08.戦闘
ミクニをちらりと横目で見て声をかける。
とはいえ、視線はすぐに敵であるゴブリンメイジに戻す。
いや、焦ったぜ。ミクニは洞窟に入っていくし、追いかけてみればゴブリンに襲われそうだし、よく見たらゴブリンメイジだし、レベルは15と俺より高いし。
なんかミクニの出した障壁で相手がひるんだ隙に一撃食らわせられたけど、HPはまだ4分の3以上残っているんだ。ここからはプレイヤースキルがモノをいうところだぜ。そんなもの育っているかどうか怪しいけど。
「ブレイド…」
ミクニが何か言いたげだがそっちにかまっている場合じゃない。ゴブリンメイジが起き上がってこちらをにらみつけてやがる。
「ミクニ、この明かり、お前が出したのか?」
そう、ミクニを無事に追ってこられたのはマップのおかげだけど、飛び込んでゴブリンとの間に割って入れたのはこのよくわからん明かりのおかげだ。
これ、魔法なら俺も使えるようになりたい。
「え、そう、だけど」
「もうちょっとこの洞窟見えやすくならないかな」
ミクニの困惑が伝わってくる。
明かりがあるってだけでだいぶ違うが、もうちょい明るくないと戦いづらい。
「《ライト》」
ミクニがそう唱えるともう一つ明かりが現れた。
「上のほうに設置とかってできる?俺とゴブリンの間くらい」
ミクニが言われた通りに明かりを移動させる。
これで戦いやすくなった。
良く見えるようになったゴブリンはものすっごく気持ち悪い顔を怒りで歪ませてさらに不快感募らせる顔つきになっている。
さっさと倒したい。
俺は剣を構えなおした。
ゴブリンメイジもまた、杖をこちらに構える。
「うおおおぉぉおおおお」
奴との距離を詰めるべく走り出す。
ゴブリンメイジが何かグギャグギャとつぶやくと杖の先に炎の球が生じる。
「ぉぉおおお?嘘だろおい」
予想通り奴が杖をこちらに向けえると同時に炎の球が飛んでくる。
急ブレーキをかけて後ろに飛びのく。
勢いのまま突っ込んでいたらきっとお腹があったであろうあたりを火球が通過し、俺の目の前の地面にぶつかり破裂した。
ゴウ、という音と主に地面が少し焼き焦げる。
「うひゃあ!」
叫び声をあげたのは俺ではなく、後ろでへたり込んでいるミクニだ。そういえば後ろにはミクニがいるんだった。
下手によけるとミクニに飛んでいくな…。
少々、立ち回りに関して頭を使わなければならなそうだ。
俺は再び剣を構えて前へ突撃する。
残念ながらこちとら遠隔攻撃手段なんてものは唯一の武器である剣を投げつける以外持っていない。
そしてそれを行ったが最後、撤退すら怪しい雲行きになってしまう。
最終手段も最終手段だ。となれば、こちらから間合いを詰めに行かねばならぬ。
またもゴブリンメイジはグギャグギャと呪文を唱え始め、杖先に炎の球が生じる。
放たれた火球を俺は剣の腹で受けた。
ゴウ、という音とともに熱が俺を襲う。
「ぅあちちち」
熱い。思った以上に熱い。HPが削れる。
それでも前に進むのを止めない。
再び火球が俺を襲う。
少し前のほうに剣を出して受ける。熱が俺にとびかかる。HPが削れる。
「くそぉぉぉおおおお!」
ええいままよ。
三度襲来する火球を見据える。
ここはゲームの世界。なら、多少は自分の思い通りに都合のいいことが起こってもいいではないか。
本来ならシステム以上のことは起こらないからこそのゲームの世界であるのだが、俺はこの時、この世界を夢の世界と一部勘違いしていた。
体をめぐる液体の感覚。ドクンドクンと脈打つ鼓動のリズム。
その先に、俺の剣があるような、腕から先の握った剣すら自分の体であるような感覚がその瞬間の俺にはあった。
襲い掛かる火球。その赤い炎の球に向かって俺は剣を振った。
「おnどrrれるっせnjああああ!」
気合とともに口から変な音が出た気がするが知らん。
