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04.死に戻り

三日坊主の私の三日目

明日の分も予約するので三日坊主でなくなるはず…


 ミクニは勢いよくうなずいて俺の手を引っ張りながら村へと入っていった。

 おばあさんに薬草15本ほど渡して大変感謝された。


 普通はクエストの報酬にお金がもらえるはずなんだが、村では物々交換で何とかなるのであまり持っている人はいないらしい。

 というわけで、緑のHPポーションを3本ほどもらった。


 途中、俺がゴブリンを退治した時の事を無駄に張り切ってしゃべるミクニを制止するのが大変だった。


* * *


「ブレイドはこの後どうするの」


 報酬をもらって村をぶらついているときだった。

 ミクニが心配そうに訊ねてきた。


「もう日が落ち始めてるから今日は村に泊まるでしょ?」


 そうか。今までのゲームでは時間の経過はあまり関係なかったが、VRゲーム(このゲーム)では時間経過がNPCの動きにも反映されるのか。


 というか眠る必要ないけど、日がなくても行動できるのかな。

 案外夜目が利くのかもしれないし。

 ふと考えこんでいるとミクニが服の裾を引っ張ってくる。


「で、どうするの」

「あ、ああ。どうしようかな」


 多分一晩中活動はできる。このゲームの時間は現実の6倍速く進んでいく。体感時間としては一緒なのだが、ゲーム内で一日過ごしても現実では4時間しか経っていないのだ。しかもゲーム内では体の疲れはないし。


 技術の進歩ってすげえな。


 とまあこんなことを考えているとミクニはちょっとそっぽを向きながらもじもじし始める。なお、俺の服の裾はつかまれたままだ。


「じゃあさ、うちにおいでよ。父さんに頼めば泊めてもらえるだろうから」


 うーん、それでもいいかな。というかこのゲーム内で寝るってどういうことになるんだろうか。分からん。


「そうか、とりあえず頼んでみようかな」


 俺がそういうとミクニはぱっと花が咲いたように笑った。


「そう!じゃあ早く頼みに行こう」

「分かった、分かったから服の裾を引っ張るんじゃない」


 俺はミクニに引きずられるようにして最初にお世話になった村長の家へ向かった。俺とミクニは20センチくらい身長差があるのだが、そんな女の子に引きずられる俺はきっとかっこ悪いだろう。

 うむ、オンラインゲームでなくてよかった。


 で、やはりと言えばやはり、宿泊の件はあっさり了承された。

 ミクニのお父さんは村長という割に若い人でおじさんとも言えないくらいの風貌だった。なんでも先代の爺さんが早くに亡くなってしまったらしい。


 一人娘をたいそうかわいがっていて、そんな愛娘が拾ってきたペットくらいいくらでも居ていいって。

 という口ぶりから完全に俺を追い出す気でいるようだった。

 まあ、偶然にも村長名義で管理している空き家が隣にあるのでそこを使えと。


 これで夜中の行動とかご飯とかについてはごまかせそうだ。

 ミクニはものすっっっごくいやそうな顔していたが。まあ年頃の娘(にしては幼いと俺は思う)と見知らぬ男を夜、一つ屋根の下にはしたくないよな。うむ。


 そうしてあてがわれた家の中で、俺はメニューウィンドウとにらめっこしていた。

 メニューウィンドウには時計が付いている。


 現実世界の時刻と、この世界における時刻、二種類。

 いまはゲーム内午後8時、現実で午後9時43分。外はもう真っ暗で、街灯なんてないもんだから外をのぞけば何も見えない。


 家の中は妙に明るいランプがあるけど。そこはほら、ゲームだし。


 アイテムボックスの中にはもらったポーションがアイコンとその隅に個数を添えて表示される。

 HPポーションが8本、MPポーションが5本か。

 加えてなぜかいつの間にか入っていた魔石(極小)が2個。


 これはあれか、ゴブリン倒したときか。ゴールドとかじゃないんかい。

 モンスターを倒した後は魔石を売り払ってお金とするわけか。


 アイテムアイコンをタッチすれば説明が見れる。

 例えば今持っているHPポーションだと

『HPポーション(初級)

