底の見えない谷を前に
そこから先は‥‥まぁ何ともラクなこと。そもそもモンスターがあんまりいないし、罠もほとんど無い。
たまに、穴をくぐる前より小ぶりなコウモリやら、大きめのネズミやらのモンスターが出たけど‥‥ すぐ逃げてく。
小ぶりなスライムや、でっかいカタツムリなんかもいたけど‥‥動きが遅い。赤ちゃんのハイハイとドッコイドッコイ。 ‥‥というかカタツムリなんかは襲って来る気配すらない。
そしてどれも、結構数を揃えないと買い取ってもくれないらしく、皆さんよけて通るだけ。
層を上がって行けば、輪をかけてイージーに。とうとう罠がなくなり、モンスターはますます減っていった。
もうほとんど散歩‥‥
そんな感じで気を張るのもバカバカしくなるような行程を進めて行くと‥‥‥
「これを越えて、進んで行けば出口です」
と、コフランさんが教えて下さった。この層は姿を変えないのかな?
そっかぁ~とうとう外かぁ~~‥‥
しかしその前に‥‥ コフランさんが、[これ]と仰っていたのが‥‥‥
‥‥‥谷
下を覗けど真っ暗闇‥‥‥
‥‥うわぁ‥‥‥嫌な記憶が蘇る‥‥‥
右手を見ると岩壁があり、足場の様な二十センチくらいの張り出しと‥その上を平行に何本か刺さる頭が輪になった鉄杭。
で、そこに通され固定された鎖。
なるほど、鎖を掴んで渡って行くのね。
「‥‥フン‥‥ベヒーモスは渡れないだろ‥‥‥」
高そうな鎧の人が、何かボソッと言った‥‥‥ 最初の意気はどこへやらだなぁ、逆に心配になってきた‥‥‥
いやまぁ、見た目だけなら仰る通りなんでしょうけどね、でも‥‥
「大丈夫ですよ~ 飛べますんで」
「「はあっ!!???」「えっ!??」」
‥‥‥まぁ‥‥そりゃあね‥‥‥
‥‥何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も‥‥‥
‥‥‥親に谷底に転げ落とされてりゃあ‥‥‥‥
覚えますよそりゃあ‥‥‥ 痛くならない方法を‥‥‥
具体的には、岩肌を転げ落ちると痛いので少し魔法で距離を空けて、上から見えなくなるくらい落ちたらプカプカ空中浮遊。 で、魔法で岩壁に岩棚を張り出させて、その上でしばしお昼寝。
目が覚める頃には、親はもう帰ってるだろうからコッソリ上がって‥‥‥ タウロスさんの所に二~三日ご厄介になって、それから苦労して登ったフリして帰る。大体そんな感じ。
‥‥まったく‥‥千尋の谷じゃあるまいに‥‥‥
見ない事には疑わしいだろうという思いと、マクファーソンさんのキラッキラした眼差しに押されて‥フヨフヨ浮いて見せると、
「‥‥‥ええのぉ‥‥」
大きな盾の人がポソリとこぼした。
「あっ、じゃあ乗ってきますか?」
そぉですよね。そりゃその立派なガタイとゴッツい装備じゃ、あんな足場じゃ怖いでしょ。
「‥‥‥はい?」
「どーぞどーぞ、ご遠慮なさらず」
背負い籠を降ろしてしゃがみ込み、おんぶのポーズで尋ねてみました。
「‥‥いや‥‥のぉ‥‥」
「まぁまぁまぁまぁ」
「‥‥‥むぅ‥‥」
あら‥‥ 日焼けした様な褐色の顔を歪め、赤髪の頭を押さえて懊悩されてる‥‥ うん、まぁ‥ちょっとそんな気はしてたけど‥‥
「あっ別にお嫌でしたらアレですけど‥‥」
「‥いや‥まあ‥‥そうさのぅ‥‥ ここは‥‥世話になるか‥‥」
「あっハイかしこまりました~」
と、いう訳で、
大きな盾の人をおんぶ‥‥‥ いや、身長差からリュックをしょってるみたいな感じだけど‥‥
まぁそんな感じでフワリと浮かび、向こう岸を目指して飛行を開始した。