16話 烈華と崩れゆく日常
慈善町の一角にできた新興住宅街ひかりの月、その山沿いにできた一軒家に魅魂烈華という26歳の引きこもりの女が家族と暮らしている。住宅街ができて新しく引越してきて彼女も家族も無能力者のため慈善町の事は詳しく知らずに暮らしていた。引越してきたのは烈華が2歳の頃だ。
「れっちゃーん!お昼できたよー!」
烈華の父が2階にいる娘に呼びかける。
布団に寝ている娘の烈華は飛び起き階段を駆け下り父を責めるように口を開く。
「!!お父さん!ちゃん付で呼ばんどって!大声出さんどってや!」
近所に私が無職でニートってバレちゃうじゃんかと声には出さないが今の自身の立場を恥ずかしく思っていた。近所には同級生がいる、バレるのは絶対嫌だ。
2人はテレビをつけ会話も無く昼食をし烈華は自分の分の食器を洗いそそくさと2階の自室の篭り布団をかぶり携帯電話をいじくる。昼夜逆転している。
烈華は、フリーターを点々とし昨年の4月に自分で貯めたお金で専門学校に入学したが年下の同級生と馴染めず不登校になりすぐ学校を辞めて10カ月、小中高の同級生とも疎遠になっていた。
「あっそうだ、昨日のテレビの目を見たら呪われるデスマスク!画像は見ずに文章だけみてみよ…」
ネットの検索ボタンを押すと、画面中にデスマスクの画像が表示される烈華は慌てて画面を閉じるがデスマスクといっぱい目が合ってしまった。
さらに烈華はフリーター時代いじめられた事を思い出し烈華は落ち込む。
「なんでれっくんこんなに運がわるいんじゃろ」
烈華は外では一人称は私を使うが家族の前では自分の事をれっくんと呼ぶ。
再びネットサーフィンをはじめ烈華の目が止まる。
「不動明王生き霊返し?これ唱えたら運よくなるかな」
そうだ、れっくんをいじめてきた奴らの生き霊がついてるから不運なんだ、これを唱えれば仕返しできる。
不動明王生き霊返しは呪いの言葉なので絶対に読まないで下さいと書いてあるが烈華は今までいじめてきた奴らにざまあみろと思い声に出して唱える。
よし今日は気分がいい
「神社めぐりでもしてみよ」せっかくなので遠くの行ったこと無い神社を原付バイクで目指す。
暫くして神社につき参拝しようとお金を取り出してる最中に賽銭箱の横にご自由にお取り下さいと家内安全のお札があるのが目にとまり一枚カバンに入れる。その時持ってたお賽銭にしようとしていたお金を服のポケットにいれ、お賽銭を入れ忘れたまま鈴をならし参拝する。
参拝を終えた烈華は写真をパチパチ撮るふとカメラを御神木に向けた時怖いと感じた烈華はカメラを離し御神木を眺める。目には見えないが誰かに睨まれているような気がした。
御神木は近づくなと警告するよう不気味に揺れ音を立てる急に雨も降り出す。怖くなった烈華は家に帰る事にした。
家に帰り烈華はあるこに気付くお賽銭したはずのお金がポケットにある。
「あっ、お賽銭わすれとった」
もしかしてあの神社怒っとったんかも…。「明日にでももう一度行って謝ってこう」
その日の深夜0時ごろ烈華が布団に潜って携帯をいじって不動明王生き霊返しを何回も唱えていると向かいの家の同級生がいる家から「ごめんなさいごめんなさいれっくんごめんなさい…」と繰り返す声が聞こえてくる。烈華は不運の元凶はお前か!と不動明王生き霊返しを唱えつづける。
深夜2時頃ごめんなさいの声で烈華が寝れずにいるとヴィーンと変わったエンジン音の軽トラが向かいの同級生の家の前に止まる、決まって午前2時頃定期的にくる軽トラはなんなんだろうと烈華は窓から向かいの家を伺う。
すると向かいの家の玄関が開き同級生の父親と母親が懐中電灯を片手に軽トラに近づく姿が見えた。
「…こんな時間にいつも?」
烈華はとっさに顔をカーテンで隠す、見つかってはいけないような気がした。
朝になり頭の冴えた烈華は久しぶりの朝食をまつ「ごめんなさい」の声は聞こえなくなり変わりに可愛らしい天使の声が聞こえ始めた。
“おはよう!”
“汚いからパジャマも下着も着替えて!”
烈華は天使の言う通りに動き、天使は烈華の行動を実況をする。烈華は念願の夢だった超能力者になれたと喜び天使の声に反応する。
“それ食べちゃだめ!毒が入ってるよ”天使の声が聞こえる。
烈華のはしが止まる。
「ご馳走様」
「どしたん?れっちゃんごはんたべんのん?」
母の問いに答えず烈華は自室にこもる。
“歯を磨いて顔を洗って!”
“お風呂とトイレ掃除して汚い!”
