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Apostles12~罪を背負いし少年の復讐譚~  作者: 尖閣諸島諸島警備隊第6小隊隊長代理
一章 対[火]の使徒
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雷神のテヘペロ

楽しんでお読み頂けたら幸いです。

さて、さっき通った道に他の通路はあっただろうか。

現在、シンは別の訓練場に向かっていた。というのも、先程訪れた訓練場はシンの属している戦隊の訓練場ではなかったのだ。だが、初めて通る道であり、どこに向かえばいいのかもさっぱりだった。

――ふーむ…どうすれば…

そこで、シンは一つの策を思い付く。

――そうだ!ライトネルの気配がする場所へ行けばいいんだ!

ライトネルは、シンと同じアスカロン戦隊のメンバーの一人であり、その独特の気配は既に覚えていた。

そして、シンはライトネルの気配を探すべく、深く集中する。

――大丈夫だ。ライトネルの気配は比較的探しやすい。静電気のように絶え間なく空気が微妙に振動する感覚……あった!…けど…

ようやく、ライトネルの気配を見つけ出したシン。だが、少しおかしかった。

――何故、そこにライトネルの気配しかないんだ…?おいおいもしかして…

嫌な予感がするが、行ってみないことには何も分からない。

取り敢えず、その場所へ向かうことにした。



うん。予想はしていたよ。概ね予想通りだ。

だからあまり驚いてもないし、何とも思わない。

「…すかー」

ライトネルは、物置の隅で眠っていた。

あまりにも気持ち良さそうに眠っているので、こちらも優しい気持ちになれるかと期待したが、その顔を見ている内に、逆に怒りが沸いてきた。

「おいライトネル!お前何でこんなとこで寝てるんだ!おい起きろ!起き…全然起きないんだけど!」

大声を出しながら体を揺すり、覚醒を促したが、全く意味を成さなかった。

仕方無い。最終手段だ。これを使えば必ずこのふざけたアホ女を起こすことが出来る。

そして、シンは何気無く、本当に何気無く、ライトネルの鼻を摘まんだ。

「すかー…すかーふがっ!…んぅ…誰ぇ?」

「俺だ!いつまで寝ている!!さっさと起きろ!」

「ふわあ!シンさん!?」

俺の顔を見てライトネルは飛び起きた。

「何でここに…は!もしかして…夜這い…?」

「アホか!もう昼前だよ!後、お前に夜這いをかけるような奴は居ないと思う」

「何でよぉ!私に魅力が無いとでもいうの!?」

「うん」

「わああああ!シンさんの馬鹿あ!」

と、寝起きで騒ぎ回るライトネル。

「何でお前は寝起きでこんなに煩いんだ!少し黙ってろ!」

「だってぇ…シンさんが酷いことを…あれ?その服」

服?、とシンは自分の体を見下ろす。

それは女性用の隊服だった。

忘れてた!!

「いやあの、これはだな」

「シンさん何で女物の隊服着てるの~!?もしかしてシンさん、そういう趣味が――」

「無えよ!これには深い訳が――」

「シンちゃん可愛い~!ぷーくすくす!男の子なのにそんな服着て恥ずかしくないの?」

「だから話を聞け!!」

シンは、女性用の隊服を着ることになった経緯をライトネルに話す。


「なるほど!シンさんにはそういう趣味が――」

「無えよ!話聞いてたのか!!」

話すだけ無駄だったようである。


「あ~もう、俺のことはどうでもいいから。お前は何でここに居るんだ?今日は訓練じゃないのか?」

すると、ライトネルは考えるような顔付きになり、訓練、訓練…と呟く。

「あぁ!思い出した!何か知らない人が迎えに来て、付いてこいって言うから言う通りにしてたら、途中で眠くなって気が付いたらここに…私って物置に引き寄せられる習性でもあるのかしら?」

「どんな習性だ!全く、そんなこったろうと思ったよ!お前は寝るか食うかのどちらかだもんな」

「ちょっと!人を怠惰の化身みたいに言わないでよね!」

「お前が怠惰の化身じゃなかったら何なんだ!そうじゃなかったらお前は食用の家畜だ!」

「私は雷の女神よ!怠惰の化身でも豚でもないわ!そんな低俗なものと一緒にしないでくれるかしら!」

――ほう。低俗…低俗ねぇ…

「…フッ」

「ちょっと!何で今鼻で笑ったのよぉ!取り消しなさいよ!」

「断る!この低俗な偽女神め!」

「わああああ!シンさんがまた酷いこと言ったぁ!大体、私にそんなこと言っておいてシンさんも何でここに居るのよぉ!」

と、ライトネルの言葉にシンは我に返る。

「忘れてた!今すぐ行くぞライトネル!」

「どこによぉ!訓練場の場所なら私知らないわよ!」

――それを今探してるんだよ!

