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05.幼馴染み、登校

「なにしてんの?」


と呆れた声が横から聞こえて視線をあげる。


それと同時にあごの下を撫でられた猫が「にゃー」と気持ち良さそうな声をあげた。


「猫撫でてる」


「それは見ればわかる」


じゃあなにを聞かれているのかと言えば、朝から空の家の前で待っていた理由だろう。


普段は空より遅く起きるどころか空が家を出たあとに起きるくらいの俺が、空の登校時間にあわせてこんなところに待っていた理由はひとつ。


「猫が寝てたから遊んでた」


「殴るわよ?」


「動物虐待ダメ、ゼッタイ」


「じゃあ人間なら殴ってもいいわね?」


人間虐待もダメ、ゼッタイ。


なんてまあ冗談は置いておいて。


「お前を待ってたんだよ」


「どうして?」


「最近起こしに来ないから、ひとりで起きなきゃいけないことに文句を言おうかと思って」


今まではちょくちょく起こしに来ていた空がうちに来なくなった理由はわかりきっているけれど、だからといってはいそうですかと変わってしまったことを受け入れる気はなかった。


といっても心の準備が必要だったので家の中ではなくここで待っていたんだけど。


「なあ、空」


声をかけながら視線を上げると、空の微妙な表情が見える。


「なによ」


「こいつ連れてっていい?」


持ち上げた猫が空の方を見ながら「にゃー」と鳴き声をあげた。


「元居たところに返してきなさい」


捨て猫を拾ってきた子供に対する台詞みたいなことを言う空。


学校に連れてったら絶対人気出るのに。


まあそのあと俺は先生に滅茶苦茶怒られるだろうけど。


「じゃあまたなー」


持ち上げていたのを下ろして立ち上がると、起き上がって尻尾をくるんとさせながら去っていく猫を手を振って見送る。

「しょうがねえ、学校行くか」


本当はこのまま家に戻って空が来る前に撮った猫の動画を見返したいけど、しょうがない。


はぁ、猫と戯れてるだけでお金もらえる仕事とかねえかなあ。


ちなみに犬でも可。


「ところで翔」


「どうした?」


「あんた今日体育あるわよね?」


「そうだな」


今日の三時間目は体育の授業で、お昼を食べたあとに眠くなりそうな日程だ。


「ジャージ持った?」


「…………、取ってくる」


「まったく、ちょっと変わったかと思ったら相変わらずね」


呆れたように笑う空を見て、俺も少しだけ嬉しくなったのは秘密。




家に戻って運動着を取り、再び外へ出て空と並ぶ。


「空と登校するの久しぶりだな」


あいだになんやかんやあって、空とこうして朝に並ぶのは久しぶりな気がする。


「言っても一週間ぶりくらいでしょ」


「そんなもんだっけ?」


「だって前もジャンプの発売日だったじゃない」


思い返してみると、たしかに先週の月曜日に一緒に登校していたんだった。


「ホームルームギリギリなのにコンビニ寄らせろってうるさかったわよね」


「あの時はどーしても最新話が読みたかったんだよ」


結局諦めて、学校に持ってきてたクラスメイトに読ませてもらったんだけど。


「そんなに読みたいなら電子書籍で定期講読したらいいのに」


「毎週0時に更新されたらそのあと寝れないだろ」


もし配信されたら読まなきゃ気になって寝れないし、読んだら盛り上がって寝れないのが目に見えてる。


しかし、まだ一週間しか経ってなかったんだなぁ。


それがもう随分前のことに感じる理由は、考えるまでもないけど。


「しかし体育だるいなー」


運動着を取りに戻ったせいでつい意識してしまうのは体育のこと。


やるのは体育館か校庭か、どっちにしても汗だくになるのは確定である。


「いいじゃない、運動苦手な訳じゃないでしょ」


「苦手じゃない=嫌いじゃない、じゃねえんだ」


「でもクラスの子のジャージ姿が見れて嬉しいんでしょ?」


「そんなわけないだろ」


なんて言ってみてもバレバレなんだろうけど。


いや、ほのかの胸の主張が激しいうえに最近は授業中も距離が近いのが悪いんです……。


なんて責任転嫁は流石に失礼かな。


反省。


「しかし汗だくになるのがなあ」


正直疲れることよりも、夏の暑さに蒸されながら運動することの方がやりたくない理由の上位にある。


「この前あげたスプレー使えばいいじゃない」


そのスプレーというのは前にもらった制汗スプレー。


たしかにアレを使うと多少マシになるけれど、なんて思っていると横から風が吹いて爽やかな香りを感じる。


「なんかいい匂いがする」


「昨日暑くて寝てるときに汗かいたから、朝にシャワー浴びてきたせいじゃない?」


言った空の短い髪が風になびき、たしかにそこから香りが運ばれてきている。


(なんかえろいな……。)


「あんた今、朝にシャワーとか浴びるなんて女子みたいなことするんだなって思ったでしょ」


「思ってねえよ」


こんな見当違いの予想をされるなんて珍しい。


いや、伝わっても困るんだけど。


「そいや、明後日までの英語の宿題もう終わってるか?」


「もちろん」


「じゃあ写さ……」


「駄目に決まってるでしょ」


ですよねー。


知ってた。


「というわけで今日は空の部屋行くから」


「別にあたしの部屋じゃなくてもいいでしょ?」


「たまには自分の部屋以外で勉強したいんだよ」


「ついこの前もあたしの部屋に来たじゃない」


「それはそれ、これはこれ」


本音を言えば空が俺の部屋に来るより、俺が空の部屋に行きたい気分なだけなんだけど。


「……、しょうがないわね」


呟いた言葉が、なぜだかとても嬉しい。


その気持ちを本人に伝えることは、まだできないのだけど。


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