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和みの住処  作者: 朱鷺房
3/8

国調課員

阿南警察署は天竜川のほとり、阿南大橋のたもとにある2階建の割と大きな警察署である。その警察署に殺人事件の一報が入ったのは午後5時ちょうどであった。

[本部より阿南警察署及び周辺巡回中のPCへ、新野村地内、新野郵便局にて強盗殺人事件発生、犯人は銃器使用の可能性あり対応には十分注意せよ。現場 新野村新野・・・・繰り返す・・・]

「え・・・」

来客中のお客さんと話をしていた刑事生活安全課強行盗犯係の岡田加奈巡査にとって寝耳に水のような入電だった。

「岡田、すぐ行くぞ!」

先輩巡査の神崎が椅子にかけてあった防弾チョッキを着用し始めた。今日の訓練でちょうど使ったところであったのが幸いしたようだ。他の同僚も着用して拳銃を確認する者もいる。

「岡田くん、悪いけど証拠物件の確認作業を続けていてくれるかな?そのあとで合流してくれ」

室内がざわついている中で隣に座っていた小西課長はそう言い残すと、席を立って神崎と共に部屋を出て行った。

がらんとした室内にお客さんと2人だけになってしまった。

「すみませんね。現場に行きたいでしょうに」

目の前の内務省国内調査局(国調)の制服を着た青年が軽く頭を下げた。短めの髪に目鼻の整った好男子で、所内に到着した時には若い女性署員が湧いたものだが制服を見た後にすぐに静まり返った。

「いえ、確認作業も大事な仕事です」

数日前に管轄内の河川敷で発見された丸焼けの遺体から燃え残った証拠品だが、こんな田舎の事件をなぜか国調が直接確かめにきたのである。

「もう少しで終わりますから・・」

そう言って袋に入った血にまみれた長財布を取り出して慎重に開いた。

「どうして証拠品をわざわざ見にきたんです?」

何も聞くなと課長から言われていたのだが気が緩んで思わず聞いてしまった。

「なに、ちょっとした確認です」

そう言って小銭入れを開けた彼はその部分を強引に引っ張った。

「あの、破損させないでくださいね」

幼さの残る可愛らしい顔つきで小柄な彼女が彼を覗き込んだ。相手は国調だが少しはこっちにも反応してほしいという気持ちもある。

「あった・・・・」

引っ張っていた部分の少し破れていた部分から金色のピックのような物がでてきた。

「あ・・・国調徽章」

それが示すところ、被害者は国内調査局の調査員だということだ。

三角形のそれは片面に国と書かれ反対側には調と数字が8桁刻印されている。研修の時に見せられた覆面調査局員が協力を要請する際に使用する小さな徽章であった。

それをみて岡田巡査は警察学校での授業を思い出した。

教室で教官が内務省調査局を説明するときだけはすごく緊張していたのを覚えている。

「内務省調査局、皆もその名前を聞いたことぐらいはあると思う。映画やドラマでは悪役のように描かれることが多いが彼らは平気でそのようなことをしでかす部類の機関であることを覚えておいてほしい。つまり、諸君らが現場に出た際にもし彼らが隣にいたならば気をつけてほしい。我々は国民の為の警察だが、彼らは国家の為の警察である。我々を調査逮捕できることも忘れないようにしてほしい」

そう言ってプロジェクターに調査局のエンブレムと先ほどの徽章を映し出した。エンブレムは日章旗を中心に上部に内務省・下部に国内調査局と書かれている。シンプルな作りだ。

「これが彼らが使うものだ、常に覚えておくように。徽章は特に覆面調査中の局員が身分を示すために出すことが多い、もし出されたら、強制的に協力をしなければならないと我々には義務付けられていることを忘れないように」

そういって教官はじっとその徽章を見つめていた。

「岡田さん?」

「ひゃい!」

思い出していてぼーっとしていたようで名前を呼ばれて我にかえった。

「徽章が出てきた以上、本件に国調も関わりますから課長さんにそのようにお伝えしていただけますか?」

「わ、わかりました。至急連絡を取ります」

携帯電話で課長へ連絡を取り始めた彼女に軽く頭を下げ、席を立つと近くの窓際に向かう。

「06118271か・・・」

独り言のように呟きながら携帯電話を取りだすと、暗号化通信を選択して通話ボタンを押す。

[はい、国内調査部第七課 星崎です]

課内で事務と電話番をしている星崎が電話に出た。

「お疲れ様、大海ですが」

[あら、大海さん。どうしたの?]

