魔法研究家の皮算用
そのベヒーモスと遭遇した時‥‥思えば空気に吞まれていたのだろう‥‥
「あっ、こんばんは~」
今思い返せば、こんな第一声‥‥何を恐怖におののいたのか‥‥
魔法研究家は何色にも染められない。黒い装いはその心構え。
魔法研究家・マクファーソンは、名門の生まれだった。
生家が得意としていた雷撃魔法を早々に身に付け‥‥ただ、それだけに身を捧げることは、何かが違うと感じた。
手当たり次第に他属性の魔法も覚え‥‥そしてそれをやってのける才覚もあった。
物騒な魔法が得意だった。よって若くして攻撃魔法の申し子と呼ばれ‥‥それでも軍籍には入らず、王立魔法研究所へと進んだ。
それを押し通せる程の、実力と才気で‥‥
そんな彼だが、冒険者ギルドにも籍を置いているのには訳がある。
マクファーソンが入る前から‥‥。研究所では、とある議題で舌戦が繰り広げられていた。
‥‥モンスターは魔法を使えるのか‥‥
現状、
魔法が使える派と
魔法に似た何かである派の
二派閥に別れ、
そしてマクファーソンが支持する前者の旗色が悪かった‥‥
なので実地に飛び込んだ。モンスターを直で見るために‥‥
そして今、目の前には、会話が通じるベヒーモスがいる。
更には自力で‥‥なにがしかの力で、自身の傷を癒した‥‥
こんな絶好な研究対象‥‥外へ連れ出す事に、躊躇いなど沸く筈もなかった。
そしてこのベヒーモスの言った一言‥‥
「何せダンジョンなもんで海が無いもんで」
‥‥このダンジョンから、モンスターが出て来た記録は無い‥‥ならなぜ知っている?‥‥海の存在を‥そして海から塩が産出されることを‥‥
まだ確証にまでは至っていない‥だが‥‥
このベヒーモスが人間の生まれ代わりという線に、かなりの信憑性を感じていた‥‥