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Apostles12~罪を背負いし少年の復讐譚~  作者: 尖閣諸島諸島警備隊第6小隊隊長代理
一章 対[火]の使徒
12/44

ライトネルさんこんばんは

忙しくて、執筆がとても遅れてしまいました…申し訳ございませんm(__)m

楽しんでお読みください。

「――実は」

現在、シンは試練終了後休息をとっていた部屋で男と話していた。

…というか、以前この部屋に訪れた時は気付かなかったが、部屋に無造作に散りばめられた高さ1m程の立体。角がまるで刃物のように鋭い。

男曰く、

立体を避けながら刀を振ることで、同時に下半身も鍛える事が出来るからだそうだ。

まるで理解出来ない。

万が一、バランスを崩して立体に倒れこんでしまった場合、そのまま輪切りである。

それ程までに、立体の角は鋭利だった。所々、赤く染みが付着しているように見えるが、気のせいだろう。


そんな考えを抱きながらも、シンは男に何があったのかを話した。


「…ほう…災厄を超えし者ファイナルキングバードを…討伐した…か…」

そして、シンの報告に、男は内心驚愕する。

――あり得ない。本来、生物が進化して生まれた災厄級の怪物は、組織の中でも上位の者が数十人派遣され、それでやっと討伐出来るようなレベルなのだ。

それを、入団初日で、さらに単独討伐など前代未聞であった。

この時、シンはライトネルの事を除外して男に話していた。一応、ライトネルも勲章を貰ったものの、本当に逃げるだけで役に立たなかったのだから当然である。

――しかし、驚いたな。出会った時から才能を感じていたが…これ程とは…な…早急に、突破させるべきだ…

まあ、取り敢えずそれは置いといて、

「…顔合わせ…は…どうだった…?…うまく…いった…か…?」

その問いに、シンは顔をしかめる。

「いえ。全然でした。何しろ第一印象が最悪でしたし、リーダー的な奴からは既に敵視されてますし…本当に最悪でした。というか落ちるんだったら先に言っておいてくださいよ…それのせいで第一印象が最悪になったといっても過言ではないし、緩衝材に穴開いてたし、そもそも落ちた場所が部屋ってどういうこと…」


その後も、ぶつぶつとシンは愚痴を言い募り、言い終わった頃には5分が経過していた。


「…で、愚痴は…終わり…か…?」

男の言葉に、シンはハッとして我に返った。

「す、すみません…つい…」

シンの話を聞く限り、失敗したという訳では無さそうだった。自分は話す事すら出来なかったのだから、会話が出来ただけでも凄いことである。

初めて、男は感心したような目で、シンを見た。もっとも、シンは気付いていないが。


「…で、新しい…仲間…は…どんな奴ら…だったんだ…?」

「いやぁ…それが妙な奴らでして…」

シンは、エレン、ライトネル、バステト、ステラについて、話した。


「…ふむ…エレンとやら…は…エクスカリバー戦隊…の…戦隊長の弟…だろう…。…以前…聞いたことが…ある…他の奴らは…………まあ…頑張れ…」

「いや何で『他の奴らは』の後だけ不自然に間が長いんですか!?それってエレン以外の奴らは手に負えないような馬鹿ということですか!?ちょっと、そっぽ向かないでください!」

シンが何か言っているが、華麗に聞き流しておこう。

しかし、ライトネルとやらはどうでもいいとして、猫族の長、バステトに、祝福を受けし者、ステラ、か。二人とも神話の時代を生きた人物。よもや、この時代にまで姿を現すとは……いや、もはやこの時代が神話になりつつあるのかもしれないな。

それにしても……偶然とは思えないよな…


考え事をしていると、不意に目の前のシンがおずおずと問い掛けてきた。

「あの、この世界に、獣人や魔法は存在するのですか…?」

「…ああ…現に…お前は目撃した…はずだ…。…獣人…は…使徒が現れて…向こう側から…共闘を…申請した…の…だろう…」

「そうでしたか…。そういうのは、何だか本の中の世界みたいであまり実感が無いのですが…。その内、魔王とかが出てきそうですね」

そう、冗談のつもりで言ったのか笑いかけてきた。

「…魔王…は…俺の盟友…だ…。…獣人や魔法…は…数千年前から…存在…している。…俺が…見てきたのだから…間違い…無い…」

「何を冗談言ってるんですか。あなたらしくもない」

シンは、何やら不思議そうな目で話しかけてきた。

「……ああ、そうだな…」

男は、気の遠くなる程に生きてきた長い時間を思い出す。

――今年こそは……必ず……



◇  ◇  ◇



永遠に絶える事のない断末魔。

それが由来となり、セルジオ大陸にある大きな火山は、"断末魔の噴火口"と呼ばれている。

マグマに呑まれ、自分の名を呼び、叫びを上げているのは男の弟だった。彼は、生まれながらに絶大な再生能力を有しており、忌み嫌われ、遂には彼を生んだ両親に、火口に突き落とされてしまった。

