行動が招くもの
ジフは、あのあと自分がなにを考えたのかもよくわからなかった。完全に混乱していた。ただ、そのままじっと考えることもできずに、街の中を早歩きしていた。そして、やたらと何かを探しているようだった。
彼は、ミスニアを探していた。
(噴水で見かけた時から、時間は経ってはいるが、そこまで遠くには行ってないだろうし、貴族の彼女が、人目のつかない所に自分からいくとは考えにくい、おそらく、人目の多く、綺麗なところを探していれば見つかるかもしれない……!!)
先ほどまでとは打って変わって、思考がよく回っている。しかし、心の方はもっと酷いことになっていた。なんでこんなことしているのかジフもわかっていない。もし会ったらどうするのか、どうなるのか、どうするべきなのか、何一つしっかりした結論を出せていない。不安と絶望、希望と期待、様々なものがごちゃごちゃになった心境の中、ただ彼はミスニアを探し続けていた。
ここまでする理由も、しっかりしてはいなかった。
夕方になって、彼も流石に疲れてきた。さっきよりは少しだけ冷静になったのか、帰って休もうとした。だが、冷静になった時も、人の望みは変わらないのか、体は勝手にその望みを求めて、行動した。
(あれ?……あそこにいるのは、ミスニア!?)
前から歩いてくるミスニアの姿を目撃したジフは、あえてゆっくりと彼女に近づいた。そして、偶然を感じさせるように、少し驚いた表情をして、彼女に挨拶をした。
『あ、ジフさん。』
『お久しぶりですね、ミスニアさん。』
(うまく口が回らない……。落ち着けよ自分!!)
『なんだか、顔色が良くないですが、大丈夫ですか?』
『ああ、うん、大丈夫。……今日はなぜここに?』
『実は、王都に引っ越すことになったのです。そのため、王都の地理は覚えていた方がいいかなと。』
『そ、そうなんだ……。』
『ジフさんは、見張りの方はどうですか?』
『と、特に問題はないよ……。』
(勇者の事を聞くべきか? でも、不審がられないか? 何を聞けばいい!?)
『……こ、今度、紹介したい場所があるんだけど、どうかな?』
人生で一番振り絞ったと言える勇気で、思い切って言ってみた。ミスニアがこんな事で自分を不審がることはないと思って。
『そうなんですか? 私は用事がなければいいですよ。それに関しては、お互いに手紙で日程を考えましょう。』
『そうだね。』
『……やはり、ジフさん、顔色が良くないですし、なんだか変ですよ。今日は帰って、しっかりとお休みください。』
『え? あ、ああ、ありがとう。』
そういうと、ミスニアはまた手を振って、去っていった。彼女とジフが会って話すのは4回目。ミスニアにはどう思えたのかわからないが、ジフにはこの会話に、何か大切なものがかかっているような気がしていた。だが、それもすぐに終わった。
ジフは帰宅し、自室のベッドに横たわり、また考え事をしだした。
(やった!! 会って話すことができた!! それに、自分のことを心配してくれた!! 良かった!!)
具体的に、何が解決して、何が進展したのか、それは言葉にはできてはいなかったが、ただ、彼女に会えたことを喜ぶ。喜んでいた。最初だけは喜んでいた。
だが、それは今はこうなっていた。
(……あの時、彼女は『そうなんですか?』と言った。その言葉に、自分に対する興味がない、という暗示が隠されていないか?)
(いきなり、場所を紹介するなんて言って、やはり不審がられているんじゃないだろうか。表面には出してないだけで、本心では不審に思ってるんじゃないだろうか。)
(日程をあの時に決めなかったのは、やはり行く気がないからなのではないだろうか。)
再び迷走してしまっている。同じことを心配しては、落ち込み、不安になり、より深く迷ってしまう。
嬉しかった感情が、気がつけば後悔に変わっていた。
感想、アドバイス、いつでもお待ちしております。