そして認識はひたすらにズレる
「‥‥コレ‥‥」
「なる程フォックスリーフですか。確かに金目の物ですね」
シヨルラさんが細くてかなり長めの葉っぱを拾い上げ、コフランさんがそれを値踏みしてくださった。でも‥‥
「あの‥‥それ食べたら酷い目に遭いますよ?」
‥やべぇもんまで切っちゃってたなぁ‥‥ まぁ、タウロスさんに渡す前に選別はするんだけどね。
ちなみに食べると‥嘔吐、痙攣、etc。こちらの世界の曼珠沙華。
「いえ‥‥塗り薬にするんです‥‥」
‥‥あっ、なる程‥食っちゃいかんかったのね‥‥‥
「あっ、これは?」
良い物みっけ。小さな青ジソみたいな葉っぱを付けた一本を手に、ちょいとお訪ね。
「‥‥ブリザードスカディ‥‥‥ 氷冷薬の材料です‥‥‥」
‥‥スカディ‥? 前世でもそんな名前の女神様があった様な‥‥ おんなじ様な御柱がいらっしゃるのかな?
「‥それを喰うのもおぬしだけだろ‥‥‥」
「いえ、これは結構皆さんに人気ですよ~ ミントみたいですから」
「‥ミ‥ミントとな‥‥」
「へぇ~そうなんですか」
「あっ!ちょっ!!」
コフランさんの止めるのも聞かず、マクファーソンさんはしれっと口に‥‥ やっぱりぶっ飛んでるなぁ~‥‥‥
「‥‥なる程確かにミントですね」
「‥え~と‥大丈夫ですか‥‥?」
‥‥ひょっとしたら、人間には毒かもしれないし‥‥と思ってたら!シヨルラさんまで!!!
「‥‥うん‥‥‥強い‥‥ミント‥‥」
「ですよね、疲れた体にスッキリしますよね」
そう仰るお二人のお腹に、念の為メディカルチェックの魔法を飛ばして‥‥‥ 良かったぁ~~~‥人の体にも毒性は無かったぁ‥‥‥
さて、これは燻煙材にプラス。
ドンブリ蜂にはすこぶる効くけど、こちらにとっちゃ甚だ良い香り。
ではでは蔓をちょん切って‥‥
「ところでキラーバインってどんな味なんですか?」
不意にマクファーソンさんが話し掛けてきた。
「‥‥キラーバイン‥‥とは?」
「そのボスですよ」
‥‥あっなる程、この美味しい蔓、そう言う名前なのね‥‥
「そーですね~ 枝蔓の先とか葉っぱはツルムラサキみたいで‥‥」
「‥ツルムラサキ‥って‥?」
‥‥あ‥無いか‥この世界には‥‥
「‥前世の美味しい野菜です。まぁあんまりメジャーなものじゃなかったですけど」
「‥あ‥そうなんですか」
「アスパラってこっちにもあります?」
「はい、アスパラは」
「そうなんですねぇ。枝蔓の太いところの中側はアスパラっぽくって、外側はメンマ、皮は固いけど良い出汁が出て、コンソメなんかに使うと美味しくて」
「‥すいません‥‥メンマって‥?」
‥‥メンマ‥‥‥ え~~~と‥‥どうやって説明したもんかな‥‥‥
「‥‥コリコリ食感のニクい奴です‥‥」
「‥‥‥よく解りませんが、お好きなことは伝わりました」
‥コフランさんが会話の助け船を出してくれた。
「‥‥あっはい、良かったです‥‥ で、茎蔓の中側は、大根とチンゲン菜の軸を合わせたみたいな感じで、外側はタケノコ、あと根はサツマイモみたいにホッコリ甘いですよ~」
「チンゲン菜とタケノコはどんなものなんですか?」
「チンゲン菜は‥‥‥まぁ美味しい葉野菜です。タケノコは‥‥‥ すいません、そちらに竹って生えてますか?」
「う~ん、少なくとも僕は知りませんね」
「そうですかぁ~‥ え~っと、竹という木の生えたてのやつで‥‥コリコリ食感のニクい奴です‥」
「好きなんですね、コリコリ食感」
「はい~そうなんですよ~ あと‥」
枝蔓をぐいっとしごいて、分泌していた液をしごき取り、それをペロリと舐め、
「コレがまたライムみたいな香りで、ほんのり酸っぱくて美味しいんですよ~」
「‥‥おぬし‥‥それ消化液だぞ‥‥」
「いやまぁ、そうなんですけどね。」
消化液ったって、そんなに酸度は強くない。何時間も触れてなきゃ問題ないので、ドレッシングなんかに使っております。
‥‥と、不意にしごき取った手に撫でられる様な感触が。視線を振ると、シヨルラさんが指先を口に‥‥
「‥‥うん‥‥ほんと‥‥ライムの香り‥‥」
「へぇ~確かに美味しいですねぇ」
マクファーソンさんは蔓をダイレクトに指先で撫で、チュッと味見をしていた。
‥‥そんな不用意に口にしないでくださいよ~‥‥‥ もう一回メディカルチェックの魔法を飛ばして‥‥ 良かった‥‥コレも大丈夫だった‥‥
「おい!!後ろ!!!」
唐突に、高そうな鎧の人の声が響いた。振り返ると‥‥あ、ドンブリ蜂が、自分の顔目がけて飛んでくる。きっと遠くに行ってた働き蜂が帰って来たんだろうなぁ。
爪でも伸ばして、チョップで叩き落とそうかと考えていると‥‥‥ しゃがみ込んでいた腿に、一つ衝撃が走った。