5話 シークとイルとトリミング
シークが宿屋での朝食中にイルが現れ声をかける
「おはようシーク」
シークの前にわたあめ姿のイルが現れる。昨日の地獄業火暗黒沼で貰ったミラクルジュースの影響だ。
「おはよ…って、イルまだわたあめなの!気に入っちゃったか?」
「くすくす」「なにあれ可愛い」
他の客達の笑い声にイルは多少敏感になりながら朝食をとりつつ話しを続ける。
「今日はトリミングに行く予定だから仕事はOFFな
」
「おう、了解した、暇だし俺もついて行っていいか?」
「いいぜ!かっこよすぎてビックリしろよ」
「今の姿もキュートよ、あっそうだ!今の状況記念撮影しときましょうよ!」
「OKねーちゃん!」
「…おいおい俺は見世物じゃねーぞ」
シークは迷惑そうな表情のイルに抱きつきモフモフする。
シークの姉が2人の周りを飛び回り撮影する。
「うんうん、いい絵が撮れたわ」
「これ俺の待ち受けにしよう!」
シークは満足そうに端末を操作する。
3人は朝食済ませトリミングをする店までイルについていきおしゃれな建物に辿り着く。
「もじゃ夫のイルには不釣り合いなおしゃれな店だな」
「シーク聞こえてるぞ、この店は今話題のカリスマトリマーがいて、俺みたいな人形取り憑き型発毛種の鬼に人気の店なんだ、じゃあ行ってくる」
そう言ってイルは店に入っていく。
「ねーちゃん、俺達も店の中で待ってようぜ」
「そうね、この店トリミング以外にも普通の鬼のカットもしているみたいだからついでだからシークもカットしてもらったら?」
「まあそうだな、俺も軽くイメチェンするか」
2人も店へ入って行き順番を待つ。
「いらっしゃいませ、今日はどんな髪型をご希望ですか?」
「長さはあまり変えずに黒髪にして髪先30センチはは赤のカラーを入れてくれ」
「はい!かしこまりました」
美容師は手際よくカットしカラーを入れ髪をドライヤーで乾かしていく。シークは雑誌を読み時間を潰す
「お客様後ろの確認をお願いします」
美容師が後ろから鏡を持ちシークに見せる。
「うん!ばっちりイカしてるぜ」
「うん!シーク可愛い似合ってるわ」
シークは会計を済ませてイルを探す。
「イルも終わったかな」
「きゃーっ!!」
悲鳴とともに黒い何かがシークに体当たりし同時に黒い何かがシークの体に絡まり店の外まで引きずられる」
外に出て顔を上げようやくシークは状況を確認する。シークは髪が10m程伸びた人形の髪にからだを絡め縛られている。他にも数人絡め縛られて空中や地面に叩きつけられたりしている。
「私はまた人間に捨てられたのよ!私は人間のことを愛していたのに、何度も何度も捨てられたの!なんで誰も私の気持ちをわかってくれないの!」
人形は泣きじゃくり髪を長く伸ばしうねらせる。
そこに店の従業員が2人追いかけて来て人形の側に駆け寄る。
「お客様の心中をお察しできず大変申し訳ありませんでした。せめて関係の無い他のお客様は解放してくれませんか?ほら貴方もちゃんと謝りなさい」
店の従業員の上司らしい鬼が問題を起こしたスタッフに謝罪をうながす。
「申し訳ありませんでした…」
「嫌よ!絶対許さないんだから」
人形はますますヒートアップし周りにいる野次馬達も髪で巻き付け叩いたり投げ飛ばしたりする。
そこに180cm程の背丈のサラサラした毛並みのイルが現れシークに巻きつく人形の髪を刀で切り落とし、髪の長い人形の攻撃を避けながら他の被害者も同様に助け出す。
サラサラ毛並みのイルに八方から人形の髪が絡まるりイルの体中に人形の髪が刃物の様になり突き抜ける。
「捕まえた!邪魔する奴は殺してやる」
「ヘヘッ…」
「何がおかしい、死ぬのがそんなに嬉しいか」
「私の体にはこんな攻撃ききませんよ」
サラサラ毛並みのイルは利き手に絡みつく髪を腕ごと
引きちぎり千切れた先から藁が生えて手と腕が形成される。新しくできた手で刀を握り自身の体巻きつき突き刺さる髪を切っていく。
サラサラ毛並みのイルはそのまま人形の間合いまで飛ぶ様に詰め寄り髪を根本からバッサリ切り落とす。
人形は髪が短くなると次第に落ち着きコロンと地面に転がり落ちる。
「ごめんなさい、髪が伸びると感情が爆発する事が多くて…」
「分かりますあなたの気持ち…」
サラサラ毛並みのイルが人形の手をとり体を起こす。
「お客様もしよろしければ改めてカットをさせて頂きたいのですが…どうされますか?」
店の従業員が人形に近寄り提案をする。
「はい!ありがとうございます。」
騒ぎを起こした人形は従業員とともに再び店にもどる。
サラサラ毛並みのイルはシークに話しかける
「大丈夫ですか?お嬢さん」
「ありがとうイル!トリミング行って声までイケメンになったな、なんかイメージ違うし」
「いえ、私はイルさんではございませんよ、私の名前はラッキーダと申します」
「そんなはずないよ、だってこの色の毛並みと干したての毛布みたいな気持ちいいこの匂いはイルの匂いだもん」
「うぇぇ…げぼぉぼぼぐげぇげ…」
ラッキーダと名のるイルは嘔吐し五寸釘を数本吐き出した。
「どうしたのイル!?釘飲まされたの!」
「釘は体のあちこちにあります、私は釘を打った彼らの邪念から生まれた鬼なのですが彼らの邪念が今でも強く残っていて目眩と吐き気がおそうのです」
「イル!俺がイルをいじめた奴に仕返ししつきてやる!どこのどいつだ!」
とシークはラッキーダと名のるイルを揺さぶる。
「シーク俺はここだ!誰と間違えてるんだまったく」
シークが振り返るとそこには誰もいない。
「あれ?イルの声がしたと思ったけど」
「私も聞こえたわ」
「ここだよ!ここ、ここ!!」
シークの視界の下の方に熊のぬいぐるみが飛び跳ねている、シルクハットを被りちょび髭をはやし蝶ネクタイ姿の60センチほどの可愛い熊のぬいぐるみが立っている。声はイルのものだ。
「イルなの!?」
「うそ!?イルさん!全然別人じゃない!」
「そうだよ、渋くてイカスだろ」
「じゃあこの人は誰?」
「うん?あぁ、ラッキーダさんか!この人は俺の毛並みが素敵だと褒めてくれて毛を買い取ってエクステに利用してくれたんだ!元々はワラ人形の大型の案山子に取り憑いた鬼だそうだ」
「イルさんのお知り合いの方達でしたか、生まれ変わった私はこれから人々をハッピーにするため旅に出ようとしてた所でして、それでは行って参ります」
「おう!土産話楽しみにしてるぜ!」
ラッキーダは手を挙げでこくんと頷き旅立って行った。
「イル、やっぱり毛布みたいないい香りー!」
シークは小さな熊のぬいぐるみになったイルをモフモフする。
「シーク、俺がよだれだらけじゃないか!離れろ」
「えーいいじゃん」
シークとイルはくっ付いたり離れたりしながら笑ったり怒ったりしている。まわりの通行にんはふふふっと微笑んでいる。