その名を誰もが知らないけれど、それを誰もが知っている
拳を握る……
焼き落とした爪先の、ザリリとした感触を憶えつつ……
……両の拳を合わせ……視線を走らせる…………
……辺りの人間が……己が望み通りに動く事を願いつつ…………
そして自分は……言葉を唱えた…………
「いっせーのーでっ、二っ」
◆◆◆◆◆◆◆
事の起こりはちょっと前。
傾いた馬車を遠目に望みつつ、ただただやることもなく、ボーッと待たされている最中……
「――ベヒーモスの方って、どんな暇潰しをなさっているんですか?」
いい加減退屈が募りきったのか、マクファーソンさんからお尋ねが。
……う~ん……ベヒーモスの暇潰しねぇ…………岩の遠投……殴り合い……器物破損……
……いゃ…………コレはちょっと…………ねぇ……
「……あの~~前世のでよろしければ…………おそらく誰でも知ってるけれど、その正式名称はおそらく誰も知らない遊びというのが……」
「……なんだそのけったいな遊びは……」
いやごもっともで……バーヌさんから突っ込みがいらっしゃいました。
「いや、そんな難しい遊びじゃないですよ? 先ずこうやって拳骨を握りまして……」
「……ゲンコツ……?」
「あっ、えっと拳っ! 拳を握りましてっ!」
その疑問の声は押し流させていただきますっ! だって何でゲンコツって言ってたのかなんてわかんないもん!!
「で! 拳を合わせてっ、何人かでっ
それで……いっせーのーでっ三っ!
こんな感じで、全員の親指を立てた数を当て合う遊びでしてっ」
「正に暇潰しって遊びですねぇ」
「道具いりませんからねぇ」
「じゃあちょっとやってみましょうか。皆さんどうされますか?」
「そうさのぅ……」
「まぁ……暇ですからね……」
シヨルラさんの方を見ると、コクコクと頷かれた。
そしてシスターさんはカタカタ震えてプルプルと首をお降りになられていた……まぁ……ですよねぇ……
「ハンッ、ベヒーモスと一緒に遊び事など気が知れんな」
「まぁ負けるは恐いでしょうからねぇ」
「ハァ!? そんなわけないだろ! いいだろう完膚なきまでに叩きのめしてやる」
なんかデュランさんまで参加する流れに。でも暴力じゃないですからねっ! リアルな意味で叩きのめさないでくださいねっ!
というわけで、シスターさんを除いた五人+ベヒーモスで、車座になってゲームを開始した。
そして何セットか勝負を重ね……
…………あんまり勝てない!!!!
シヨルラさんはポーカーフェイスだから強いかなぁって予想は付いてたけど、それにも増してコフランさんが異様に強い!!!! ふむ、ほうほう、成る程などと、言葉で揺さぶってくる!! 挙げ句には手にグッと力を込めて、上げようとしている風に見せかけるブラフまで!!!!
そんな有り様を遠巻きに見ている野次馬の方の中から声が……
「一体何をやってるのかしら……」
「きっと悪魔の儀式よ……」
……酷い言われ様だなぁもぉ……まぁ確かに傍から見たら、相当珍奇な光景だろうなぁとは思うけど……