星の守護者
楽しんでお読みください。
「ふふん!これで分かったでしょう?私はシンさんよりも凄いの!分かった?」
空中を飛び回るのを止めて地上に降りてきたライトネルは、予想通り威張り倒していた。
いやー、ライトネルさんは凄い!流石はライトネルさんだ!まるで女神のようであるな!
と、ライトネルの周りに居るものは騒ぎ立てている。
そのままスルーすることも考えたが、少しだけ頭にきたので一つ教えてやることにした。
「威張ってるところ悪いが、お前は俺に鬼ごっこで負けたよな?まさか忘れてないだろうな?」
すると、う、と声を漏らして、ライトネルは固まってしまった。
そうなのか?何だ、シンちゃんの方が凄いのか。こんな女神など居るはずがないのである!
やけに短い天下だったな。憐れな奴だ。あれ?今何かおかしくなかった?ちゃんって聞こえた気が……気のせいか?まあ、いいか。
そういう思いを込め、
「フッ」
シンは、ライトネルを鼻で笑ってやった。
「うわあああ!酷い!シンさん酷い!何よそれ!フッ、って何よ!!どんな感情なのよ!?」
「……いや、憐れで馬鹿な奴だなあと」
「うわあああん!!」
あ、泣いちゃった。でも何でだろう。シャロンを泣かせてしまった時のような罪悪感が全く無い。
むしろ、何か高揚感を感じる。そう、勇者をいたぶり、両手を広げて高笑いをしている魔王のような感じが……ここで止めておこう。何だか、これ以上進めば戻れないような気がする…。
危ない扉を開きかけたところで、シンはぎりぎり踏みとどまったようだ。
うわ、あいつ泣かしたぞ。ありゃ将来浮気するタイプだな。鬼畜なのである!
最後の奴を除いてひそひそと、何やら周りで話しているが、こういうことは関わらぬが吉なのだ。
だからここは華麗にスルーしておこう。
そして、シンはバステトの元へと戻っていった。
「し、シン君ってエグいにゃ…」
「え?何が?」
何故かバステトが引いていたが、何故かは分からない。
「ま、まあいいにゃ。それより、ライトにゃんが使ったのも怒りじゃないにゃ?」
「ん?そうなのか?確か罪能って言ってたが、怒りと同じじゃないのか?」
"罪能"という言葉に驚いたのか、バステトは目を見開いて言った。
「"罪能"って言ったにゃ!?あり得ないにゃ…それは天界の上位存在しか使用出来ないはず。もしかしてシン君とライトにゃんは天界から来たにゃ?」
「いや。俺はアメージア大陸のド田舎で生まれ育った。ライトネルは知らないが」
「そうにゃんか…。だったら尚更あり得ないにゃ。罪能を使用出来るだけで異常なのに属性まで発現してるとなったら、数百年は生きていないと不可能なのにゃ」
なるほど。つまりライトネルはババアだったという訳――
「何か嫌な感じがしたわ!今何の話をしてたの!?この感じは二回目よ!女神の中で私が最も永い時を生きているって話をしたときに「つまりライトネル様はピチピチの老害だったのですね」って言われた時と同じ感じがしたわ!」
その瞬間、悪口に敏感なライトネルが飛んできた。
「いや、ライトネルはババ――」
「わああああ!だめ!それ以上は言っちゃだめ!!」
答えようとしたが、焦ったライトネルに口を抑えられてしまった。
そして、二人を呆れたように眺めていたバステトが口を開く。
「ライトにゃん。君は何者にゃ?何で罪能が使えるにゃ?」
そう、単刀直入に聞いた。
「そんなの決まってるじゃない!前にも言ったように、私はこの世に四柱存在する女神の中で最古の一柱。雷の女神ライト――」
「あ、そこまででいいにゃ。ありがとにゃ」
胸を大きく反って、これでもかと自慢げに話していたライトネルの話を途中で遮って、再びバステトは思考に沈む。
「ちょっと!何で止めるのよ!一番良いところだったのに!ねえ、聞いてる!?もう一度言うわよ!」
なるほど、目の前の少女が雷の女神だったとしたら先程の異常な動きも説明出来る。安易に嘘だと言い切れないかもしれない。