そして、シンは災厄を超えし者ファイナルキングバードを討伐した時よりもさらに深く集中する。

それは、訓練初日から無断欠席などあってはならないという使命感の成せる技か、はたまた…

――思い出せ!あの僅かに淀んだ気配を。一見綺麗で純粋な光だが、その奥に垣間見える濁った気配を。エレンの奴なら必ず向かっているはず。

エレンもシンの所属するアスカロン戦隊のメンバーの一人。何故かエレンからは敵視されているが、今それについて考える余裕は無い。

額の汗が流れ落ち、目に入るが、お構い無しに気配を探す。


そして遂に、

「居た!そこか!」

エレンの気配を見つけ出すことに成功した。

「誰が!?何処によ!」

ライトネルが問い掛けてくるが、少しでも気を抜くと、また気配を見失ってしまいそうだったので、スルーした。

「行くぞ!」

それだけ言って、シンは駆け出した。

「え!?ちょっと待ってよ~」

ライトネルもシンの後ろに付いてきているようだ。


――くそ!行き止まりか!

だが、シンは行き詰まっていた。気配がする場所は分かっているものの、建物の構造が分からないために、そこへ行くことが出来ないのだ。

近付こうとすればするほど、離れた場所の通路に出てしまい、きりが無かった。

「ねえシンさん!もしかして建物の構造が分からないの!?」

「ああ!何で分かったんだ!?」

「女神の勘よ!凄いでしょ!建物の構造は自分の"罪能"を一気に解放して気配感知で読み取ることである程度は分かるわよ!」

「そうか!分かった!」

そして、シンはライトネルの言った通りに自分の罪能を解放する。

解放した罪能は、凄まじい速度で壁、床、天井を這っていき、気配感知を発動させると今まで全く分からなかった建物の構造がはっきりと分かった。

「ありがとうライトネル!これで大丈夫だ!」

「うそ…"形状解読"も一瞬で覚えちゃうなんて…シンさんてやっぱりおかしいわよ!」

シンは迷うことなく、道を突き進んで行く。

それを、ライトネルは信じられない様子で見ていた。

"形状解読"という技は、二つの能力を同時に発動させなければならず、非常に修得が難しい技術なのだ。それを一瞬で修得したことも異常なのだが、ライトネルが驚く理由は他にあった。

――信じられない…既にシンさんの放った罪能が建物全体にまで行き渡ってる…

本来、これほど広い場所で"形状解読"を使うのであれば、定期的に罪能を解放し、少しずつ読み取っていくものなのだが、シンは一度解放しただけで建物全体にまで罪能を行き渡らせている。

自分達女神ならば容易いことだが、シンのような普通の人間がこのような事を成せるなど異常でしかない。

――まあ、私の教えかたが上手だったのね!流石は私!

結局は、自分が凄いからという理由に収まった。

そして、3歩走ると、その事はライトネルの頭から抜けていくのであった。


「よし!あそこが訓練場だ!行くぞ!」

突然、シンはそう言うと、目の前のドアに向かって勢い良く走っていった。

「あ!待って!そこは…」

「遅れてすみませんあああああぁぁぁぁ……」

慌てて静止させようとするライトネルだが、時既に遅し、シンはそのまま落ちていった。

「だから言ったのに…慌てすぎよ全く」

呆れたようにそう呟くと、ライトネルもドアを開け、中に飛び込んだ。



◇  ◇  ◇



「ぁぁぁぁあああああ!!!」

――ボフンッ!

し、死んだかと思った。ふと、横を見ると、緩衝材に大きな穴があった。

――あれ、これデジャヴか?

シンがそう思ってしまうのも無理は無かった。

初めて落ちた場所の緩衝材に穴が開いていた事は、シンにとっては最悪の思い出だったのだ。

一拍置いて、

――ボフっ

と、再び緩衝材に何かが落ちた音が聞こえる。

「ちょっとシンさん。慌てすぎよ~」

後から飛び降りたライトネルだった。

「ああ。悪かった。少し焦ってた」

「シンさんてそういうところあるわよね~。焦って慌ててしまうところ。それは戦場では命取りよ」

普段のライトネルには似つかない、真面目な口調だった。

――いつもこうしてればいいのに…

口に出すとまた拗ねてしまいそうだったので、口には出さなかった。

「そうだな。今後気を付けるよ。それにしてもここは――」

「お前たち」

不意に掛けられた声に、反射的に背筋をピンッと伸ばしてしまう二人。

そして、ギギギ、と油の切れた人形のようなぎこちない動きで、二人同時にそちらを見る。

そこには、教師であろう眼鏡を掛けた誠実そうな男性と、アスカロン戦隊のメンバーである、エレン、バステト、ステラの三人と、他の戦隊の人達だろうか、十人程の人達がこちらを凝視していた。

「遅刻してきたと思えば、ペチャクチャペチャクチャと喋りだして訓練の邪魔をするとは。どういう了見だ?」

ハッキリと、背後で蠢くオーラが見えた。

シンは、この状況を打開すべく、頭をフル回転させる。

そして、その頭が導き出した最善の答えを実行――

「テヘペロ!」

するよりも速く、ライトネルが言った。


――うん。これは誰でも分かるね。終わった…


シンの訓練初日の波乱は、まだ始まったばかりである。

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