剣はわずかな赤い光を纏い、火球を真っ二つに裂いた。
「グギャ!?」
裂かれた火球は火の粉を散らして消えていく。ちなみに熱くない。
俺は勢いそのままゴブリンメイジへと肉薄する。
「どぉぉぉりゃあああ!《V・スラッシュ》!」
火球が斬られたことに驚き次の行動がお粗末になっていたゴブリンメイジは近づいてきた俺に対してあまりにも無防備だった。
下からくの字を描くように剣を振るう。
俺の手には確かな手ごたえが返ってきた。
が、そこはさすが上位種。
地面をけるように後ろに飛び、直撃を逃れたようだ。
HPバーを削りきることはできずに俺は舌打ちをした。
ゴブリンメイジの残りHPはもはや8分の1ほど。HPバーが赤くなって残り僅かなことを示している。
対して俺のHPも残り4分の1ほど。はっきり言って向こうからの反撃を一撃でもくらうとヤバイ。
ぼたぼたと腹から血を流しているゴブリンメイジの眼光はむしろ鋭さを増していた。
如何にして俺を殺すか、それを考えているのだろう。
だが、俺との距離は3、4メートルほど。さっきのように詠唱を始めればその瞬間に俺が飛びかかって斬りこむ。
とはいえ俺のほうもHP残量的に無策で飛び込み返り討ちにあう。
お互い、一瞬の読み合いがあった。
俺は前に出る。ゴブリンメイジの残りHPを0にするために。
対してゴブリンメイジは後ろへ飛んだ。ウギャグゲと何か言いながら。
俺は先ほどまでゴブリンメイジのいた場所へ剣を振り下ろしていた。
危うく剣技《V・スラッシュ》を放つところだったがそれは何とか防いだ。
ゴブリンメイジは剣を振り下ろした俺に対して杖を向ける。途端に風が勢いよく吹きあがった。
別に風の刃とかではない、ただの風だ。だが風が運んできたものに相手が狡猾さをより身に着けたゴブリンメイジであることを示していた。
巻き上げられた砂が目に入った。めっちゃ痛い。
風によって俺がひるみ、なおかつ目に砂が入ったことを見てゴブリンメイジの頬が吊り上がる。
奴はお返しとばかりに杖を振り上げ俺に襲い掛かってきたのだ。
「ブレイドに手をだすなあ!《ホーリーバリア》!」
後ろから響いてきた声が耳に届いた後、前からグギャ、という悲鳴にも似た音が鳴った。
「今だよ!真ん前!」
ミクニの声を信じて俺は振り下ろしていた剣を腹の前まで持ち上げ水平に外側へ開くように剣技を放つ。
「《スラッシュ》!」
何かにぶつかった手ごたえと、剣が重みのあるものをかき分ける感触を感じた。
俺が剣を振った体勢で止まっていると、後ろからミクニが駆けよってくる。
「やった、やったよ、ブレイド!」
その声を聴いて俺は剣を下ろした。と同時に背中に軽い衝撃。
「うへぇ」
目を少しづつ開けながら調子を確認する。
涙が出てくる。こんなところまでリアルだなこのゲーム。
涙で砂が押し流されたのか、ようやく目が開けるようになる。
感じ続けていた背中の暖かいものを確認すると、案の定、ミクニがへばりついていた。
「お前なあ、来るなって言われてただろ」
コツン、と軽く頭を小突く。
「だって、ブレイドが心配で」
ぐずるミクニの言い訳を聞き流しながらマップで敵を確認する。
この洞窟のさらに奥にはまだ赤い点が見て取れる。
今のところこちらに来る様子はないがさっさと出ておくに越したことはない。
ミクニを連れて洞窟を出る。
外に出て周囲を軽く見た後、すぐにマップを確認する。
先ほどまで阿保みたいに群がっていたゴブリンの群れももうほとんど討伐されたみたいだ。
というかむしろこの辺りから逃げるように散っていっているようにすら見える。
グランドさんたちがいるあたりのみ集団のゴブリンがいるが、その少し後ろの連中はむしろここから離れるように移動している。
もう少ししたらグランドさんと合流しよう。
洞窟から出て安心したのか、再び俺に抱き着いて離れないミクニの頭をなでながらそんなことを考えていた。
