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09.別れ

幼女って書きやすいんですよね。

扱いやすいっていうか。

では9話目です、どうぞ

 リビングに通された俺を待っていたのはグランドさんとエイルさんと村長だった。


「お前も討伐の参加者だからな。結末を知る権利がある」


 とグランドさんが口火を切った。

 まあ、内容としては無事ゴブリンの巣は殲滅されましたってことらしい。

 巣穴として使われた洞窟は入り口を爆破して人どころかネズミすら入れない状態にしておいたらしい。これでゴブリンが再び巣穴として活用することはでき名だろうとのこと。


「あの大きさの洞窟だとゴブリンどころかオークやオーガが住み着いてもおかしくないですしね」


 と笑顔で補足説明を入れてくれるエイルさん。

 おお、ヤバさがいまいち伝わらないが村長が大仰にお礼を言っていたことから相当まずいのだろう。


 ともあれ、無事事後報告を終わらせ、村長に礼を言われ、報酬をもらった時点でグランドさんたちはこの村に用はなくなった。

 曰く、明日の朝にこの村を出るのだという。


 ちらちらと俺のほうを見てきたが、その場で何か言うのをためらったのか、報告終了後、簡単な挨拶をして村長宅を後にした。

 例によって空いている家を提供しようかという提案があったのだが、グランドさんは断っていた。また、村の端で野営をするらしい。


 グランドさんたちが村長宅を出るのと一緒に俺も村長宅を後にする。

 村長宅をでて、すぐ、グランドさんは俺のほうに振り返った。


「ブレイド、お前、この村で拾われる前の記憶がないんだってな」

「はい」

「これは俺の想像にすぎんが、おまえ、冒険者だったんじゃないのか」


 グランドさんはじっと俺を見ながら言った。


「その辺の村人にしては剣筋が良すぎる。剣を握って一日二日の動きではない。剣を振りなれた、それも人でない相手に対して振っていたような動きだ」


 いや、剣握ってから4日目ですね。

 なんて言えるはずもなく、俺は肩をすくめて見せた。


「分かりません」


 グランドさんは肩の力を抜いた。


「まあ、そうだな。もしお前が冒険者になるというのなら…、なんだ」


 グランドさんらしくもなく目を泳がせながら口ごもる。

 エイルさんがくすくすと笑いながら補足してくれた。


「グランドは冒険者をするつもりがあるならゴドーセの町まで連れて行こうと、言おうとしているのです」


 お、なんと願ってもないありがたい申し出!


「大方、余計なことは言うまいと思いつつも、ブレイドさんのことが気になってしょうがないのでしょう。まったく、変なところまで律儀なんですから」


 エイルさんに言われてグランドが完全に俺から目をそらす。

 そんな様子のグランドさんをエイルさんが横から軽く小突いている。

 この二人…できてるのか。それでエイルさんは冒険者なんだな。納得した。


「俺なんかが付いて行ってしまっていいんですか?」


 グランドさんはそらしていた目を俺に向けなおしてうなずいた。


「ああ。お前は見込みがある。鍛錬を怠らなければ一角の冒険者になる」


 確信めいた言葉だった。

 俺が頭を下げてお礼を言おうと思った時、後ろから声が漏れ聞こえてきた。


「ブレイド、いなくなっちゃうの…?」


 はっと振り返るとちょうど出てきたところなのか、ミクニが呆然と立っていた。


「ミクニ…俺は」


 何か言おうと言葉が口を突くがそれよりも早くミクニが俺に抱き着いてくる。


「いやだよ、どっかいっちゃいやだ。ブレイドは私と一緒じゃダメなの?」


 まだ出会ってから4日しか経ってないのにずいぶんと気に入られたものだ。

 ミクニの頭をなでながら顔だけグランドさんのほうに向けた。


「後で、野営地のほうに向かいます。詳細はその時に」


 グランドさんは神妙な顔で、エイルさんは微笑んで首を縦に振った。


「村の端だが昨日とは真逆の方向だ。間違えるなよ」 


 俺は首を振ることで肯定の意を示した。グランドさんたちは何も言わずに歩き出した。

 その背中を見送った後、俺はミクニの頭のてっぺんを見ながら声をかける。


「一度、家に戻ろうか、ミクニ。村長さんにも話があるし」


 そうだよな。ゲームよろしく何も言わずにさようならって訳にはいかないよな。あれ、この世界ゲームの世界じゃなかったっけ?

