恐喝
002 詐欺師2
今日は、最初のターゲットを調べている。朝から、自宅を張り込み出てくるのを待っていた。
「お兄ちゃん、早く。」
出てきたのは、リョウと妹だ。
「早く遅れるよ。」
リョウは、家族の間では優しいお兄ちゃんで通っている。裏の顔は、詐欺師の仲間なのに。
「これは、余裕で取れるだろう。」
と、響の顔を見る。
「そうだね。今の生活を壊したくないだろうからね。」
恐喝を始める前に、注意しなければいけないのは、こいつらのバックにいる連中だ。あの事務所の名前だ。地元では有名なヤクザの子会社だった。
「響。あいつのメルアドに送ってくれ。」
ハッキングした、リョウのメルアドに送信する。恐喝のメールだ。
(始めまして、いい写真が取れたので送ります。なお、この事を仲間に話せば警察に送ります。)
恐喝メールを送るときの手段は、最初は紳士的なメールで送ることだ。そうすると、相手が冷静に事の重大さを理解しやすいからだ。
自宅からの尾行の途中で、恐喝のメールを送信する。ターゲットは、妹と歩いて駅に向かってる。
「どうしたの?お兄ちゃん、顔が青いよ?」
携帯を見て、青ざめている。事の重大さを理解したようだ。
駅で妹と別れたターゲットを尾行する。
「へぇ~、大学には通っているんだ。」
以外だった。詐欺仲間と大金を稼いでいるはずなのに、仕事が無い時は真面目に大学に通っているようだ。
最初のメールを送ってから、四時間くらい過ぎた。わざと、時間を空けてから次のメールを送信する。
(この事を、家族や知人に知られたくなければ、明日までに百万円を用意してください。)
最初のメールの時は、送信者がわからないようにしてメールを送っていた。今度のメールは、こちら側の連絡先を添付している。
これも、パソコンの得意な響の特技だ。僕には出来ない。
今度は、向こうからメールが送られてきた。
(明日までに百万円は無理です。)
まぁ、そう言うと予測は出来た。時間稼ぎがみえみえだ。
(振り込み詐欺で、かなり荒稼ぎしていますよね?百万円って、貴方にとっては安いものでしょう?)
さすがに、大学の中にいるから様子は伺えない。僕達が、大学に入っていけば目立ってしまうからだ。
「どう?」
助手席の響が気になるようだ。
「時間稼ぎをしようとしている。妹と両親の写真をメールで送って。」
これは、常套手段だ。こっちの要件にごねている相手には、身内や恋人の写真を送れば、大抵は落ちる。
ターゲットに写真を送信したあとは、返事が来るのを待つことにした。
「来たよ。」
大学も終わる頃の夕方に返事が来た。
「何て書いてある?」
響は、メールを読み始める。
「わかりました。明日の昼過ぎまでには用意します。」
まずは一人目が落ちた。
「受け渡しは、デパートの屋上を指定して。」
さぁ、ここからが正念場だ。お金の受け渡しの時が一番危険だからだ。
「響。明日の受け渡しの時は、デパートの裏口に車で待機してて。」
今日は、ターゲットからお金を受け取る日だ。まずは、ターゲットの写真を現像して、茶封筒に入れる。響は、すでに車で待機している。
僕は、予定の時間より二時間も早く来ていた。
「よし。これで、準備は整った。」
屋上の自販機の前にあるベンチ、その裏側に茶封筒を張り付ける。
「合図したら、さっきのメールをターゲットに送ってくれ。」
響とは、シミュレーションを何度か繰り返していた。抜かりはない。
予定の時間になった。ターゲットは、僕の顔を知らないから、僕も屋上に来ている。指定のベンチが見える、向かいの売店の横のベンチに座っている。
「響。来たぞ。メールを送って。」
電話の向こうで
「カタカタカタ!」
と、パソコンの操作音が聞こえる。
「送ったよ。」
メールを見たターゲットは、ベンチの下の茶封筒を手に取った。中には、コインロッカーの鍵が入っている。それと、メモ紙だ。
(三階の西側にコインロッカーがある。)
それを見た、ターゲットは移動を開始する。すぐには、後を付けない。仲間がいたらヤバイからだ。
ターゲットは、指定のロッカーを開けている。ロッカーの中には、写真が置いてある。
(お金を入れて、鍵を閉めろ。)
と、メモ紙があった。ターゲットは、お金の入った封筒をロッカーに入れ、写真を取り出した。
鍵を閉めたのを確認してから、響がメールを送る。
「近くのトイレの中の、ゴミ箱にロッカーの鍵を入れて立ち去れ。」
メールを確認してから、トイレに入っていく。数分後、ターゲットはトイレから出てきて帰りにつく。
響は、デパートの入り口にいる。ターゲットが出てくるまでの時間を計っている。たとえば、帰るだけなのに入り口から出てくるのが遅すぎた場合は、入り口から出るまでの間に仲間と連絡を取った恐れがある。
そういった場合は、鍵だけを回収して早めに立ち去ることにしている。コインロッカーは、鍵がないと開かないので、安全だと分かったときにお金を取りに来ればいいと思っている。
響から電話が入る。
「大丈夫よ。出てくるのは、早かったよ。」
ターゲットが、デパートから出てきた時間を教えてくれた。時間からして、問題ない様子だった。
「わかった。お金を回収する。車で待機しててくれ。」
僕は、鍵をトイレのゴミ箱から取りだし、コインロッカーを開ける。無事に、お金を手に入れた。
デパートから帰るときは、わざと反対側の階段を使って降りる。遠回りだが、待ち伏せを回避するためだ。
「お待たせ。行ってくれ。」
車に乗り込むと、響が発進させる。
「おめでとう。まずは、成功だね。」
普段は、あまり笑顔を見せない響でも、今だけは嬉しそうだ。
「おう。最初の相手は、若かったから余裕だ。次からは、手こずるかもな。」
とりあえず、僕達は根城にしてるBARに戻ってきた。二人で、最初の成功を祝って、祝杯をあげている。
今回の収入は、百万円だ。取り分は、半分ずつと決めているから、五十万円ずつを二人で分ける。
「響の取り分な。」
お互いが協力しないと取れなかったのは、お互いにわかっている。だから、取り分は半分ずつと決めている。
「明日も、よろしく。」
そう言って、響は帰って行った。