変化する日常
勇者ハルトと腕相撲をした次の日。ジフは見張りの仕事がだるく感じていた。朝もあまりよく起きれなかった。いつもより寝たはずなのにな。
(そういえば、腕相撲で負けたことってあまりなかったな。自分を倒した人って、教官や兵長さんくらいで、同級生では敵なし、兵士の中、全体でも負けたことなんてほとんどなかった。
多分、それにプライドみたいなのを自然と持ってたんだろうな。)
ジフは納得させるように自分に言い聞かせる。そもそもジフのように真面目で素直な人が、プライドに執着するはずがないのに。
(そうだ。こんなに気が滅入っているよりも、もっと楽しいことを考えよう! ミスニアに手紙を送って、今度、会う約束でもしようかな。彼女は冒険者って名乗ってたのに貴族だったり、まだまだ知りたいことがたくさんあるし。)
そして見張りの仕事が終わる1時間前ほどになった。この時、ジフは今まで思ったことのないことをふと、自然と思った。
訓練、行きたくないな。
え? なんで行きたくないって思ったんだ? どこが痛いわけでも、体調が悪いわけでもない。
でも、そもそも自分は訓練兵ではない。教官と手合わせしているのも、全部自主的にやっていることだ。出ないと怒られるとか、出る義務とかなんて、ない。
どうしても気が迷う。……。そうだ、確か家に、王都で行くのにオススメな場所をまとめた本があったんだ。それを使って、ミスニアと今度どこに行くのか、考えよう。
そのためには時間と体力が必要だ。今日は訓練を休もう。明日からまたやればいい。
適切とは言い難い理由を作って、訓練を休むことにした。
『ただいま、母さん。』
『お帰り、ジフ。今日は訓練、どれくらいまでやるの?』
『いや、今日は体調が優れないから、休むことにしたよ。上で休んでるね。』
母親にミスニアのことを喋ったりすると、夜に客に言いふらしたり、ノツァがそれをばらまいたりする原因になるから、黙っておいた。
『あら、そう? しっかり休んでね?』
『うん。』
そして、上に上がり、本棚から本を取り、それを読みながら、手紙を書き始めた。
(夢が叶う噴水……世界最強の帝王の銅像……花畑の見える丘……)
気がつけばもう夕食の時間になっていた。
ジフは食堂に向かっていき、いつも通りの席に座った。
『ジフ? 何か食べたいのある?』
『母さん、いつも通り、肉を使った料理で大丈夫だよ。』
『元気になったようね。良かったわ。』
後ろから肩を掴まれた。振り返ると、ノツァがあまり見ない、少しびっくりしたような表情を浮かべていた。
『お前、今日来なかったから心配したぞ!? ジヴニークに襲われたんじゃねぇかとか、考えちまったぞ!!』
『そんなことあったらみんなに知れ渡ってるよ。ただの体調不良。心配すんなよ。』
『そうか、良かったな。教官も心配してたぞ、お前が来ないっていうのは今まで滅多にないし、理由も分からなかったからなー。』
結構心配かけていたんだな。次からは気をつけないと。
『お前、最近、なんかクールになったよな。前までは明るいほうだったのに。』
『そうか? 色々あって疲れてるのかもな。』
『勇者様と腕相撲した時に腕の骨折れたんじゃないのか?』
『いやそうだとしてもクールになることと関係ないだろっ。』
ノツァとはいつも通りの会話をして、少し笑った。思いっきりとは言えない、笑みを浮かべて。
♢♢♢
王都の近くの森の中。深い深い森の中には、人の目には着くことがないであろう古い家があった。その中には、屈強な男たちがなぜか住んでいた。その男たちの中でも、極めて大きい人物がいた。
彼の名前はジヴニーク。噂通りの大男であり、盗賊のリーダー。獣のように鋭い目つきと、人とは思えないような肩幅と腕の太さ。暗闇で見たら熊と間違えそうだ。そして、右手に持つのは巨大な薙刀。
そんなジヴニークの前に、正座させられている男がいた。彼もジヴニークと同じくらいの身長を持っている。しかし、ジヴニークよりは体格が良くない。
『おい。デンド。お前に任せたことはなんだ? 言ってみろ。』
『は、はい……。ジヴニーク様の影武者として、ジヴニーク様の姿を特定できないようにすることです……。』
『ああそうだ。俺は確かにそう言った。だがな!! あんなチビに負けろとは言ってねぇんだよ!! テメェのせいで、俺があのチビよりも弱いと思われるじゃねぇか!!』
『すいません!! すいません!!』
『ったくよぉ……。他のやつよりはでかくて強いからって、副リーダーの座をあげたがなぁ、今度ヘマしたら。お前の格は、底辺まで下がると思いな。』
『以後、気をつけます……!!』
『本当に使えねぇな……。』
ジヴニークは立ち上がった。彼は噂では220センチと言われていたが、実際の彼は235センチあった。天井に頭がぶつかりそうだ。ジヴニークは何も言わずに、どこかへ歩いて行った……。
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