雨舞が霊力の異変に気付き彩花と泰徳の手のひらの間に入る。乱雨舞は赤く光、胸に赤いハートに矢が刺さった印が浮き出ている。
「乱雨舞!?」
「ちっ、小賢しい式神ね」
「泰徳ごめん、ぼくは彼女が好きになったから…彼女の味方しかできない」
「まあいいわ、この式神を返して欲しければ私と恋人になりなさい」
私は泰徳の式神を抱きしめ優しく撫でる。
「あんた、ろくな恋愛してないな。まあそんな性格ブスじゃ皆んな逃げていくんだろうな」
「こんな屈辱はじめて、分かった貴方を殺して私も死ぬわ」
「水の精霊よ泰徳をとらえよ」
乱雨舞は水龍になり泰徳を体に閉じ込め溺れさせる。泰徳はもがき苦しむ。
「泰徳逃げて…助けをよぶんだ、うぐっ」
一瞬意識を取り戻した乱雨舞が泰徳を解放する。
「この恋愛成就の術で意識を一瞬でも取り戻せるなんて大した式神ね、まあ時間の問題だけどー」
「くそ!逃げるしか無いのか」
泰徳は自室の2階から飛び降り清流と止水がいる屋敷に自転車で向かう。
自転車は小川止水邸にたどり着く寸前の橋の上で操られた乱雨舞の攻撃と彩花の式神の氷の精霊に壊されてしまう。
泰徳は走り、前方に烈華が運転する車を見つけ烈華とシークに助けを求める。
◇
「大気に眠る氷結の貴婦人よ我が愛する人を捕らえよ」
女の刑事が術を発動する。女の方から水龍姿の乱雨舞が泰徳目掛けて襲ってくる。乱雨舞の体は徐々に氷となり固まり迫る。
泰徳は氷の乱雨舞に絡め取られ苦しそうにうめく。
「ココさんとネシアさんは危ないから車にいて!」
烈華とシークは車から飛び出る。
「鬼火」
シークは鬼火で泰徳を捕らえる氷を溶かす。
「うわーー!!」
烈華は鬼人化し彩花に突っ込んで行く。
「貴女、隙だらけよ」
彩花も鬼人化し烈華の攻撃をひょいひょい避け烈華の急所を確実にダメージを与える。
烈華は倒れ這いつくばる。
「何?もうおしまい、もしかしてあんたもあの泰徳って男が好きなわけ?顔に書いてあるわ」
「そうよ!好きだからこそ貴女が分からない…それに貴女警察の人なんでしょおかしよ」
「ちっ、貴女の事も少し調べたわクズはクズらしく死になさい」
蒼太は烈華にとどめを刺そうとする彩花の腕を背後から羽交締めにし左の手のひらを掴み解除術を発動させる。
「解!!」
彩花の左手から霊力で練られた多数の赤い糸がブチブチっと切れる。
彩花の氷の精霊の式神は恋愛成就の術で強制的に使役されていたようで術から解放されると、姿をけした。
乱雨舞も彩花からの支配下から意識を取り戻し鬼火で氷が溶け自由になった泰徳にまとわりつく。
「菜々野彩花刑事、違法取引及び法律違反の呪術使用の罪で逮捕状がでている」
「前から噂があった、お印様と呼ばれる女の力を借り複数の男性と交際関係にあったみたいだな」
「そんな…私は…愛が欲しかっただけ」
彩花は警察の車で連行される。泰徳は凍傷を負った為病院に向かう。
「烈華ちゃんが無事で良かったよ、ゲームでも現実でも大切な友達だから」
蒼太は残り烈華に話しかける。
烈華は心があったかくなり優しい気持ちになった。友達って言われ素直に嬉しかった。
「何か困った事があったらいつでも言って大丈夫だよ、俺もねこねこ輝く目力同盟だから」
「蒼太さんさっきお印様って言ってましたよね、実は…」
烈華は蒼太に天使のノフルの右羽の事を話す。
「そだったのか、俺はお印様の捜査担当の菜々野を調べる過程でお印様の術を解除する術を得とくした、何か役に立てるかもしれない、同行しよう」
「ありがとうございます蒼太さん」
烈華と蒼太はそれぞれの車で魔術通りのお印様の店を目指す。




