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06.新しい空

ピピピピッ、と目覚ましが鳴って枕元へ腕を伸ばす。


まだ眠気を感じる意識に抗って、少しの肌寒さを感じながらゆっくりまぶたを開ける。


見慣れない天井に違和感を覚えて、次第に頭がはっきりしてきて今いる場所を思い出した。


今日は四月三日。


大学の授業開始日だ。


「早く起きないと遅刻するわよ」


と、先に起きていた空に声をかけられて体を起こす。


昨夜は同じベッドで寝たのに、抜け出したのに全く気付かなかった。


流石に今日寝坊したら洒落にならないから昨日早く寝たんだけど、この部屋に引っ越してきてから一週間くらいはしゃいでたツケがまわったのかもしれない。


いやーでも、実家を出て新しい暮らしは楽しすぎるからしょうがないよね。


寂しそうなかなを置いてきたのは若干心苦しかったけどまあしょうがない。


どっちにしろ実家からは通えない距離だし。




朝の支度を済ませて窓の外へと視線を向けると、桜が綺麗に咲いている。


春だなぁと思いつつ、新生活の始まりに少しだけ心がけ踊った。


腰を下ろしてテーブルの向かい、テレビを見ている空と二人で一緒の新生活だ。


2LDKの部屋は、一人用の部屋よりは家賃が高いけれど二人頭で割ると一人部屋を二つ借りるよりはお得で。


テーブルの上に並ぶセットで買ったコップが少しだけくすぐったい。


そしてこの状況を大学で知り合うであろう友人たちにどう説明しようか今から悩ましい。


まあ元から話しておけば、別の方向の心配はしなくて済むかもしれない。


俺には縁無い話だけど、空は結構モテる方だし。


まあどっちにしても要相談だなと思いながら朝食を済ませる。


入学式は先日済んでいて、今日は授業の一日目。


といってもオリエンテーションだけだけど。


しかし私服で登校するという行為に違和感を覚えている俺と違って、空は格好がきっちり決まっている。


入学式で見た空のスーツ姿は良かったなあ。


クローゼットに吊るしてあるし、また今度着てくれないだろうか、なんて話は置いておいて。


スマホを見ると一日早く大学が始まった一郎から、登校初日の感想が送られてきていた。


学食が広くて美味いとか、羨ましいけどもっと他に何かなかったんだろうか。


まあでも、うちの大学も学食は美味いといいなあ。




二人で部屋を出るために玄関で靴を履いて、鍵を開けようとしていた空に声をかける。


「空」


「なに?」


振り返った空に、一歩前に踏み出して唇を重ねた。


もう何度目かも覚えていない、だけど未だに幸せを覚えるその感触に満足して体を離す。


「なによ急に」


少しだけ顔を赤くして、俺の不意討ちに照れながら空が抗議の声をあげる。


「嫌だったか?」


「そんなわけないでしょ」


それを否定した空が、お返しと言うように今度はあちらから唇を重ねてくる。


「でも、外ではやらないでよね」


それはとても魅力的な誘惑だったけれど、今は我慢しておこう。


「善処する」


俺の考えていることはきっと全部空にはお見通しだろうけど、それでもそれ以上の追求はなくドアを開けて二人で部屋を出る。


「どっちが鍵かける?」


「んー、じゃあじゃんけんで」


「それじゃ、じゃーんけーん、ぽん」


俺がグーで空がパー。


よく考えたら買った方と負けた方、どっちがやるか決めてなかったけど、たぶん負けた方でいいだろうと推測して俺が鍵を取り出す。


それを鍵穴に差し込んで、ちゃんと手応えを感じながらガチャリと捻り、一回ドアノブを捻って鍵がかかっていることを確認する。


うん、これでよし。


「ねえ翔」


「うん?」


「これからも、よろしくね」


「こっちこそ、よろしくな」


「うんっ」


雲ひとつ無い春の空はどこまでも高く。


マンションの階下には咲き並ぶ桜と雀の鳴き声。


珍しく素直な空の返事は、澄んだ空気の晴れわたる青空に溶けていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 完走おめでとうございます。 最後まで読めてよかった。。 ありがとうございました。 何時も思うけど、異世界でない ハーレムものは、結ばれないイイコ達が 可哀想だな~。サブキャラのいい奴と 結…
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