少年の憂いは混沌に呑まれる2
楽しんでお読み下さい。
もうどうなってんだ。
次から次へとキャラが濃い奴らが現れてやがる。ていうか、女神はどうでもいいとして、何で獣耳少女が居るんだ?この世界はいったいどうなっているんだ…全部、天才イケメン成績優秀運動神経抜群委員長のせいだ。
うん。絶対そうだ。いつもいつも、奴は俺を苦しめる。…こうなったら、最後の一人が普通であることを祈るのみだが――
「じゃあ、次は君、よろしくね」
タイミング良く、天才イケメン成績以下略こと、エレンが促す。
「………」
しかし、その少女は話さない。その少女は小柄で、何かのマスコットキャラクターのような動物を模したフードを浅く被っており、顔全体を見ることは出来ないものの、少し露出している部分を見ただけで不思議と美少女であると思ってしまう。
「次は君の番だよ。緊張してるのかな?」
と、エレンは呼び掛けるが
「………」
反応はさっきと同じで、無言を貫く少女。
――これは、もしかして俺と同じように事態を飲み込めずに混乱しているってことなのか?おぉ、同類よ!
と、シンは心の中で静かに喜ぶ。
だが、シンの喜びは一瞬にして泡沫と消えた。
少女は、どこから取り出したのか、小さな看板を持って、反対の手で指差していた。
そこには、
【我が名はステラ】
と書いてあり、少女はまた次の看板を取り出して指差す。
【神の祝福を受けし者、魔王の祝福を受けし者、一にして全を司る者】
少女は、また次の看板を取り出し――
【そこの女神様(笑)とはわけが違う】
そして、ライトネルに向かって嘲笑を向けた。
――…うん。もう、勝手にしてくれ…
シンは現実から目を背ける事にした。
「何ですって!?雷の女神であるこの私を怒らせたら天罰が下るわよ!私の天罰はね、とっても恐ろしいの。行く先々で同じ人を見つけたりティッシュが必要な時に丁度切れてたり髪の毛を弄ってたら静電気が起きたり大変なんだからね!分かったら土下座なさいな!ライトネル様すみませんでしたって謝りなさいな!今謝ったら明日の朝ごはん奢ってくれるだけで許してあげるわ。」
しかし、少女はまた次の看板を取り出し――
【天罰など我が身には届かぬ】
【我は森羅万象の頂点である存在、お前など塵芥に過ぎぬ】
【というか天罰ショボくないですか?そんなので女神を名乗れるなんて凄いですね女神様(笑)】
と、最後口調がおかしかった(多分最後のが素)がまたもやライトネルをバカにしてみせた。
「あなたいい度胸してるわね。いいわ!表に出なさい!私の本気を見せてあげるんだから!」
【いえ大丈夫です。女神様(笑)の力はたかが知れてますので】
「むきーーーっ!」
「まぁまぁ、落ち着こうよ二人とも」
ライトネルとステラの喧嘩?がヒートアップし、エレンがそれを止めようとする中――
「にゃあ、私、なんか影薄くないかにゃ…?」
尻尾を不機嫌そうに揺らすバステトの、静かな独り言だけがやけに部屋に響いた。
◇ ◇ ◇
「さてと――」
その後、ライトネルとステラの喧嘩?は、ライトネルがステラの看板のストックを折るという荒業に出た結果、【それだけは止めて】とステラに泣いて謝られ一応事態は収束した。
そして、エレンが話を進める。
「これで皆の自己紹介は済んだね。これからはこのメンバーで訓練とか実戦とか色々共有する時間も多くなるから、皆で仲良くしようね」
――…影が薄いのも認める。喋らない自分が悪いのも認める。…でも、忘れるって酷くない…?