 俺はミクニを連れて、今一度村長宅に戻るのだった。

 村長は俺と俺に引っ付いているミクニを見て怪訝そうな顔をしたが話があるというとなんとなく事情を察したのかリビングに通してくれた。


「俺、明日、グランドさんたちについて行って、この村を出ようと思うんです」


 村長は少し驚いた顔をしたが、すぐに取り繕うと嬉しそうに、そうかと言った。

 それはあれですよね。俺がいなくなるから嬉しいんじゃなくて、俺の巣立ちがうれしいんですよね?ね?


「記憶が戻ったのかい」

「いえ、そうではないんですが。冒険者になろうと思って」


 おれの言葉を聞いたミクニがギュッと俺の服の裾を握りしめた。


「グランドさんも、もしかしたら俺は冒険者だったんじゃないかって言ってくれましたし、そうでなくても冒険者として生きていくのも悪くないんじゃないかって」

「まあ、君はこの村の人間ではないからね。こう言ってしまうと酷く排他的に聞こえるけど、自分の道を見つけたのなら大手を振って応援すべきとも言える。短い間だったけど君にはミクニを見てもらったという恩もある。私としては快く送りたいところだけど…」


 そう言って村長は俺にしがみつくミクニを見た。


「聞いていただろう、ミクニ。ブレイド君は自分の生きる道を定めた。ならば、ミクニも応援してあげるべきなんじゃないのかい」

「……なる」


 ミクニは変わらず俺の服の裾をギュッと握ったままだ。


「私も、冒険者になる」


 村長はため息をついた。そして俺に向かって困ったように笑う。

 俺はミクニを引き剥がす…のに失敗したが、ミクニの目の高さまでしゃがんだ。

 ミクニが俺の服の裾を握っているせいで、服がめくれて妙に様にならないのはしょうがない。


「ミクニ。引き留めてくれるのは嬉しいけど、俺はこのままこの村にずっといるわけにはいかないんだ。俺は、俺が誰なのか、探しに行かなきゃいけない」


 そういう設定なのだ。ゲームでは。

 結構楽しくなってきたぞ、このロールプレイ。


「もう二度と会えなくなるわけじゃない。そうだろう?」


 俺は渾身の笑顔でミクニを見つめた。

 人によっては作り笑顔は不細工になったりむしろ笑わないほうがいいとかあるが、俺の作り笑顔は最強だ。なにせ、義姉がもうずっとその作り笑顔で過ごしてくれと頼むくらいなのだからな。フフフ。

