2、ショコラスクランブル
ショコラスクランブル
神山七
ある意味、2月13日が一番の勝負なのかもしれない。
「秀介、知ってるか?1組の前田さんまた男振ったらしいぜ。」
「あ、へえ。」
「もてるんなら彼氏くらい作っとけよな。玉砕する男子がかわいそうだ。」
「そうかもな。」
「なんだ。お前?元気ないな。なんかあったのか?」
「いや、別に。」
「今日の秀介君、なんか元気ないよね。どうしたんだろう?」
「わからないよ。玲、聞いてきてよ。」
「私?無理だよ。一回も話したことないのに。千夏ちゃんが言ってよ。」
「まあ、倉橋君に勘違いされちゃまずいもんね。」
「うるさいな。もう。」
「お前、前田に告ったんだって?」
「ああ、端から話聞いてねえ。」
「わかってたことだろ。俺らごときじゃあいつは無理だって。」
「啓太も俺が失敗したら行くって言ってただろ?」
「止めだよ。そんなこと聞いちゃ無茶だ。」
「前田、またふったんだって?」
「えー、感じ悪っ。モテます雰囲気出したいだけでしょ?」
「ねー。それよりあんた、倉橋はどうなのよ。」
「チョコは渡してみるよ。ダメもとだけど。」
「あんたならいけるって!ファイト―。」
「秀介、噂好きの女子って自分で品位下げている感じがするよな。」
「ああ、できるなら関わりたくないね。」
「だよな。チョコもあいつらからはいただけないわ。」
「だけど、倉橋、好きな人いるんならそいつからだけを狙えばいいだろ?」
「大谷さんな。全然関われないし別の奴なんだろ。」
「なんだよ、悲観的だな。」
「リーが倉橋行くなら私齋藤狙おうかな。」
「えー、秀介君?でも、ユンならいけるかもね。」
「でしょー。今年は一本釣りで行こうっと。」
「今の聞いた?玲。あんたやばいよ。」
「でも、逸見さんとなんて張り合ったらいじめられるよ。」
「だから、秀介君を仲間にしなって。」
「無理だよ。」
「秀介、お前には好きな奴いないのかよ。」
「好きなやつ?話さない。」
「は?言えよ。友達だろう?」
「秘密なものは言わないよ。」
「なんだよ、乗らないな。」
放課後。明日に向けて思惑が交錯する。
「じゃあ、大谷さんと斉藤君ゴミ出しお願いできるかな?」
「あら、残念、玲。」
「べ、別に残念とかないし!」
「どうせだから情報収集でもすれば?」
「え、あ、頑張ってみようかな……」
「秀介ずるいぞ。」
「代わるか?」
「部活だ部活。手出すんじゃねえぞ。」
「ねー。倉橋。あんた部活?」
「川崎か。そうだけど?」
「ふーん。ねえ、あんた明日空いてる?」
「学校だろ。」
「放課後よ。」
「……空けときたいから無理。」
「どういうことよ。」
「そういうことだ。」
「どうしたのリー?」
「倉橋無理かも。」
「そんな簡単にあきらめるなよ。」
「ユンは秀介くん行くの?」
「ガツンとつってくるわ。」
「いいなー頑張って。」
「リーも粘りなー?」
「あ、あの秀介君。」
「何?」
「倉橋君は甘いもの好き?」
「ははっ。ああ、好きだと思うぜ。」
「そっか。うん、ありがとう。」
「喜ぶぜ、きっと。」
「秀介君の分も作るよ。」
「要らないよ、倉橋に全力そそぎな。」
「前田さんも、誰かにあげるのかな?」
「でも、今まで一回も聞いたことないぞ。」
「それは去年までだろ。今年になったらあるかもよ。」
「俺らじゃないだろ。」
「そうだよなあ。」
運命の日。どこもかしこも大舞台。誰が笑顔でいられるのだろうか。
「倉橋!」
「川崎か。なんだよ?」
「チョコだ。やるよ。」
「ふーん、ありがと。」
「その、放課後やっぱ空いてない?」
「……空かないな」
「そうよね、そっか」
「なんだよ、倉橋のやつ。」
「あいつごときで振るとかないだろ。」
「生意気だわ。」
「そういえば、前田さんは?」
「玲、チョコ渡さないの?」
「でもでも、どうやって。」
「そんなのバーンといって、バーンよ。」
「無理だよぉ。」
「放課後呼び出しとくから、頑張りな。」
「齋藤、チョコあげる。」
「甘いものは嫌いなんだ。」
「甘いこと言ってるんじゃねーよ。」
「嫌いなものは嫌いだ。」
「うるせー。置いとくからな。」
「好きにしろ。」
舞台はグランドフィナーレを迎える。それは、暗転へのカウントダウン。
「倉橋のこと、ダメだった。」
「私もだよ。ツキがないのかな。」
「うまくいかないな。」
「次、頑張ろうよ。」
「ツキがなけりゃ次があるんだね。」
「そういうこと言わないの。」
「やっぱ前田さん、誰にも渡してないって。」
「そりゃそうだろ。まだ期待してたのか?」
「だってこの前一緒に机運んだし!」
「小さいな。そんなもんで期待すんな。」
「あ、大谷さん?」
「ごめんね、呼び出しちゃって。」
「全然、どうしたの?」
「これ、チョコもらって!」
「うわ、ありがとう!」
「その、倉橋君。」
「ん?」
「好きです。」
今年も幕引き。浮ついた気持ちも足をつける。
「遅いわね。秀介。」
「これくらい許せ。」
「チョコなんかもらってないわよね。」
「押し付けられたのが一つ。」
「ふーん。私からは特大のが一つ。」
「お、いいじゃねえか。光。」
「下の名で呼ばないで。」
「前田。」
「ええ、ゆっくり味わいなさい。」
「サンキュ。」
その足は、確かに自分の居場所に立っている。