再生能力の故、未だ死ねず、永遠の痛みに叫びを上げている。

いつしか、そこを訪れるのが男の日課になっていた。

男は、年をとらなくなっていた。弟を火口に突き落とされた怒りをコントロールし、寿命までをもコントロールしたのだ。

そう。人類で初めて、"怒り"を利用して限界突破を成し遂げたのはこの男だった。

天界では、"罪能"という怒りと同様のものが存在していたため、この世で初ではなく、人類で初だったのだ。

さらに、絶対零度の如き怒りによって精神を凍結し、何事にも動じない心を持っていた。



その心が揺らいだのは、マグマの中から弟が消えた時だった。

初めは、絶える事のない負荷に耐えきれず、再生能力が崩壊したのかと思ったが、村の人々の言葉を聞いてそれは違うということが分かった。

村の人々は口々にこう言ったのだ。

――突然巨大な一本の火柱が火山に突き刺さった、と

訳もなく、弟は奪われたのだと確信した。


男は、弟を探すべく放浪の旅に出た。

男は、既に排泄や食事、睡眠の必要は無くなっていた。

武器は、怒りによって具現化出来るため、持ってきていなかった。


その旅の最中に、魔王に出会った。

魔王だなんてお伽噺の中だけの存在だと思っていたが、凍結した精神では、何も感じなかった。

すると突然、魔王は手に持つ禍々しい大剣で斬りかかってきた。

即座に生成した氷の刀で受け流したが、いきなりだったため想像力が足りず、負荷に耐えきれず砕けちってしまった。こんな時でも、思ったのは修行が必要だなということだけだった。

魔王は、血走った目で、叫ぶように言った。


「お前が…!我が配下を殺したのか…!!お前が!お前が!!」

「……少し…頭を…冷やせ……」


俺は、即座に背後に回り込み、魔王の頭部を掴んで氷で侵食した。

うむ。古来から落ち着くためには頭を冷やすと決まっているからな…。

気が付くと、魔王の頭部は分厚い氷で覆い尽くされ、周りには氷の環が浮いていた。

「……やり…すぎた…」

いつの間にか、力を入れすぎてしまっていたようだ。

魔王の手が、ギブアップというように力なく俺の腕を叩いていた。



「悪かった。少し、冷静さを失い皆が敵に見えたのだ」

氷を解除した俺は、瓦礫の飛び散った道とも言えぬ場所を歩きながら魔王と話していた。

「……配下が…殺された…と…言っていた…な…。…何が…あった…?」

「ああ。それがな――」

魔王は話し始めた。

突然、空からやってきた殻の赤い鎧共に配下全員が抹殺されたこと。その鎧には生半可な攻撃は通じなかったこと。怒りに我を忘れ、最上級殲滅魔法を使用し、大地を吹き飛ばしてしまったこと。こんなことは今まで無かったことなど、包み隠さず話した。

――そうか。だから道がこんなに険しいのか

だが、俺の凍結された精神は、そのことを何とも思わなかったようだ。


「…しかし、お前は何故そんなにも強いのだ?見たところただの人間ではないか。人間は魔法を扱えぬはずだが」

「…あれは…魔法では…ない…。…自分でも…よくわかってない…が…想像するだけ…で…事象が…具現化…する…」

魔王は言葉を失っているようだった。小さく、あり得ぬ、と呟いている。

「有り得ぬ。そんなもの、永き時を生きた我でさえ聞いたことがない。天界ならば、何かわかるやもしれぬが…」

「……まあ…細かいことは…いい…。…災難…だった…な…」

一応労いの言葉を掛けておいた。

すると、魔王は何を気に入ったのか、

「ククク…クハハハハ!!人間風情に我が身を案じられる日が来ようとは。世も末のようだ。良かろう。今日からお前は我が盟友だ。我の名は、魔王ノヴァ=レギンレイヴ。世に破滅と混乱をもたらすものなり。お前は名を何と申す?」

