罪能流動
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「つ、疲れた…」
あの後、空気を読まない自称女神に散々言われてステラを加えた三人で喧嘩を繰り広げ、その後一人仲間外れにされ泣き出してしまったバステトを三人で慰める羽目になり色々とありすぎて疲弊しきったシン。
…ところでシンはまだ、ある重要な事に気がついていないのだが…
沈んだ足取りで落ちてきた場所へ戻ってきたシン。
と、重要な事にふと気付く。
「…あれ?これ…どうやって上がるんだ…?」
――そう、上の階に上がる方法である。落ちるまではいいのだが、ここには階段も通路も何も無い。
「…え?本格的にどうすればいいんだこれ?もしかして俺一生このまま?」
事の重大さにやっと気づいたシン。部屋に戻って何か器具がないか探してみるがそれらしきものは無い。
――考えろ。何か、何かあるはずだ。他に上に上がる方法が――
「あれ?ちょっとシンさ~ん。何してるの?」
焦るシンの前に現れたのは自称女神、ライトネルだった。
「あ、おいライトネル!これじゃあここから上がれないんだ!上がる方法を一緒に考えてくれ!お前みたいなアホでも今は必要なんだ!」
と、シンはライトネルと一緒に上に上がる方法を考えようとするが、
「わああああ!シンさんが私に酷いこといったぁ!もう私知らない!」
シンが悪口を挟んだせいか、ライトネルはプイッとそっぽを向いてその場に座り込む。
「今はそうやって拗ねてる場合じゃねぇんだよ!そんなことよりここから上がる方法を――」
「ぐすっ、あんたこそ何言ってんのよ!そんなの飛んで上がるに決まってるでしょう!もしかしてシンさん記憶喪失ですか…?」
そして、ライトネルは、あ、そうかと続け――
「下に降りたのが初めてなのね?まぁ、シンさんて坊っちゃんだったの?大丈夫よ。初めはそうやって焦ってしまうものよ。…ぷーくすくす」
と、肩を震わせて馬鹿にしたように笑った。
「おいこら。また喧嘩しようってんなら受けてやるぞ。…って飛んで上がるてどういうことだ」
シンはライトネルの態度に憤りを感じながらもおとなしく質問する。
「う~ん。飛ぶというより爆発させるというかなんというか…まぁ、千聞は一見に如かずって言うし、このライトネル様の神々しい姿を眺めているといいわ!」
――いやそれ千じゃなくて百な――
そう言おうとしたシンは、ライトネルの豹変ぶりに息を飲む。
辺りの空気が電気を帯び、ビリビリという音がシンの場所まで聞こえてくる。ライトネルの脚部に発光するプラズマが浮遊している事から、その電気の強さが尋常ではない事が分かる。
「じゃあ、行くね~」
と、拍子抜けするような軽い感じでそう言うと、少し腰を屈めて、
――刹那、ライトネルの姿が消えた。
後には、ジグザグに壁から壁へと繋がる、黄金に輝く雷光のみが残っていた。
「……」
驚きのあまり放心状態のシンにいつ降りてきたのか、ライトネルがシンに問いかける。
「分かった?」
「いや無理だろ!見ただけで分かるか!せめてやり方教えろよ!ていうかあの雷は何だ!?」
ライトネルに向かって当然の疑問を投げ掛けるシン。しかしライトネルは当然のように答える。
「シンさんたら"罪能"に属性があることも知らないの?仕方無いわね~。じゃあゆっくり説明するわよ?私は雷の女神だから属性も雷なの。"罪能"っていうのはね…あ、人間界では"怒り"って言うんだったわ。怒りには様々な属性があるの。その属性に沿って周りの環境に影響が及ぶんだけど……あれ?私は女神だから見ただけでその人の属性が分かるんだけど…シンさんからは何も見えないわね…誰にでも属性はあるはずなのに……あれ?」
もしかして本物の女神かもしれないライトネルの言葉を前半だけ聞いて聞いてシンは熟考する。
――また"怒り"か…そう言えば第一の試練であの人も同じようなことを言っていたな。怒りが身体性能に影響を及ぼすのだとすれば…
そして、シンは先程のライトネルの姿を思い出す。
脚部に浮遊するプラズマ。屈めた腰。あれは怒りを足に集中させたって事か?
そして、早速実践するシン。
「はああぁぁぁ――」
――まずは怒りを発生させる。そして、足に集中させる!
「…!?くっ!ぐうああああ」
だがこれが常識はずれに難しい。怒りを一部分に集束させようとすると、体が内側から破裂しそうになる。
その時、シンは微かな、だが、これを習得するのには不可欠な感覚の存在を認識する。
――な、何だ?何か…体の中に流れているのか…?
その"流れ"に意識を集中させ、身体中の"流れ"を足に集束させる。
――すると、先程とはうって変わって、破裂しそうになる事もなく、"流れ"を足に集束することが出来た。
「ライト…ネル!ここからどうすればいいんだ!?」
「…へ?あ、ああ、集束出来たら一気に爆発させるの!」
何やらぼーっとしていたライトネルは僅かに動揺を見せたが、すぐに言葉を返した。
――こんなに早く"罪能流動"を習得した人を見たのは初めてだわ…天界でも習得に数ヶ月はかかるってのにあの人、ものの数分で…もしかしてシンさんは…いや、これは私の指導が上手かったのね!
と、ライトネルはまさに女神のように完璧な造形の胸を張る。
だが、シンはまだ集束した力を足に抑え込むので精一杯であり、まだその場にとどまっている。
「シンさ~ん!爆発よ!足に集束した怒りを爆発させるの!抑え込もうとしなくていいわ!」
――抑えまなくていいだと?でも、この高さは少し不安だな…なら、飛ぶ直前に極限まで抑え込んで…
「爆、発ぅ!!!」
――刹那、地が爆ぜた。
が、
――ドガガガガガガガ!!
轟音と共に、シンの姿はかき消えてしまった。
そして、そのまま天井を突き破って行く。
普通なら、硬い岩石で出来た天井を凄まじいスピードで頭から突き破ったりした場合死は免れないが、この時シンは無意識にも、体全体に結界のように怒りを纏わせていたため無傷で済んでいるのだ。そしてこれは、組織に入った人間が何年もかけて習得する技なのだが、その自身の成長速度の異常さに、シンは気づく由も無かった。
――不意に、轟音が鳴り止み、浮遊感がシンを襲う。
そこは、上空だった。
「飛びすぎだろこれぇ!?」
やっと自身の状況に気付いたシンは、ただ声を張り上げることしか出来なかった。
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