意味なき思考
ジフの考えは止まっていた。自分が何をしているのか、どこへ向かっているのか。そんなこともわからなくなっていた。
『おい? ジフ? 大丈夫か?』
『…………え?』
『いや、お前、顔がやばいぞ? なんか……真っ青だぞ!?』
『ああ、いや、大丈夫……。』
『いやいや、絶対大丈夫じゃないって!!』
ノツァがまじめに心配した表情でジフのことを心配しだす。おそらくさっきの光景に気がついてないのだろうし、もし気がついていたとしても、ジフがそこまでミスニアのことを思っていたとは思わないだろう。
客観的に見たら、ジフの一方的な思い込みなのかもしれない。恋愛とは、うまくいけばとてもいい話や物語となる。人間の人生の中でも、恋愛というものは、必ず一度は考えないといけないことの一つだからだ。
しかし、成功しない話は、どちらかの一方的な思い込みからなる、ひどく醜い事件の話になりかねない。
物事において、成功と失敗とは、結果の中でも最重要といえる要因なのではないのだろうか。
その点、恋愛はそういえる。成功と失敗が明確だ。
成功と失敗の境界線なんてわからないのに。
(自分は……ただのお節介だったのか……? 考えてみれば、助けたことは兵士として当然のことをしただけ。 つまりはそれをしたからと言って英雄のように褒め称えられるなんてことはないんだ。あくまでも兵士としての役目をやった、当たり前の範囲を出ないんだ……。)
それからは同じようなことを考えた。自分はお節介、特に目立ったこともできてない、思い違い、勘違い、醜い……。
僧侶のところについた。ノツァは何やら自分にいろんなことを言ってきてうるさい。正直、邪魔だ。
『ノツァ、ごめん。今日はここまででいいよ。』
『え? 僧侶に診断してもらった結果でも教えてくれよ?』
『いや、いい。今はそんな気分じゃないんだ。今日は帰ってくれ。』
『なんでだよ? 隠すことでもあるのか?』
『いいから、帰ってくれよ。』
『……。わかったよ。お前がそこまでいうなら、下がるよ。あとで結果教えてくれよな。夜には酒場に顔出すから……。』
ノツァには理由も教えず、無理矢理帰ってもらった。
理由もなく帰す。されれば明らかに怒ってもおかしくないことだ。しかし、ノツァはジフが疲れているせいだと、思っていた。そうやって自分を納得させていた。ノツァも、普段は優しく接してくれて、自分の話を聞いてくれて、訓練でもアドバイスをくれるジフが、おかしくなったことに責任らしきものを感じた。最近野次飛ばしすぎたかな…とノツァも不安を感じずにはいられなかった。
僧侶はジフの表情と、特になんの以上も見られない身体を診て、ジフに言い渡した。
『おそらく、ジフ君は最近、プレッシャーを感じてしまってるんだよ。最近みんな、ジフ君のことを期待の新人って言いすぎたんだろうね。焦る必要も気にする必要もないからね。これからもいつも通りでいていいからね。もし、体調が悪くなったらおいでよ。…………無理だけはしないでね。』
ジフは僧侶の話を聞き流していた。ほとんど頭に入っておらず、ただ返事をしてるだけだった。それに、何か大きな病気でもなかったため、お金も少しで済ませてくれた。
あまりのお金を何に使うのかも考えずに、家に帰る途中、適当に座れそうなところを見つけ、座った。
どうしてこうなってしまったのだろう。
もっと落ち着いて考えれば割と簡単にこの問題は解決できそうなのではないのか? と思う人もいるだろうし、このことに悩む理由もわからないという人もいるだろう。
しかし、焦って、視野が狭くなり、自分で思い詰めてしまった人とは、とても簡単に、思考が迷走する。なんども同じことを考え、それに不安や危機を感じては、また落ち込む。
いや、もともと、アイツがいなければ、こうなっていないはずだ。ハルト……。あの男だけがあんなに良い思いしてるなんて、何かおかしい。人を助けたのは、自分も同じはず。なぜ彼だけなんだ。自分ももっと良い思いをして良いはずなのに……。
みんなが思う、謙虚でまじめだったジフは、どこかへ行ってしまったようだ……。
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