「……俺か…俺の名前は――」



「いずれまた相見えよう。お前も死ぬことはなかろうし。では、な」

魔王はそう言って、転移して消えてしまった。



◇  ◇  ◇



今思えば、魔王を襲った使徒は、これから潰す星の下見にでも来ていたのかもしれない。

あれから数千年後。初めて、世界で使徒が認識された。

そして、俺は見た。

無数の殻鎧共の奥に、そびえ立つ者。全長は300m程だろうか。

一際神々しく、ただただ巨大な、殻鎧共の主の姿だった。


あれは、弟だった。


根拠は無い。だが、懐かしさを感じた。同時にヘドロのような恨みも。

それから、俺は[火]の使徒。個体名:殲滅の断罪焔剣レヒト・オブ・ハウザーを撃滅するためだけに生きてきた。


そんな時、シンに出会った。

ボロボロになっても、絶望しても、使徒に挑み続ける姿に、数千年凍結してきた精神が融かされたのを感じた。

今まで、俺一人だけで[火]に挑み続けてきたが、もしこいつとなら……

運命を感じた。こんなに心が高ぶったのはいつぶりだろうか。

"面白い" そう感じた。

今年こそは、必ず[火]を撃滅する。必ず――楽にさせてやる。


「ちょっと。聞いてますか?ちょ、あの、聞いて――」

「…聞いて…いる…。…で…何の話…だった…か…」

「全然聞いてないじゃないですか!もう一度言いますよ――」

今は、今だけは、噛み締めておこう。

この、幸せな時間を。ずっと昔、感じたことのあるこの暖かい気持ちを。

――本当に…弟のような奴だ…

男は、自分の頬が緩んでいることに気付いてなかった。



◇  ◇  ◇



「…ところで…廊下で…お前に会った…時…その…ライトネルとやら…と…すれ違ったぞ…。…何故だか…知らん…が…泣いていた…ようだ…」


「へぇ~。ライトネルが泣くって有り得ないような話ですね。途中までは一緒に居ましたが、何があったんでしょう…」


「……お前…の…様子が…おかしかった…から…その時…に…何か…やらかした…のでは…ないか…?…『シンさんなんて知らない!』…って…言ってたし…」


「モノマネうまっ!じゃなくて、そんなこと言ってたのですか。俺も自分の中で記憶が空白の時間があったのは自覚していたので、その時に何かやったのかも…。すみません。少し謝ってきます」

ライトネルの気配は覚えていたため、位置は分かっていた。

「…待て…俺も…施設の…案内がてら…着いていこう…」


そして、二人とも立ち上がり、部屋を出た。



◇  ◇  ◇



ライトネルはすぐに見つかった。

何やら小さな物置用の部屋の隅で、体育座りしていた。

「あ、ライトネルさ~ん。こんばんは」

シンは静かに語りかけた。というのも、後ろで男が見ているので、ふざけた会話は控えた方がいいと考えたのだ。

シンの声を聞いて、ライトネルは少し顔を上げたが、すぐに俯いてしまった。

「ぐすっ…シンさんなんてもう知らない!」

「悪かったよ。あの時は周りが何も見えていない状況だったんだ。本当に悪かった。ごめん」

すると、もう一度ライトネルは顔を上げた。

「ホントに、そう思ってる…?」

「ああ。思ってる」

「じゃあ、私が雷の女神だって、信じてくれる…?」

「いやそれは無理」

「何でよお~~!!」

そのやり取りに、シンは自然と頬が緩む。

そうだ。ライトネルに暗いムードは似合わない。常に太陽のような明るいのがライトネルなのだ。

ぐぬぬぬ。私本当に女神なのに…何で誰も信じてくれないの…

そう呟いて、ライトネルは地面に四つん這いになっている。

――よし。後一押しだ

「よし、ライトネル。今日と明日の晩飯は奢ってやるから、今から飯食いにいこうぜ」

「ホント!?シンさんってそんなに優しかったかしら!?…もしかして罠…?罠なのかしら…?」

「い、いやいや、罠な訳ないって。ただお金に余裕があるからさ。一緒にどうかなと思ったけど…行かないならいいや。じゃあな、ライトネル」

「ちょっと、シンさん待って!罠とか言ってすみませんでした!大人しく奢られます!!」

そう言って、後ろを向いて立ち去りかけたシンの腕を掴んだ。

――よっし!仲直り成功だ!…ん?俺ってこんなに人と話せたっけ…?

自分の成した、もはや偉業と言っても過言ではない出来事に、内心シンは困惑するが、今は仲直り出来た安堵で一杯だった。



男は驚愕に目を見開いていた。

シンがまさかこんなにも人と話すことが出来るとは。これはもはや神業ではないか。こんなに気持ちが高ぶったのはいつぶりだろうか。…あれ?これさっき言ったような…気のせいか…


そんな考え事をしながらも、先ほどからこちらに向かってきている気配に目を向ける。見たところ、組織の研究員のようであった。

――何かあったのだろうか

すると、その研究員は何やら焦った様子で話しかけてみた。

「大変です!建物に大穴が開いてしまってます!敵の攻撃かもしれません!至急戦闘準備を――」

「ああ、それならシンさんが――」

「こらライトネル!!余計なこと言うんじゃない!」

何かを言いかけたライトネルを遮って、シンが叫ぶ。


何よ!シンさんがやったんでしょ!正直に言いなさいよ!

ちょっと待て!少し俺と話そうじゃないか!静かにしてくれたら明後日も奢るから。

分かった!!

よし、良い子だ!いいか?罪っていうのはな、ばれなければ――


何やら話し声が聞こえてくるが、それを聞く限り問題は無さそうだ。

「……敵性反応…は…ないから…安心…しろ…。…建物の…復旧に…かかれ…」

「しかし――」

「…問題無い…。"水氷"が言った…と…研究長…に…言え…」

「は、はぁ…了解しました」

そして、研究員は去っていった。


えー!!罪ってばれなきゃ罪じゃないの!?初めて知ったわ!

ああ。事実だ。俺の出身国にもそんな言葉があったからな。


二人の会話はなおも続いている。


「良い…仲間を持った…な…」


そう呟き、男は静かに微笑んだ。

台風にもお気をつけください(・ω・`)

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