烈華は普段しない事を天使が言うまま行動する。
“この家にはジャバウォックと陰陽師の霊がいます騙されないように気をつけて”“お父さんとお母さんは偽物です”
ジャバウォックも陰陽師もよく分からないけど、本当の両親探さなきゃ!
「うん、わかった」
烈華は家出の準備をし、リュックに荷をまとめる。
「今日のれっちゃんなんか変ね、れっちゃーん!」
烈華の母が心配して烈華の部屋に向かってくる足音が聞こえる。
“逃げて!”
天使の声しか信じられなくなった烈華はリュックを背負い2階の自室の窓から屋根をつたい地面へと飛び降り
用意していた靴を履き山へと逃げ出す。
「れっちゃーん!?」
烈華の部屋の窓から母の驚いた叫び声が聞こえるが構わず逃げる。
山の中は朝だと言うのに薄暗く足元も悪い、30分くらい歩いただろうか、烈華はリュックから飲み物を取り出し休憩する。
“逃げて逃げて、捕まると木槌で手と足の先から潰されて殺されるよ”
天使の声はおさまらない。
烈華はさらに山の奥まで逃げる。
山頂まで来た時街を見渡せる広場にたどり着いた看板に転落注意の看板がある。ふっと風が吹き烈華は背中を誰かに押された感覚がした。
後ろを振り返ると血だらけだったり頭部の一部が欠損している赤い服の女が近づいてくる。
「えっ!?」
烈華は腰が抜け、手の力だけで崖の方へ這いつくばり逃げる、地面ギリギリの所まできて目を瞑る。
ワンワンワンワン!
と、どこからともなく大型犬が現れ血だらけの女を威嚇する。
「助かりたければ俺と契約しろ、どうする?」
犬が烈華に人の言葉で話しかけてくる。
「契約するから!早く助けて!」
犬が話てくる事や話の内容も考えず烈華は助けを求める。
「俺の名前はイルだ、あんたは?」
「私は烈華よ!どこ!」
烈華は声の主を探す。
「我が魂と烈華の魂を結び血の契約を交わす、烈華に取り憑く邪悪な魂の片鱗よ姿を現し心を改めよ」
ようやく烈華がイルの存在を認識し驚く。
「犬がしゃべりよる…」
烈華の身体から黒い煙のようなモヤが抜け出し
“地獄に落ちろ烈華”と声が聞こえてくる。
「悪霊か、地獄に落ちるのは烈華じゃなくお前だ、消えろ」
そう言うとモヤは地面に溶け込み消えていく。
同時に赤い服の女も姿を消す。頭にずっと響いていた天使の声も消える。
「イルは何者なの?」
「俺は悪魔だ、契約の代償に烈華あんたの血をもらう、何、殺しはしない俺もこっちに居る連れを探さんといけんからな」
山を抜けた向こう側に詳しくはしらないが精神を病んだ人達が入所する施設が見える。反対側には街と住宅街。
「これからどうしよう」
烈火はうつむき呟く。
「家に戻ってみたらどうだ?」
「うん、天使様が悪霊だったなんて…家出したのお母さん怒ってるかな」
「家を飛び出した理由と帰る理由が欲しければ俺を理由に使えば良い、山の中で犬の世話をしてたってな」
「うん…」
2人は山を降り烈華の家に向かい2時頃に烈華の家まで帰ってこれた。
ガチャと玄関を開けて
「ただいまー」と言うと父と母が駆け寄ってきた。
「れっちゃん心配したんよ」
「どこいっとたんかいの警察に捜索願考えとったんよ」
「ただいま、ごめんなさい、あのその…この子飼いたいんだけどいいかな、山で面倒みてたんだけど大人しいいい子なんじゃけど…」
烈華は玄関の扉を開けイルを紹介する。
「くぅーん」
「イルって名前なの」
「大きすぎんか?」
「ちゃんと面倒みるし、生活リズムも仕事も探すからお願い」
「そうじゃね、イルの存在が烈華を変えるきっかけになるかもしれんね、ねお父さん」
「そうじゃのう、ちゃんと面倒みるんよ」
「ありがとう」
烈華とイルは家に入っていく。
烈華は昼食をすませ、自室に戻りイルと話をする。
「そうだな、多分今回の事は不動明王生き霊返しを唱えた事で烈華を守る良い生き霊がいなくなり悪いものが力を強めた結果だろうな」
「イル、あれからなんか色々みえるんだけどこれも悪霊かな」
烈華は自室の宙をみあげている。部屋に3人人がいるが怖さはない。
「今回のがきっかけで烈華は霊が見えるようになったぽいな」
「えー!!そんなん怖いから見えんでいいよー!」
「血を貰おう」
「血って何よ!」
「さっき契約しただろ助ける変わりに契約したはずだ」
イルはガブっと烈華の腕を噛む。
「きゃ、痛いっあっ、痛くない」
「霊脈の血だからな、痛さはないはずだ」
「そういえば連れを探してるって言ってたけどあてはあるの?」
「ない、慈善町にはいるはずなんだ匂いで探してる」
「…そう、まあ犬だしねイルは、よし!れっくんも手伝うよ!」
「頼む」




