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Apostles12~罪を背負いし少年の復讐譚~  作者: 尖閣諸島諸島警備隊第6小隊隊長代理
一章 対[火]の使徒
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束の間の休息

楽しんでお読み下さい。

「…最終…試練…は…もう少し…時間が…経ってから…だ…安心…しろ…。」

その、耳に滑り込むような低い音の中に少し少年らしさも感じられる途切れ途切れの声に、シンは安心を覚えた。今までの事も全て幻想で、目を覚ますと自分は一人ぼっちなのではないかと思っていたのだ。

それだけ、最難関と称される第二の試練はシンにとって衝撃であった。

「…取り…敢えず…お疲れ…様…と…言って…おこう…か…。」

あまり言ったことが無いのか、妙に言葉の中に感情が見受けられないが、シンを労っているようだ。

「あ、ありがとうございます。」

シンは、礼の言葉を述べ、――それで、と続けた。

「さっきの試練の合格条件は何だったんですか?自分でも良く分かってないんですが、[己の心に打ち勝つ]という事ですかね?」

しかし、質問された男も良く理解していないのか――

「…さあ…な…実の…ところ…俺も…良く…理解…してい…ない…。…何しろ…試験終了…時点…で…対象の…表情…に…陰りが…無ければ…合格…としか…試験内容…に…記載…されて…なかったから…な…」

その後、詳しく男に聞いてみたところ、第二の試練以外の合格条件は試練終了後に開示されるのだが(シンの場合、正規の手段ではなく男に無理矢理連れて来られたため、男が試験官を務め、合格条件も男が伝えた)、第二の試練の合格条件は開示されないのだそうだ。男が、第一の試練の合格条件を知っていて、第二の試練の合格条件を知らないのはこの為だ。公開されないとなると、それは個人の情報、プライバシーに関わる事であると推測されるだろう。例えば、"試験対象の身内で最も凄惨な死を遂げた者のその瞬間の推測映像"を開示する事は完全にそれに触れている。

「そうですか…まあ、予想はしていましたが…明らかに異質でしたから。」

普通、対象の記憶をスキャンし、ミーリアの死ぬ瞬間の映像を瞬時に製作、投影し、対象が過去に囚われないようにする、などと誰も予想はしないだろう。まぁ、シンが失神した時に、現れた三人は完全に試験外だろうが。

「…第二…の…試練…を…終えた…者…は…皆…そう言う…。…俺も…そう…だった…。」

男はそう言って、ふけるように目を細める。

――あの時、俺は暴れまわって部屋の中の機械を一つ残らず破壊してしまったな…。だが、こいつは今、多少疲弊しているようだが問題なく突破している。やはり、こいつは――

男は、期待を含ませた目でシンを見る。

「…まぁ…今は…少し休め…。…第三の…試練…といって…も…よっぽど…特殊…な…状況下…でなければ…ほとんど…体は…駆使…しない…。」

――"特殊な状況下"という言葉が少し気になったが、シンは休めるということに安堵した。

今まで、第一の試練が行われるまでずっと全力疾走し、立て続けに試練が行われ、シンは疲弊していた。いや、とても疲弊していた。…まぁ、これ程ハードな事はこなした事が無かったシンにとっては当然のことだが。

「それで、どこで休憩するんですか?」

「…付いて…来い…」

男は、淡々と相変わらず途切れ途切れの言葉で、シンを案内した。


◇  ◇  ◇


「…ここ…だ…」

着いた場所は、何とも形容し難い幾何学的な立体が乱立しており、名工が意匠を凝らして制作した精緻な幾何学立体を無造作にばらまいたような、そんな部屋だった。

「…あ、あの~…この部屋は何の用途で使われるんですか…?」

余りにも予想外だった部屋に、少し困惑している様子のシン。言葉を失っていた事に気付き、慌てて質問を男に投げかけた。

「…ここ…は…俺の…部屋…だ…。…極力…過ごしやすい…よう…に…している…から…ゆっくり…と…休め…。」

――……どこが…!?

しかし、"センスが無い" "落ち着かない"などと言えるはずもなく――

「…なんと言うか…全てを超越したような…はい、全てを超越していますね…。」

意味の分からない感想を述べるだけに終わった。

そんなシンの思考には気づかない男は、不思議そうに首を捻ったが――

「…それなら…良かった…。…しばらく…休んで…おけ…。…また…呼びに…来る…。」

「…はい。」

――まぁ、地べたよりかはマシか、と失礼な感想を心の中で言うシン。

ベッドや布団らしき物も見当たらないため、仕方無く床に寝そべって寝ることにした。

しかし、閉じかけた瞼を遮るように男は続けた。

「…部屋…の…中央…にある…立体…には…触る…な…。」

先程とは違った、強い口調だった。

「…は、はい。」

そして、男は去っていった。

――触るなと言われたら気になってしまうよな…

と、一瞬、子供の様な考え方をしてしまうシン。だが、疲弊しきった体に余力は無く、睡眠欲の赴くまま静かに目を閉じた。

第三の試練に、一抹の不安が過ったが、それも雪が溶けるように意識の奥深くへ溶けていった。


誤字脱字などあればご報告下さい。

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