「課長って近くにいますか?」

[いま、会議中よ。終了予定はわからないわね]

「そうですか・・・、じゃぁ、特任コードで駿河部長につないでもらえますか?」

[特別任務・・・緊急のようね。暗号化は必要?]

「お願いします、こちらは起動してありますので接続願います」

[了解、17時10分、暗号化処理を開始します。完了次第、部長に繋がります]

「了解」

保留音がしばらく続くと、突然FAXで聞こえるような擦り切れる電子音が受話器から流れる。

「ここからが長いんだよなぁ・・・・」

暗号化通信に切り替えるには色々と手続きやシステムの関係から時間がかるのだ。特に携帯電話での通話については防諜を幾十にも施していく必要がある。

[駿河です、待たせて悪かったわ]

落ち着きのある年配女性の声が受話器から聞こえてきた。国内調査部を統括する駿河部長の声だった。

「お疲れ様です。依頼のあった阿南の焼死体の件で報告です。」

[何かわかった?]

「国調課員で間違いですね。財布から徽章を見つけました。撮影した画像を後で送ります」

[課員番号は今分かる?]

「06118271です。06ですから第6課、あいつら何調べてたかわかりませんが・・・」

[それは6課長に確認するわ。休暇の初めに余分なこと頼んで申し訳なかったわね、近くに課員がいて助かったわ]

休暇を取り、地元の豊橋に寄ったのちに天竜峡温泉で日々の疲れを癒そうと、まさに温泉に入る直前に携帯電話がコールを告げた。

そして今この仕打ちである。

「それと、部長なら今局員リストからそいつを見ていると思いますが・・・」

[ええ、見てるわよ。なにが知りたいの?]

「そいつ、拳銃持ってました?支給の・・・」

言い終わった瞬間に駿河の舌打ちが聞こえてくる。

[持ってるわ、コルトガバメントJPモデル]

「そうですか・・・」

思わずため息も出てしまった。

「今こっちで郵便局強盗なのか、わかりませんが、銃器を使った殺人事件が発生してます」

2度目の舌打ちが聞こえると同時に通話中の携帯のバイブレーションが動いた。

[悪いわね、今からその事件に調査介入しなさい。今、命令書を送ったから]

「えっと、それはつまり・・・」

[休暇はお預け、大海春樹1等調査官、現時刻より調査開始、いいわね。]

いいわね、と言われてもこっちには拒否権はないのだ。

「了解しました」

[では、よろしく]

通話が終わると同時にどっと疲れがのしかかってきた。

「ああ・・・せっかくのきゅうかが・・・」

スマートフォンの画面を見るとホップアップで命令書が映し出されていた。

―命令書―この電文の発令時刻を持って大海春樹一等調査官は 特別任務 に付く事を命ずる。

2度目の舌打ちで作成して送信してきたのだろう。まったく素早い人だ

「大丈夫ですか?」

そんなに落ち込んでたのだろうか、岡田巡査が心配そうにこちらを覗き込んできている、その実に可愛らしい仕草に思わずかわいいなと思ってしまうほどだ。

「大丈夫ですよ、それよりも新野郵便局って遠いですか?」

「現場ですね、えっと、ここからでしたら緊走で30分くらいで到着できると思います」

「そうですか、敬語もめんどくさいな、現場についてきてもらえる?」

「事件現場に行かれるんですか!?」

きょとんとした表情ののち露骨で分かりやすい嫌悪する表情になった。

本当に感情表現が豊かで面白い子だ。そこまで露骨に出す警察官はあまり見たことがない。

「上からね、介入しろって命令が来たところ」

そういって先ほどのスマホ画面の命令書を岡田巡査に見せつける。

「あ・・・・いや・・・」

関係する警察官が確認してしまえば捜査に調査関与できる。そして確認者の階級は関係ない。見た瞬間の顔写真がフロントカメラで撮影されて確認者として保存をされる。

警察内ではこの確認者を裏切者と呼んでいた。

「警察官確認済み、では、行こう」

「さ、詐欺じゃないですか・・・」

嫌悪の表情が憤怒に変わった。

「詐欺?どうして?」

「か、確認を求めなかったじゃないですか!」

「見せればいいもの」

さも当たり前のように大海は言い放つ。

「み、見せれば!?私は現場にも行ってませんよ!」

「関係する警察官が見ればいい、そして岡田さんは一報が入った時に課長から あとで合流するように と命令を受けていた。そして、あなたは国調の関与を課長さんに知らせてくれた、十分に資格があるでしょう」

憤怒が泣き顔に変わった・・・。

「ごめんね、これが国調なの」

そういった大海の顔には薄ら寒い笑みが浮かんでいた。

またまた、すみません。

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