しかし、とバステトはライトネルに目を向ける。
「私は雷の女神、ライトネル・トル――」
女神というには、あまりにも威厳がなく、天真爛漫で騒がしい少女。
――馬鹿馬鹿しい。女神っていうのは誰よりも威厳があって、誰よりも頼もしく、そして誰よりも――
バステトは俯く。
――残酷なのだ
そして、俯いていた顔を上げ、再びライトネルを見る。
――この少女は、決して女神などではない
「ちょっとバステト!あなた信じてないでしょ!本当なんだからね!私は本当に女神なんだからね!」
「そう…そうにゃんか」
バステトは泣き笑いのような表情で言った。
「あれ?バステト?私何か酷いこと言っちゃった?大丈夫?」
そのバステトをライトネルは必死に慰めていた。
一連の光景を見ていたシンは、思う。
様々な感情がバステトの中で蠢いているのが分かった。
それは敬愛。それは信仰。それは恐怖。それは怒り。それは憎悪。
様々な感情が見え隠れしていた。
バステトの過去に、何があったのかは分からない。だが、女神と何かしらの因縁があるということは分かった。
それに口出しするつもりはない。誰にでも、触れてほしくない過去はあるものだ。俺にもある。
だから、せめて、とシンは願う。自分が触れることが出来ないのだから、力になることも出来ないから。
――バステトが、後悔のない選択を出来ますように…
居るとも分からない、姿の見えない神に向けて、シンは静かに祈りを捧げるのだった。
「で、シン君は何でそんな服を来てるにゃ?」
すると突然、その場の空気を破壊する爆弾をバステトが投下してきた。
「え?何って別に普通の――」
と言って、シンは自分の体を見下ろすと、
それは女物の隊服だった。
忘れてた!!!
「い、いやこれはだな――」
「それはね!シンさんの趣味なのよ!シンさんは女装するのが大好きだって――」
「嘘つけ!いつ俺がそんなこと言ったよ!デタラメ言ってんじゃねえ!」
「し、シン君にそんな趣味があったにゃんか…」
「いや無い!無いから!ゼロだから!確かなのはライトネルが馬鹿というだけだから!」
「何ですって―!!」
シンが何故女物の隊服を着ているのかは分からないが、バステトは思う。
こういう明るい方が楽しいと、しんみりした空気はいらない、と。
――あぁ、皆と仲間になれて、本当に良かった…
「まあまあ、二人とも落ち着くにゃあ~」
バステトは、およそ喧嘩を諌めるものではない、嬉しさの滲み出る声で、二人に向かっていった。
◇ ◇ ◇
さてと、何か忘れてはいないだろうか。
同じアスカロン戦隊のメンバーにも関わらず、未だに置いてけぼりにされている者の存在。
その存在は、分厚い本を三冊空中に浮遊させて、しゃがみこんで何やら地面に字を書いていた。
可愛らしい動物のフードの耳部分が、風に吹かれて寂しそうに揺れている。
そう、ステラだ。
――皆、私を放ったらかしにして酷いのだ。私は祝福を受けし者、ステラであるぞ。今もこの私が魔導書を使ってまで魔法を見せてやろうというのに。誰も見に来ぬではないか。
シンさんの馬ー鹿! 言ったなお前!
あの者らもまた喧嘩をしておるわ。私もあの者らのように話がしたいものよのう。べ、別に羨ましいというわけではないが!
そして、未だに喧嘩をしているシンとライトネルを眺める。
羨ましいわけでは……
ポスン、と魔導書が地に落ちた。
何だ、私らしくもない。元より、私は孤独だったではないか。今更昔に戻ったところで何とも…
だが、ステラの心はそう思うことを否定する。
――何とも……
すると、ステラに一人の男が声を掛けた。
「やあ、ステラちゃん。バステトちゃんもライトネルちゃんも凄いね。シンちゃんっていう知らない子も。僕はまだあそこまでは出来ないよ。ステラちゃんはまだ合格してないよね?僕が教えようか?」
その言葉に、ステラは全身の細胞一つ一つが、怒りに燃え上がるのを感じる。
――なんという屈辱…!!あの人間に…よもや心配などされようとは…!!