 ミクニの手が俺の服の裾から離れる。


「私も、冒険者に、なる」


 ギュッと握ったこぶしを腕の横で作って下を向く。ぽたぽたと雫が床に落ちる。


「ブレイド君。ありがとう。あとは私のほうで何とかしておくよ」


 村長が声をかけてくれた。おろおろしだしたのを感じ取ってくれたのだろう。

 俺はミクニの頭をやさしくなでた。


「俺を見つけてくれてありがとうミクニ」


 俺は村長に深々と頭を下げて村長宅を後にした。

 小さい子に慕われるっていうのも悪くないが、お別れは何ともしこりが残るものだ。


 俺がロリコンだったら間違いなく村に残る選択をしていたな。ロリコンじゃなくてよかった。


 村長宅を出た後はそのまま村のはずれのグランドさんのいる野営地へ向かった。

 外に出れば夕日がきれいに見えていた。

 赤く染まった空を見ながらもうそんな時間かと時計を見る。17時だった。


 村はずれの平地ではグランドさんたちが火を起こしているところだった。

 テントはしっかりと張られ、村人にもらったのか新鮮な食材を斬るエイルさんが見える。

 初めにこちらに気づいたのはキースだった。

 手を振ってくるので手を振り返す。


「おう、来たな」

「今日はお世話になりました」

「よせやい、世話になったのは俺たちも一緒さ」


 にやりと笑ってみせるキース。グランドさんを呼んできてくれると、奥に引っ込んでいった。と言ってもそこにいるの見えてるんだけど。

 グランドさんが俺に気づくとこちらに来いとばかりに手を振ってきた。

 お言葉?に甘えて火のつき始めた焚火のほうへ寄っていく。


「で、嬢ちゃんはどうにかなったのか」

「多分。どっちにしろ、明日は一緒にゴドーセまで行きます。よろしくお願いします」


 グランドさんは、腕を組んで「そうか」とつぶやくだけだ。

 隣にいるキースはにやにやしている。


「グランドのおっさんは人を見る目があってな。気に入られる奴で悪いやつはいない。で、気に入ったらとことん構い倒さないと気が済まない性質なんだ。よかったな気に入られて」


 キースが耳打ちして教えてくれるが、たぶんそれ、耳打ちした意味ないぞ。グランドさんの眉間のしわが深くなっているからな。


「キース。あとで訓練に付き合ってやろう。なに、音を上げるまで模擬戦をするだけだ。安心しろ」

「ハハハ、冗談きついぜ旦那…」


 キースの顔から一気に血の気が引いていく。うむ、余計なことを言うからだな。


「では、明日の朝、ここに来ればいいですか」

「ああ。今日と同じ時間でいいぞ」


 では、明日の朝に、とその場を下がろうとすると、後ろからエイルさんが声をかけてくる。


「あら、お帰りになるんですか。せっかくですのでお夕飯も一緒にいかが?」


 キースは乗り気だった。グランドさんも進めてくれた。

 ランツはどこにいるのか分からなかった。

 お言葉に甘えてグランドさんのところでご相伴にあずかった。


 ご飯ができるまで剣筋を見てもらったり、これまでの冒険譚を聞かせてもらったりとなかなか有意義な時間を過ごせた。

 帰り道は暗かったが、特に問題なく小屋まで帰り着き、布団を敷いて寝た。


 朝、起きて6時。このまま話を進めたいが、一度ログアウトをしよう。だいぶ時間もたっているし。

 座り込んでメニューウィンドウを呼び出し、一度ログアウトする。

 まあ、少し休んだら戻ってくる予定だけど。


* * *


 休憩から戻ってきた俺はとりあえず素振りを始めた。

 なんというか、やった分だけ成果があるっていいよな。努力は人を裏切らないというのが数値で見て取れるのがいい。


 現実世界では大したことはしていない。軽く伸びたりストレッチしたり水分補給したりしてすぐ戻ってきた。

 ゲーム内では実質二日も動いているのに現実では2時間ちょっとしか経ってないんだぜ。いいな、これ。


 昨日、グランドさんと模擬戦をしたことを思い出しながら剣を振る。

 やっぱりモンスター相手と人を相手にするのは全然違うよな。

 今日は剣技の練習はせずに魔力剣について考察をする。


 剣技とは違って「魔力剣!」とか叫んでみても何も起きない。

 叫んだあとちょっと恥ずかしいだけだ。


 どうやら魔力の流れを感じて剣に伝える、という技術が必要らしく、ただどうにかしようとしてもにっちもさっちもいかない。

 あのゴブリンメイジの火球を斬った時の感覚を思い出しながらやってみるんだが、難しいものだ。


 ふと、視界端の時計を見て慌てる。7時をとっくに通り越していた。

 まあ、準備もくそも何もないんだが。


 一応小屋に戻って布団が畳んであることや大きなごみが落ちていないかを確認して外に出た。

 入り口で振り返り頭を下げる。

 お世話になりました。


 村を歩くと早い人はもうすでに畑へ出るところだったりする。

 たまにすれ違う村人に「お世話になりました」とあいさつをしてすれちがう。


 小さい村特有SNS並みの速度で広がる情報網から、俺が出ていくことは知れ渡っているらしく、挨拶をした村人からは温かいお言葉をいただいた。


お読みいただきありがとうございます

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