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03.会長、お手伝い

「やっとお目覚めか?」


目を開けると、クラスメイトの一郎(いちろう)に声をかけられる。


ホームルームを聞きながらいつの間にか寝ていたようで、周りはもう立ち上がって各々に帰る準備をしていた。


時間にしたらたった数分寝てただけなのに随分と長い過去の夢を見て、ごっそりと体力を持っていかれてしまって気力がわかない。


まあそれでも、あとは帰るだけだし家に帰ってからベッドでゆっくりしよう。


「部活見てくか?」


「断る」


「ちょっとくらいいいだろ? 先っちょだけ、先っちょだけだから」


「いやだよめんどくさい」


というか気持ち悪い。


いや、根はいい奴なんだけどな。


「ちぇ」


ちなみに一郎は野球部で、甲子園を目指している高校球児だ。


ポジションはキャッチャー、打順は四番。


「それに今更部活って時期でもないだろ」


同じような話をつい先日、(そら)ともしたけど。


「そんなの関係ないって」


なんて言う一郎をテキトーにあしらって部活へ行かせ、俺も帰る準備を済ませて教室を出た。


ひどい夢を見て重い頭を引きずりながら、階段を降りて廊下へ進み、進行方向に今一番見たくない顔が見えて表情が固まる。


こちらへ歩いてくるその姿は、まだこちらに気付いていないようだが、それもあと数秒のことだろう。


後ろに引き返すか考えて、それじゃ後ろ姿が見つかるかもしれないと思い却下する。


時間的にも思考力的にも余裕がない状況で、目に留まった近くのドアを咄嗟に開けて中に入り込んだ。


後ろ手にドアを閉めて背中を預け、安堵の呼吸を漏らす。


ふうっと息を吐いて落ち着いて薄暗い部屋を見ると、部屋の奥の人影に気付く。


そこには長髪の美女が座っていた。


「はじめまして、お客様かしら」


綺麗な黒髪を真っ直ぐに流し、利発そうな整った顔立ちに薄く笑ってこちらを見つめる。


タイの色を見るにおそらく三年生だが、それ以上に大人びて見えた。


「ここ、なんの部屋ですか?」


その質問は部屋に入っての第一声としてはだいぶおかしいのではと言ってみてから思ったが、女性は嫌な顔ひとつせずに答えてくれる。


「生徒会室よ」


ということはこの人は生徒会役員か。


いや、記憶にないけど多分生徒会長だろう。


なんとなく見た目が生徒会長っぽいし。


向かった机の上に置かれた書類の束を見る限り一人で生徒会の仕事でもしていたんだろうか。


とにかく、人が大勢いるよりは好都合だったかもしれない。


「ちょっとここに身を隠させてもらっていいですか?」


「相手は先生かしら?」


「いえ、相手は友人なんですけど、ちょっと顔を合わせたくなくて」


「なら少しだけ、ここに居ていいわよ」


「ありがとうございます」


お礼を言ってゆっくりと息を吐き沈黙が訪れる。


……気まずい。


話しかけるような話題もないし、スマホ取り出すのもアレだし、かといってまだ外には空が残っているかもしれないし。


その微妙な空気を悟ったのか、会長(推定)がこちらを見る。


「よかったら、プリントの整理を手伝ってもらっていいかしら?」


「ええ、もちろん喜んで」


そこでやっと入り口の戸から背中を離して奥へと進む。


会長が立ち上がって棚からプリントの束を取ると、その高い身長と黒いストッキングに包まれた引き締まった脚に視線が吸い込まれる。


俺より少し低いくらいで、おそらく175センチくらいある身長と綺麗な長い脚。


それに冷静になってみると胸も相当大きくて…………、なんて感想をもったところで思考を止めた。


これ以上は失礼だしやめよう、それに部屋に居させてもらってる身なんだし。


というかこの邪な感想を見透かされたら恥ずかしすぎて切腹ものだ。


「じゃあこれを。……、そういえば名前をまだ聞いてなかったわね」


川上(かわかみ)です」


立科(たてしな)美賀子(みかこ)よ」


「生徒会長ですか?」


俺の質問に立科さんが目を丸くしたあとに、おかしそうに笑う。


「ええ、そうよ。この学校の生徒会長」


やっぱり生徒会長だったか。


「それじゃあよろしくね、川上くん」


「はい」


頼まれた仕事は単純なもので、プリントを学年と性別順に分けるというもの。


六分割は紛らわしいなと思ってまずは男女で二種類に分けていく。


男、男、男、女、男、女、女。


男、女、女、男、女、女、女。


二分割でも数百枚の紙を分けていくと、途中で頭がこんがらがりそうになりながらもなんとか無事完走して、学年別に合わせてまた分ける。


左から順に一年、二年、三年。


一年、二年、三年……。


たまに一年と三年を間違えそうになりながらも、こちらもなんとか問題なく終えられた。


「終わりました」


「あら、早いわね」


なんて感心した様子は、ただのお世辞だろう。


「他に出来ることありますか?」


「そこまでしてくれなくてもいいのよ?」


「どうせまだ帰れませんから」


まだ残っているかもしれない空に遭遇するよりは、ここで手伝いをさせてもらった方がありがたい。


「じゃあ私の肩を揉んでもらっていいかしら?」


「えっ!?」


肩を?あの巨乳を支えているあの肩を?そんなこと許されていいのか?買ってもいない宝くじが大当たりするような幸運を享受していいのか?


「ふふっ、冗談よ」


「…………」


完全に俺の反応見て楽しむために嘘ついたよこの人。


というか実際童貞丸出しの反応だったよ。


もうやだしにたい。


落ち込む俺をよそに、別のプリントを用意した会長からそれを受けとると、ポケットに入れておいたスマホがぶるっと震えた。


プリントを置いてスマホの通知欄を見て、そのまましまう。


「返事、しなくていいの?」


「大丈夫ですよ。居なければ勝手に帰りますから」


それに毎日示し合わせて一緒に帰るほどの関係でもない。




それからもう一山プリントの整理を終えて、今度こそお礼を言って帰る準備をする。


「今日はありがとう、川上くんのおかげでずいぶん助かったわ。そうだ、お礼にジュースでも奢りましょうか」


「時間潰しに場所を貸してくれただけで十分ですよ」


「そう?」


「はい。それじゃあこれで」


もう流石に空も帰っただろう。


まだ仕事が残っている会長を残して生徒会室をあとにする。


もうちょっと手伝ってても良かったけど、場所を貸してもらった借りを超えて過剰に手伝うと下心が見透かされそうでやめた。




ほとんど人のいなくなった校舎を出て帰り道を歩く。


夕日に目を細めながら、横断歩道の前で赤信号を待っていると、後ろから声をかけられる。


「せーんぱいっ」


声と同時に抱きつかれて、背中に荷重と柔らかい感触が加わった。


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