10話 シークとイルとデジタルシスター
「この服なんてどう?メアリたんにとっても似合うとおもうよ!」
太った青年の鬼がシークにフリフリのドレスを品定めし進めてくる。
「お兄ちゃん…俺、いや私はこっちのイカした服の方がこのみですわ」
シークは棒読みお嬢様言葉で答える。
「お願いメアリたん!今日はメアリたんとお兄ちゃんがはじめてお出かけした大切な日なんだから!ねっ!」
「わかったわよお兄ちゃんこれ着るから後で沢山奢ってね」
「もちろん!可愛いメアリたんの為ならなんだって」
2人は衣装を選んで写真撮影を始める。太った青年はキラキラした表情をしているがシークは死んだ魚の目をしている。
時を遡る事1時間前、シークとイルは太った鬼の青年の母親に会っていた。
「で、依頼というのは?」
「うちの息子のコウキなんですがどうやら人間の亡者に取り憑かれたらしく除霊するには亡者の願いを叶えなければいけないらしくて…それで協会に相談したところお嬢さんのシークさんが亡者に取り憑かれた息子の妹役にぴったりだと思いまして」
「任せとけ!俺たちハンターだぜ」
「はい、お願いします。これが妹の設定資料と亡者の資料です。」
シークは亡者の資料を読みイルは妹の設定資料を確認する。地獄の鬼の世界も人間界と同じように発展し人間界にあるパソコンゲームも地獄でも同じように販売されている。
「今地獄でも人間界でも一部の層に人気なゲームで息子が人間の亡者に取り憑かれた原因でもあるらしいんです」
「何々、パソコンゲームの妹と御洒落なデートをしたり、ハグをしたり、妹の王子様になりたい!?」
「妹の方は外見はシークに似てるがシークとは真逆の清楚なお嬢様タイプだぞ、演技とか大丈夫かシーク?」
「おう!こう見えてお嬢様育ちなんだぜ」
シークは見え透いた嘘をつく
「だな!是非我々にお任せください」
「頼りになりそうなハンターさんで良かった!ではうちに案内いたします」
シーク達は家に案内され、亡者に取り憑かれたコウキの部屋の前までやってくる。
コンコン、母親はコウキの部屋のドアをノックする。
「うるせーババア!俺のメアリは今熟睡中なんだ!起きたらどーすんだよ!」
「コウキ、メアリさんを連れてきたわ、ドアを開けて…」
「コウキさん、貴方の未来私色に染めに画面から飛び出してきたの!さあドアを開けて!」
シークは台本を読む。
「むむっ、今のセリフも声もは メアリたんそのもの!」
ドアの向こうからコウキの声がして、ガチャッとドアが開く、太った青年の鬼が姿を見せる。
「…め、メ、メアリたん!本物?ら」
コウキは鼻を膨らませスーハーと興奮している。
「お兄ちゃんの願いが神様に通じて少しだけ画面の世界からこっちの世界に来れる事になったの、お礼にお兄ちゃんの願いを叶えてあげたいの」
「メアリたんデートに行きたいんだけどいいかな?あと僕の事はそのお、お兄ちゃんって呼んでほしいのら」
「うん、お兄ちゃん!どこに連れてってくれるの?」
「まずはメアリたんに可愛いお洋服をプレゼントして着てもらって写真撮って美味しい料理も食べたいし…
とにかく急ごう!」
コウキはシークの手を引いて家を飛び出す。イルと姉カメラはコウキに見つからないようあとをつける。
「着替えと写真撮影終わったようだな、シークのやつ上手く演技できてるようだな」
「次はレストランに入っていくわ」
写真撮影を終えたシークとコウキをイル達は物陰から見守る。
シークとコウキは運ばれてきた料理を堪能する。
「うわぁ!うまっじゃなかった、美味しいですわお兄ちゃんメアリ画面の外の世界来られて幸せですわ」
「メアリたんが喜ぶ顔みれて幸せなのら!僕の分もあげるよ」
「ありがとうお兄ちゃん!」
シークとコウキは食事を済まし人気のない広場のベンチに腰掛ける。