許容出来ない。抑えきれない。
思い出す、人間達の愚行愚考愚行愚行。
我が働きは一体何だったのか。数千年の孤独の中、人間だけのために費やしてきたあの――
ステラは、溢れ出す怒りが制御下から外れたのを感じた。
「ふ、ふはははは。ふはははははは!矮小で狡猾で最悪な人間如きが!!この私に指導だと!?ふざけるな!見せてやろう!我が力の一端を!我らの怒りを知るがいい!!」
看板を使わずに、ステラは鈴を転がすような声で言い放った。
その声に、この場に居る者全員の視線がステラに向く。
「森羅万象を滅せし黒剣よ。最高神を祀りし高楼よ。我が怒りの鉄槌として裁きを下すがいい」
三冊の魔導書がステラの周囲を漂い、ページが捲られながら凄まじい光を放つ。
それに"怒り"は込められていない。怒りは人間のために作られた力であり、ステラは人間ではないからだ。
その正体は、星。地球の危機を感知し、駆け付けた、星を守る者。
星の守護者ステラだ。
「終末の滅亡剣!!」
その瞬間、空が割れ、文字通り"終末"をもたらす極大の黒剣が顕現した。そして、暗黒のオーラを放ちながら凄まじいスピードで落下してくる。
周りの奴らは呆けたように固まっていたが、事態の重大さに気付いたのか大きく喚き散らし、逃げ惑っている。
だが、シンには分かった。
"逃げる"よりも"相殺"する手段を探す事の方が現実的だと。
あの大質量があの高度から落下するだけでも甚大な被害が出るというのに、暗黒のオーラは特にヤバい。あれに触れた瞬間、いかなる物質も分解されてしまう。
先程から空間に足場を作って何とか止めようと試みているが、オーラに触れた途端に霧散してしまう。さっき、試しに怒りを込めて投げた石も、オーラに触れた途端消失した。
「ライトネル!バステト!力を合わせるぞ!あれを止める!」
「分かってるわよ!逃げた方が死ぬ確率が高いんだからそりゃ止めるわよ!」
「了解にゃ!でもどうやって止めるにゃ!?」
現在も、空気を分解しながら落下してくる黒剣。地上まで500mは切った辺りだろうか。
ステラを見ると、何やら幾何学的な図形が何重にも合わさった結界を張っている。その数は優に千を超えており、黒剣にそれだけの威力があることを暗に告げていた。
エレンはとっくに逃げてしまったようだ。
「ライトネル!あれと同じくらいのエネルギー体を造ることは出来るか!?」
「当たり前でしょ!女神に不可能は無いの!……でも、少し足りないかも~なんて…」
「なら俺も一緒に力を注ぐ!」
これで、エネルギーは確保出来た。いや、まだ厳しいか。相殺するには同じかそれ以上のエネルギーが必要だ。しかも方向性を付けて撃たないと当たらない可能性もあるし、途中で威力が減衰してしまう。そしてあのオーラを突っ切る程の力が必要。
まだ足りない。
「バステトは何が出来る!?」
「私なら集めたエネルギーを倍にする事が出来るにゃ!練ったエネルギーを私の右手に注いでくれにゃ!」
そして、バステトは右の拳を天高く掲げた。
どうやってするのかは分からない。だが、今は手段を選んではいられないのだ。
「分かった!やるぞライトネル!」
「分かったわ!」
シンの純粋な力の暴力とライトネルの雷の絶大なエネルギー。
それが、バステトの右手に注がれていく。
「ぐっ、もっとにゃ!」
凄絶なエネルギーの奔流に、焼けるような痛みを感じながらも耐える。皆を守るために。
「ぐ、俺はここまでだ。もう何も出せない…」
シンが自分の持つエネルギーを注ぎきってその場に倒れこんだ。
「ええ!?シンさんギブですか!?もうギブなんですか!?うわぁ恥ずかしい~!って私ももうダメ…ガス欠…」
「おいいい!!もしかしてお前喋ったからじゃねえだろうな!これで駄目だったらお前のせいだからな!」
「二人、とも、静かにする、にゃ!」
その時、バステトの苦しげな声が二人にかかった。
バステトの右腕は既に光そのものになっており、空気が渦巻き、周囲に無数のプラズマが浮遊している。
その力を制御するために、相当の集中力を要するようだ。
それを感じ取ったのか、それ以降、二人は押し黙った。
――"コンセントレイト"
心の中で、バステトは知覚能力を数千倍に高める魔法を唱える。
停止したように引き延ばされた世界の中で、バステトの脳のみが動き続ける。
これで、エネルギーの奔流を霧散する前に制御しきる事が出来る。