集団との戦いをほとんど終えたグランドさんたちと合流する。
俺が連れているミクニを見て驚いたようだったが、事情を説明すると納得してくれた。
「ゴブリンの巣穴に一人で入って無事とは運がよかったな。しかし、ゴブリンメイジがいたか…」
とはグランドさんの談。
「途中からブレイドの気配がまったくしなくなったからおっちんじまったのかと思ってたぜ」
とはキースの談。
この後なんだと、と言いながら剣の柄で軽く小突いておいた。
「まあ、なんにせよ、無事でよかったです」
とはエイルの談。
この人なんというかまっとうな聖職者感すごいな。なんで冒険者なんかやっているんだろう。
ランツは腕組みしたまま何も言わなかった。
洞窟内奥のほうに未だゴブリンがいそうなことを告げると
「残りは俺たちがやっておこう。お前はその子を村に送ってやってくれ」
とのこと。
ありがたくその申し出を受け、ミクニを連れて村に戻ることにした。
ミクニを村へ連れて帰ると、まず、最初にあった村人が村のほうへ駆け出して行った。
「ミクニが居たぞ。ブレイドが連れ帰ってきた」
一人捕まえて問いただしてみた所、いなくなったミクニを探して村長が村中歩き回ったらしい。
つまり、事情はともかく村人総出でミクニを探していたわけだ。
その後現れた村長によってミクニは説教されることになる。
事情を聴いた村長は青ざめてから俺に頭を下げ、ミクニに説教を始め、顔が赤くなるという忙しい顔色をしていた。
俺は後からグランドさんが戻ってくることを告げ、一度小屋に引き返した。
ゴブリンメイジ戦からHPの回復を忘れていた。
残り4分の1ほどから少し回復している。HPも自動回復するが、MPほど早くはないようだ。
小屋に戻ってステータスを見る。
お、レベルが上がっている。ゴブリンメイジを倒した成果か、その前のゴブリンの群れとの戦いの成果か、レベルが2上がって14となった。
スキルも増えてる。魔力剣?なんだそれ。
これが現在のステータスだ。
名前 ブレイド
Lv. 14
HP 20/67
MP 23/50
STR 57 (+3) VIT 53 (+3)
INT 42 MGI 39
AGI 46 DEX 23
スキル
片手剣Lv.2
魔力剣Lv.1
魔力剣 MPを消費して剣に魔力を纏わせる。効果と自由度はそのスキルレベルに依存する。
だそうだ。
つまり魔法を斬れたのは魔力剣のスキルのおかげってことかな。MPを消費するなら今後どれくらい消費するのか調べなきゃならんな。
ふう、と息をついて俺はゴロンと床に寝そべった。
布団を敷くのがめんどくさい。
HPの回復と言えば宿屋で寝ることだ。寝れば回復するだろう。
戦闘続きで少し疲れた。いや肉体的な疲労はたぶんないはずなんだが。
俺は瞼を落とすとすっと意識を手放すことに成功した。
ふと、揺すられているのを感じ取って目が覚めた。
「ブレイド起きて。冒険者の方が戻ってきたよ」
ミクニだな。
「うーん、あと三日…」
結構いい感じのまどろみだ。このままの状態で永遠に居たいくらい。
「三日も寝たままだと死んじゃうでしょ!」
確かに三日水を取らないと人は死ぬらしいからな。仕方ない、起きるか。
「ふわあ。おはよう。どのくらい経ったんだ?」
上に伸びながらあくびをする。ミクニを見れば目が腫れたままだ。だいぶ泣いたらしい。
「村に帰ってきてから2時間くらいかな。ブレイドも一緒に報告を聞いてほしいって、探してたよ」
ふむ。寝ていただけでそれだけ経ったか。ちょっともったいなかったな。
視界の隅に表示させたHPゲージはすべて回復している。この感じだとMPも全回復してるだろう。
俺はミクニの案内で冒険者…グランドさんたちが待つ村長宅へと足を運んだ。
お読みいただきありがとうございます
戦闘シーンは書くのが難しいですね