シンの自己紹介が終わっていないにも関わらず、話を切り上げようとするエレン。
――…おかしいな。普通の天才イケメン以下略はこんなことをしないはず…いや、初めからこいつは変な感じだった。…何というか…目の奥が濁っているとか…
「それじゃあ君たち。僕と一緒に帰ろう。送ってあげるよ」
と、輝くような笑顔で話すエレン。
――…こいつは…
しかし、三人の少女は、エレンに向けて何か嫌なものを見るような向け、シンの方へ後ずさった。
そして、三人で輪を作り、何やらこそこそと話し始めた。
「ちょっと、あの人ヤバイんですけど。まだ会ったばかりなのに一緒に帰ろうなんてキモすぎるんですけど。ちょっと顔が良いからってこのライトネル様の全てを見通せる瞳を誤魔化せるとでも思っているのかしら?…でも何か奢ってくれるって言ってたような…」
「私もああいうのは苦手にゃ。猫族はにゃ、人の真意が分かるのにゃ。あの男はろくな男じゃないのにゃあ。こっちの静かな人の方がましなのにゃ」
【奴は世界の意思に反逆せし存在、共に滅しようぞ】
距離的に聞こえてしまったのか、エレンの笑顔が目に見えて引きつる。
「きょ、今日は一人で帰るよ。明日から一緒に頑張ろうね」
最後にそう締めくくり、エレンは部屋から出ていった。
小さな舌打ちと、シンへの凄絶な負の感情を表した視線を残して。
――俺は悪くないだろ!何で俺にそんな目を向けるの!?はぁ、もう最悪のスタートだ…
出会って初日で、エレンとシンとの相性は最低値を記録したようだ。
――…帰るか
そして、今日の事は全て忘れて帰ることにしたシン。
だが、現実から逃れる事はできない。
「そういえば、あなた何も喋っていないわね?自己紹介もまだなんじゃないかしら?それより私が女神様だってこと信じてくれてるわよね!?あなたは私の味方よね!?…何よその目は!」
「にゃ!忘れてたにゃ!次はきみの番にゃ~♪」
【汝は何を望む。破滅か栄光か、はたまた混沌か】
――見つかった!!
帰ろうとしていたところを呼び止められてしまったシン。
「きみきみ~?聞こえてるにゃ?さっさと話すにゃ」
――急かさないでくれよ…コミュ障にとっては急かされるのが一番苦しいんだよ…だが、俺も男だ。ここではっきり言っておかないと俺の威厳に関わるからな
◇ ◇ ◇
「じゃあ、よろしく、にゃ♪」
三人の少女は、椅子に座ってシンが話し始めるのを待っている。
逃げ出したい気持ちを抑えて、溜め息一つ。シンは口を開いた。
「俺の名前はシン・グレン。よろしく」
――よっし終わり、帰るか
と、シンは踵を返して歩き出す。
「って待ちなさいよ!名前だけって普通すぎよ!そもそも名前だけって自己紹介としてどうなの?あ、もしかして恥ずかしいのね?仕方無いわよ、そういう年頃だものね?無理しなくても大丈夫よ。皆、シンさんは恥ずかしがり屋だから――」
「うるせええええ!偽女神野郎が!お前さっきからうるせえだけで何の役にも立ってねえんだよ!ちょっとぐらい空気読みやがれ!」
「わああああ!言ったわね!?あなた今最低なこと言ったわ!私女神なのに…うわあぁぁ~ん」
シンの言葉がよっぽど堪えたのか、泣き出してしまった自称女神。
「にゃあにゃあ、今のはシン君が悪いと思うにゃあ。女の子を泣かせるなんて悪い男だにゃあ」
【汝、女は愛でるものであるぞ】
【もっとも、女神(笑)を愛でるなんて不可能でしょうが】
と、ライトネルとステラの喧嘩が第二ラウンドに入ろうとした所でバステトが口を開いた。
「シン君シン君、君は何でこの組織にはいったのかにゃ?理由はあるにゃ?」
――その瞬間、シンの気配が豹変した事に三人は凍りつく。
シンは取り巻く空気が、その怒りに当てられ渦巻いている。が、次の瞬間には雲散霧消し、
「…言わなきゃ…駄目か…?」
泣き笑いのような表情で、シンは言った。
「…にゃ…別に言いにくかったら言わなくてもいいにゃ。聞いてみただけにゃ…」
気まずそうにバステトは言葉を返す。だが、もう一人シンに向かって言葉をかけた人物がいた。
「だからぁ。シンさんは恥ずかしがり屋だって言ってるで――」
「空気を読め!!」
寸分違わず、ライトネル以外の三人の声(ステラは看板)が重なった。
自己紹介編…長かった^^;
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