だが、代償もあった。
知覚能力を高められた脳は、全ての感覚を等しく高めてしまう。それは痛覚も例外では無かった。
だがこれは普通の人物にとっての代償に過ぎない。強い意志を持つ者ならば発狂することは無い。
そしてそれが、バステトだった。
――こんな痛みなど、なんてことはない。あの時の痛みに比べれば。目の前で同胞達が一人ずつ消されていく光景を、何も出来ずに眺めるだけの痛みに比べれば。
「はあっ!」
そして、コンセントレイトの効果時間が切れた。
渦巻く空気も、無数のプラズマも霧散していた。
一見、失敗に見える。が、見る者が見れば、バステトの右腕には、とんでもないエネルギーが込められているのが分かるだろう。
バステトは、左腕を大きく天に突き出し、右腕を大きく引いて構えた。
「多重魔法陣展開にゃっ!」
すると、上に行くにつれて段々大きくなる黄金に輝く魔法陣が、数十個顕現した。魔法陣一個につき、エネルギーが二倍されるのだが、その数は数十個、つまり窮地でバステトは能力を進化してみせたのだ。その威力は、以前と比べるのも烏滸がましい程に文字通り桁が違う。
「行くにゃっ!"複合魔法拳"雷神の鉄槌!!」
叫ぶと同時、ライトネルは右腕の拳を思いっきり振り抜いた。
拳から放たれた絶大なエネルギーが、魔法陣を通るごとに倍加されていく。
そして、最後の魔法陣を通り抜けた時、比喩などではなく、それは、"雷神の鉄槌"と化していた。
――轟音
黒剣と雷神の鉄槌が衝突した。
暗黒のオーラが触れた瞬間からエネルギーを消失させようとするが、その莫大なエネルギーを完全に消失させるには至っていない。
二つの勢力はしばらく攻めぎあっていたが、不意にその均衡が崩れた。
「有り得ぬ。こんなことは有り得ぬ!星の力に抗うなど不可能ではないか!」
ステラが平静を乱し、声を上げていた。
それと同時に、黒剣も徐々に中心から崩壊していく。
簡単な話だ。
魔法は心を取り乱すと発動しない。ただそれだけだった。
そして、遂にバステトの放った雷神の鉄槌が、黒剣を呑み込み、次の瞬間それを消し去ってしまった。
それでも足りぬと、雷神の鉄槌は天高く上昇していく。
「成功だ…」
「やったわ!シンさん成功よ!」
シンは疲れたように呟き、ライトネルは犬のように跳ね回って喜んでいる。
「ていうかお前、まだ余裕あんじゃねえか。何がガス欠だよ…」
「うるさいわね。ちょっと体がダルくなったから止めたの。必要量エネルギーは溜まったし」
「いやそうじゃなくて、お前だけのエネルギーでもいけたんじゃ――」
「いやぁ~、お腹空いたわねシンさん!」
――コイツ!誤魔化しやがった!
まあ、いい。今は協力して難を乗り越えた喜びを感じていたい。
「…にゃあ、私のこと忘れてないかにゃ…」
その時、弱々しいバステトの声が耳に入った。
「ああ。よくやったなバステト。凄かったぞ…って大丈夫かその腕!?」
バステトの右腕は、黒く焼きただれ、無数の傷痕が刻まれていた。
「大丈夫にゃ…皆を守るためなら腕一本くらいどうってことない、にゃ…」
そして、バステトは歯を噛み締める。相当痛みがあるようだ。
何か、痛みを和らげる方法は――
「あ、バステトお疲れ様~って腕凄いことになってるじゃない!私が治してあげるから!」
「ライトにゃん、大丈夫にゃ。もう、治らない――」
「治癒光」
その瞬間、バステトの右腕が淡い光に包まれ、見る見る内に、綺麗な姿を取り戻した。
「さあ!治してあげたわよ!これで一件落着ね!」
「…あ、…うん、そうにゃんね…」
バステトはライトネルの魔法に驚いているようだった。もしかしたらライトネルは本当に凄いのかもしれない。…いや、ライトネルだしな…それは無いか、うん。
おっと、忘れるところだった。
シンは振り返ると、地面にへたりこむステラに向かって歩き出した。
「ステラ。大丈夫か?」
フードに隠れて、ステラの表情は見えない。だが、その声に怒気が孕まれていることには気付いた。
「何故…私を心配するのだ…私が悪いのに…いや、悪いのは人間だ!星が壊滅に向かっていることから目を背けて、知らないふりをして!それを私はずっと一人で抑え続けていたのに!悪いのは――」
「驚いた。ステラお前喋れたんだな。看板で話してたから喋れないのかと」
すると、ステラは顔を上げた。