「ねえ、メアリたん僕たち結婚しないか?たとえ短い時間であっても僕とメアリたんとの絆を確かな形に残したいんだ」
コウキは小箱を取り出してシークの目の前で開けた、中には結婚指輪がきらめいている。
「…あの、お、お兄ちゃん私そろそろゲームの世界に帰らなければならないのゴメンね」
シークは困った顔しイル達を探しキョロキョロする。
場面はイル達の方へ移る
「何してんだシーク、ハグと王子様の条件を早く満たして除霊しないとあの青年と亡者の魂が融合して身体を乗っ取りだすぞ」
「イルさん、冴えない男の王子様モード切り替え作戦行きましょう!」
「あぁ、そうだな」
イルはシークとコウキに近寄りシークに声をかける。
「お嬢さん可愛いね!名前はなんて言うの?」
「メアリ」
「やっやめろ!メアリたんはぼっぐげっ」
イルはコウキを軽く小突くシークの手を掴み連れて行く
「なんだお前メアリは俺の女だどけ邪魔だ!」
「きゃー!助けてコウキさん」
コウキはイルに小突かれた箇所を手で押さえて地面に転がり悶絶している。
(手加減したのに嘘だろ、このヘナチョコ野郎)
シークはイルの手を離しコウキに駆け寄りコウキの上半身を抱き抱える。
「コウキさん大丈夫ですか?」
「メアリたん僕は君の王子様失格のようだ、だけど悪いやつからメアリたんを守りたい…僕にもっとチカラがあれば」
(チカラが欲しいか、ならば…)
コウキの頭に亡者の声が響く
「ああああ!!頭が痛いぃぁああうぐぐぐ」
コウキはポケットからナイフを取り出しシークの首元に突きつける。
「一緒に地獄で暮らそう、さあメアリたんも殺してあげる僕も一緒に死ぬから安心して」
「や、め…ろ!僕の体から出ていけ」
コウキはナイフで自身の腹を刺す、
「何故、あらがう?チカラが欲しくないのか?いや僕はこんなチカラ望んでいない!!」
コウキの体から人間の亡者の魂が抜け出る、イルは魂を回収する。
「大丈夫かいメアリたん」
コウキはシークをハグする。
「ありがとうお兄ちゃん、大丈夫?すぐ救急車呼ぶから!」
コウキは自身の血を見て青ざめた顔をしている。
「僕、メアリたんの王子様だからメアリたんは僕が守らないと」
「うん、お兄ちゃんはメアリの王子様だから、だから頑張って!」
ハグと王子様の願いが叶いコウキの体から2人目の人間の亡者の魂が抜け出る、イルは魂を回収する。
救急車が来てコウキはタンカで運ばれてシークとイルは事情を説明する。
コウキの傷は太った体が幸いして大事には至らなかった。母親も病院に駆けつけ息子と対面したあと廊下で待つシーク達と依頼の件を話す。
「シークさんイルさん除霊ありがとうございます。息子は怪我をしてしまったようですがそれでも以前のような優しい息子に戻ってくれたようです。これは依頼料です。シークさんの事気に入ったようでまたいつでも息子に会いに来てくださいね」
「はぁ、お役に立てたようで」
シークはたぶんもう来ないとは思ったが口にはださなかった。
「息子さんはたぶん人間の亡者に取り憑かれやすい優しい魂の持ち主なんでしょう、何か気になる事があったらまたいつでも呼んでくれれば力になります、あ、これ名刺です」
シークはイル余計な事するなとイルを睨んだ
「ありがとうございます。」
と母親は頭をさげた。シークとイルはそれではと言いその場を後にする。
「俺、あんなおっさんの妹とか無理だから」
「そうだな、まあ芋役者のシークには演技は向いてねーからな」
「そうかしら可愛らしい演技だったわよ是非また見たいわ」
「ちゃかすなよねーちゃん俺本当に今日は疲れたんだ」
「まあまあ、兎に角人間界に行く費用もだいぶ貯まったなあともう少し依頼を受けて働いたら2人でいけそうだぞ」
「フランはどうする?」
「あいつは天使だ地獄の鬼とは人間界に行く方法が異なるからな置いて行こう」
「なるほどな、人手は減るが仕方ないな」
シーク達は病院をあとにする。




