虫の知らせの答え
ジフは今日、朝から母親にも心配されていた。理由はジフが寝坊したからだ。もともと彼は早起きなほうなので、見張りの仕事にはしっかり間に合ったが、彼が寝坊するなんて、滅多にないというか、今までなかったほどだ。かといって、見張りというしっかり任された仕事を休むことなんて、よほどのことがない限り許されない。そのためジフはいつも通りに見張りの仕事をしに行った。
(やばい、これは本当に僧侶に診てもらったほうがよさそう。これは自分は病気か何かにかかったとしか思えない。……見張りの仕事の後に行くか……。今日も訓練に出れなくなるけど、仕方ない……。)
見張りの時も、なんだか集中できずにボケーっとしてしまったりすることもあれば、ミスニアのことを考えて気分が良くなったり、またよくわからないものに葛藤しては、ボケーっとしたり……。
(そうだ、ミスニアへの手紙は、今日だそう! この前会ってから少し経ってるけど、まだそんなに日にちは経っていてない。自分のことを忘れてしまう前に、手紙で自分のことをまた思い出してもらおう。病気のこととか書いたら、何か持ってきてくれるかな。貴族の彼女なら、何かとてもいいものとか持ってきてくれそう……いや、変なことを書いて彼女を心配させてはいけない。ふつうに、昨日書いたのをだそう。)
家に帰った。母親は声をかけるだけでなく、近くに駆け寄ってくる。
『ジフ、今日は大丈夫だった? 無理していないかい?』
『うん……すこし悪いかな。僧侶のところで、診てもらおうかなと思ってる。』
『そう……確かにそれが良さそうね。』
母は店の裏の方に行き、すぐにまた帰ってきた。
そして、ジフに銀貨1枚と銅貨10枚を持たせた。
『僧侶さんのところで診てもらうための分と、たまには好きなことに使って欲しい分。』
『ありがとう、母さん。』
それから、ジフは自分の部屋で着替えて、昨日書いた手紙をポケットにしまい、出発した。
僧侶の元へ歩いていた。
『あれ? おーい、ジフ、どこ行くんだ?』
声がする方を見ると、そこにはノツァの姿があった。
『なんでここにいるんだ? 訓練は?』
『いやー、教官にさ、ジフのことが心配で、今日は来れそうかどうかを聞いた方がいいのでは? と提案したら、ジフの家まで行ってくることを許可してもらってさ。』
『そうか……。でもごめん。今日は寝坊したりでなんだか自分の様子がおかしいから、僧侶のところに行くんだ。』
『えぇー!? マジかよ!! そーゆーことなら、俺もついてく!!』
『なんでだよ。訓練に戻らなくてもいいのか?』
『お前が心配なんだよー! 訓練よりも友達だろぉ!?』
(ここぞとばかりに、いいことみたいなことを言うもんな…。)
『わかったよ。怒られても知らないからな?』
『いいっていいって!』
そうして、ノツァと一緒に僧侶のいる場所へ向かう。綺麗な噴水が道中にある。
(そういえば、この噴水は、願いが叶う噴水だっけ。きれいだな。ミスニアを連れてきたら喜びそうだ。)
その人混みの中に、一人、きれいな服装の女性がいた。ミスニアだ。
(ミスニア!? 何でここに!? もしかして、一人でこの王都を探検でもしているのだろうか。でも、今は都合がいい。この手紙を彼女に直接渡せる、なによりも会話もできる!)
その時、ミスニアが手を振りだした。初めはジフに振っていると思われていたが、方向がすこし違う。何に向かって振っている?
ミスニアの元に向かった男性がいた。しかも、それは今話題の勇者、ハルトだった。
(え?)
『あー、やっぱり。ミスニア様ほどの美人な貴族ってなったら、勇者様もお付き合いしたくなるよねー。』
『貴族の女性って、顔が良い人ってあまりいないのよね。もし良くても性格に難ありって子が多いし。ミスニア様ほど顔も性格もいい子ってなかなかいないわよー。』
周りの人たちはそう言っていた。ジフはそのままそこを通り過ぎていったが、ほぼ思考停止して
いた。
♢♢♢
舞台は変わって、深い森の中の小屋。
ジヴニークは、薙刀の刃の部分を布で拭いていた。そして、防具を身にまとい、首を回してはボキボキと音を鳴らしていた。
『お、お頭?……どうしたんですか?』
『あぁ? 決まってんだろ。戦う前の準備だ。』
『た、戦う? だ、誰とですか? 隣の街にいたヒヨッコの盗賊どもは、一人残らず殺したはずですが……』
『デンドを撃退したって言う勇者を殺しに行くんだよ。俺が弱いと思われるのも気にくわねぇ。』
『そ、そんなことしたら国の兵士たちにやられますよ!?』
『そんなん、デンドとお前らが力合わせればなんとかなるだろ。あの国の全員が、デンドを俺と勘違いして、勇者は俺よりも強い! とか思ってやがるはずだ。 それは違うと、勇者を見せしめに殺す。ついでに兵士たちは俺がいなくても全員返り討ちにできるとなれば、そっからは俺たちの天下だ。』
『えぇ……』
『そんなわけでテメェらも今から準備しろや。わかってるとは思うがいつもの殺し合いよりも大変だからな。ヘマしたら戦場でも構わずに首はねるぞ。』
『りょ、了解です……』
そう言ってジヴニークは不敵な笑みを浮かべ、武器と防具の準備をした……。
(この世界の通貨については、銅貨が100円、銀貨が1万円、金貨が100万円と、100枚で変わる感じです。銅貨と金貨の価値の差が半端ない。)
感想やアドバイス、いつでもお待ちしております。