ステラの目からは涙が溢れていた。
「もう、大丈夫だ。ずっと一人で辛かっただろう」
その言葉に、ステラは温かく、包まれるような感覚を覚える。
「ずっと、一人で背負い込んでいたんだな。これからは俺達も一緒に、背負ってやるからさ。志は皆同じだ。ここにいる皆、星を救いたいと考えている。元の姿を取り戻したいと考えている。だからさ――」
――ポツリ
と、ステラの手の甲に雫が落ちた。
ポツリ、と同時に雨も降り始めた。落ちた雫が、涙なのか、雨なのかは分からない。
「俺達と一緒に、頑張っていこうぜ」
そう言って、シンは手を差し伸べた。
だが、少なくとも、ステラは理解した。
あぁ、この星も捨てたものではないな。まだ、このような者が居ようとは。
本当は、滅ぼしてしまうつもりだったが、永き時の一瞬でも、この者らと過ごすのもいいやもしれぬ。
でも、と。
「私は…許されるのか…?このような事をしでかして、私はここに居られるのか…?」
「許されるさ。ステラは正しい行動をしたからな。まぁ、少しやり過ぎだったから一言謝るだけはしておこうぜ。それでも追い出そうとする奴が居たならば、俺がぶん殴ってやる」
はっ、としてステラはシンの顔を見る。
頬が紅潮していくのを感じる。
何だこの感情は、もしやこれが世に言う――
すると、目の前のシンという男は、優しく微笑みかけてきた。
――"恋"か!!
何だか頭がボーッとするのだ。これも恋、なのか?
そして、ステラはシンの手を取った。
――温かい。もう、一人ではないのだ…
雨が降り続いている。
普段は鬱陶しいと思うところだが、今の雨は憑き物を洗い流してくれるようで心地良かった。
「よし、これで俺達は本当の仲間だな」
シンはそう言って、ステラの頭にポフン、と手を置いた。
――何だこれは!胸がドキドキして目がグルグルして右も左も分からぬ!一体どうすれば!
初めての感覚にステラは混乱し、言葉を発せなかった。そこで、あれを使うことにした。
【うむ。よろしく頼む】
と書かれた看板を、ステラは出した。
これが今自分が出来る精一杯だ。
シンは不思議そうに、一度瞬きをすると、クスクス笑い出した。
「何だか、そっちの方がしっくりするな」
嬉しかった。自分を認めてくれた気がして。今度、看板の色をピンクに変えてみようとステラは思った。
そして、今まで一番気になっていた事をシンに聞いてみた。
【ところで、何でそんな服を着ているのだ?】
「いや?別に普通の――」
シンは自分の体を見下ろした。そこに見えたものは、女物の隊服。
忘れてた!!!
急いで弁解しないと奴が来てしまう。
「あ、ああこれはだな――」
「それはね!シンさんは女装するのが趣味だからなのよ!!」
やっぱり来た!!
「ライトネル!いつの間にここに!?ていうか嘘言ってんじゃねえ!!」
【へえ…そんな趣味が…】
ステラが引いたような目でシンを見ていた。
「いや違うから!確かなのはライトネルがアホで嘘つきなだけということだけだから!」
「何ですってーー!!」
そして、ステラの目の前で二人は喧嘩を始めてしまった。
仲間が居るだけで、これほど満たされるとは思いもしなかった。
――悪くない
そう思っているステラに声が掛けられた。
「にゃあにゃあステにゃん~。ちょっといいにゃ?」
バステトだった。何やらニヤニヤしている。
【何だ?】
すると、バステトはイタズラ気に笑って、
「ステにゃんって、もしかしてシン君のこと好きにゃ?」
「な、何を…!」
「猫は相手の気持ちが分かるのにゃ!この甘酸っぱい匂いは恋にゃ!そしてこの場に居る男はシン君のみ!つまりにゃ!ステにゃんはシン君に恋してるってことにゃ!名推理にゃ!」
「そ、そういうのではないのだ!」
「おっと?看板を使わないということはぁ、図星にゃあ?」
そして、ステラは顔を真っ赤にして、
「違うのだ!断じて違うのだ!!私に恋愛感情などは存在しないのだ!」
バステトに向かっていった。
「にゃ?鬼ごっこにゃ?にゃはははは!こっちおいでにゃ~!」
雨は未だに降り続いている。
そこには、雨から連想される哀愁などは無く、未来に待ち受けている様々な楽しい出来事に、胸膨らませる星の少女の思いがあった。
雨降って地固まるですね!
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