弓使いの心の色
‥‥その優しさは報われてほしい‥‥‥
シヨルラが故郷で父と暮らしていた頃‥‥自分の行いは、良いことも悪いことも、全て自分に返って来ていた。
‥しかし隣国の軍に拉致されたその時から、全てが一変した‥‥
‥‥‥解ってる‥‥ 最悪ではないことは、今では‥‥
渡る奴隷商人が違えば、売られた国が違えば‥ もっと‥‥酷い目にあっていただろうという事は‥‥
‥‥それでも‥‥‥
生まれた国の違い‥‥ たまたま就いた仕事の後ろ盾‥‥ 生まれた家柄や裕福さ‥‥
自分の手柄でも無いものを笠に着た者たちに‥‥
理不尽に搾取され‥‥‥ 自由を奪われ‥‥‥ そして蔑まれた‥‥‥
‥‥まるで家畜か何かの様に‥‥‥
でも‥ギネッタは‥‥ 怪我をしてまで‥‥助けて‥くれた‥‥
‥‥対等に‥‥見てくれた‥‥‥
優しさを受け取るだけでは、あの者たちと同じになってしまう。
だから細やかなお礼を申し出た。少しだけでも恩を返そうと‥‥‥
でも‥‥そこに返ってきたのは、更に大きな礼だった‥‥
蜂の針を腕に受けてしまったときは、躊躇うことなく毒を吸い出してくれた‥‥ 彼を蜂から守ったつもりが、逆にまた‥‥命を救われた‥‥‥
毒を吸い出す行為は、的確だけど危険‥‥‥
もし口の中に小さな怪我でもあったら、そこから毒が廻ってしまう‥‥
‥‥ギネッタを助けるどころか、反って危険にさらしてしまった‥‥‥
‥‥なのに‥‥‥
その危険を顧みず、身を挺して守ってくれる姿に‥‥‥ 嬉しさが‥湧き上がった‥‥‥ 涙がこみ上げ、顔が熱くなった‥‥‥
けれど‥‥唐突に謝られて‥‥‥涙はさざ波を立てるように引いて行った‥‥
‥‥‥私には‥‥ギネッタの優しさに釣り合う様なお返しが出来ない‥‥
‥‥そして感謝の気持ちすら‥‥まっすぐ届かない‥‥‥
彼がくれた弦の強さに負け、少しはぜた弓‥‥‥ そこに、自分の姿が重なって見えた‥‥‥
「‥‥‥まったく‥‥タラシなんだかウブなんだか‥‥」
私を運んでくれたギネッタが、谷の対岸へ戻って行く。そのとき、軍の人が何か呟いた。
その言葉に、なにか彼への無礼を感じた。
だから‥‥
「おおぅ‥‥‥嬢ちゃん、そう睨むな‥‥」
私は軍の人に、視線の切っ先を突きつけた。そこに殺気を含ませて。
彼への侮蔑は許さない。
これが今、私にできる、精一杯の恩返し‥‥