 HPを30回復する。』

 となる。


 まあ、持ち物がほとんどなくて全く使えないに等しいのだが。

 ほかにもマップだったりアイテムボックスだったり時計だったり、ウィンドウを使うものを任意で視界の端に置いておくことができるのだ。

 デフォルトはマップと時計だな。うん。


 とかいろいろ確認しているとすでに8時半だ。

 そろそろ一回外に出てみよう。


 俺は装備を確認(と言っても剣しかないが)してから小屋を出た。

 外は真っ暗で目が慣れるまではすぐには動けないな。


 いくら星明り月明かりがあるとはいえ昼間よりは動きづらいし、暗い。

 とはいえ、俺にはマップがある。拡大すれば障害物があるかどうかなどすぐわかるのだ。


 いてっ。何もないところでつまずいた。やっぱり目が慣れないと危ないな。

 そんな探り探りおっかなびっくり歩き始めたが、今ではようやく目も慣れ始め、歩く分には問題なくなった。


 村の境界まで来た。この柵の向こう側が一応村でなくなる。

 ここまで来るのに30分か。闇におびえながら来たから日中より時間がかかったな。


 村を出てマップのモンスターのいるほうへ歩き出す。

 マップを開いているから近くに敵がいないのは分かるんだがそれでも剣は抜いて、そろりそろりと歩いている。

 しばらく進むと薬草摘みに来た野原に出る。


 マップを見れば赤い三角が点々としている。ようやく敵がお出ましだ。

 昼は気にならなかった草のこすれあう音、自分が草を踏みしめる音が妙に気になり始める。

 近い。敵はもうすぐそこだ。

 俺は剣を構えた。


 グルルルル。


 低いうなり声、ゴブリンではないな。

 草を蹴る音がした。目視できていい距離なのだが闇に紛れているのか見えない。

 マップを頼りに接敵の瞬間に剣を縦に振った。


 ギャン。


 飛びかかってきたのは狼だ。一瞬だったからHPバーも名前も読み取れなかった。

 適当に振った県はその顔面にヒットしたようだ。

 切れはしなかったが結構痛そうだ。


 狼のほうに目を凝らすとぼんやりと姿が確認できる。

 フォレストウルフ Lv.3

 おお、名前とレベルが確認できたぞ。


 同じレベルか…勝てるかな。

 フォレストウルフは俺に背を向けて逃げて行った。にらみ合いからの脱兎のごとくの逃走にぽかんとしてしまう。


 そうして剣を下ろすとすぐ近くで遠吠えが聞こえる。

 オオーン。オオーン。

 負けて悔しいのはわかるが諦めるんだな。


 真っ暗な野原の上で一人カッコつけてみる。

 しばらくすると何かが駆けてくる音がした。しかも一つでない。

 ふとマップに目をやるといくつもの赤い三角が俺のほうへと寄ってきているようだった。俺は慌てて剣を握りなおす。


 暗い闇から俺をにらみつける3対の眼。

 俺は剣を構えながらじりじりと後退していく。と、後ろから低いうなり声。

 マップを見るまでもなく、囲まれていた。


 前の三匹のうち一匹はさっきやられたやつみたいだ。

 HPが減っていてレベルが3。残りの二匹はレベルが2。

 後ろと両側の奴らは分からん。いるのはマップで確認できる。総勢7匹の大所帯だ。

 グルルルルといううなり声とハッハッハという呼吸音。


 うむ、ピンチだな。


 先ほど殴った(斬った?)狼が大きく飛びかかってくる。

 それと同時に周りの連中も動き出した。

 ええいままよ。


「《スラッシュ》!」


 飛びかかってきた一匹目をスラッシュで迎え撃つ。いい手ごたえを感じる。

 しかし後ろから飛びかかってきた狼が背中へと体当たり。前のめりにたたらを踏む。

 そこへさらに背中への追い打ちがかかるもんだから、俺は踏みとどまれずに前に倒れる。


「ぐえ」


 背中に、足に重みを感じる。

 と思ったら首筋に衝撃と熱。


 あ、これはダメだわ。

 さらに首へ衝撃が加わり、俺のHPが0になるのをいやに冷静に感じとった。


* * *

 

 ハッと気づくと村の境界を越えた所だった。


 視界の端の時計は8時36分。

 この村を出た時の時間だ。


 どうやらゲームオーバー(HPが0になる)になると境界を越えた所へ戻されるらしい。

 いや、オートセーブされた位置かな?

 まあその辺はまた考えればいいし、死ななきゃいいのだ。


 で、先ほどの戦闘の反省だ。


 まず、夜間の戦闘は非常にやりにくい。

 昼間に比べて見える範囲が大幅に減るのだ。相手は夜行性だから無効に利があるのは間違いないし。

 もしかしたら『夜目』とか『暗視』みたいなスキルもあるかもしれんが、今の俺にはないわけだし。

 同じ過ちを繰り返すほど愚かしいこともない。


 そういうわけで、俺は小屋に引き返すことにした。


 小屋に戻って与えられた布団に潜り込む。

 これは実験だ。

 ゲーム内で寝たらどうなるのか。


 実験なのだ。別に狼にやられて悔しいとか腹立たしくてふて寝とかではない。

 現実の体は動いていないが、脳は働いている。そのため疲労はどうしても出てくるものだろうし、効率のいいゲームのためには休むことも必要だ。


 もしかしたらゲーム内で寝ている時間もしっかり過ぎていくかもしれないだろ。

 そういうわけで俺は寝ることにしたのだ。


 大事なことなので二回いうが、断じてふて寝ではない。



 結論から言うと、ほとんど時間は立っていなかった。

 現実時間は15分ほどしか経っていなかった。


 ゲーム内では午後9時ごろに寝て起きたのが午前6時。

 日が昇り始めて明るくなったころだった。


 うーむ、9時間分まともに現実で流れると1時間半持っていかれるから15分しか経っていないのはいいことではあるのだが、一晩過ごすたびに15分過ごさなければならないのは結構もったいないのでは?

 思うところはあるが今後検証していくことにしよう。



 起きた俺はスキルを鍛えることにした。


 これは発売前の情報だが、この『新・大冒険の書』でのスキルは素振りや模擬戦などの訓練でも上がるのだ。また、訓練することで新しいスキルを覚えることもあるという。

 このスキルだが、メニューの『スキル』の欄からどれくらいのポイントがたまればレベルが上がるか分かるようになっている。


 現在は


 片手剣 Lv.1 6/100


 である。


 朝っぱらからゲームらしくゴブリン狩り、というのもなんだか乗り気でない。

 やはり仮想とはいえ自分の体を自分の意志で動かしているからなのだろう。


 俺は小屋の裏で片手剣の素振りをすることにした。


 普通に上から下へ。内側から外側へ。袈裟を二種類。

 利き手で振って、利き手でないほうで振って。


 剣技スラッシュを撃つときは水平斬りでないと撃てないのか、という検証も行った。

 経験則では水平斬りでしか撃っていない。だが、やってみると水平でなくても発動できることに気づいた。


 とはいえ、水平の軌道が原則らしく、あまりズレると発動しない。

 もう剣技は任意で発動できる。

 MPが少ないのがネックだが、0になってもペナルティはないし、時間経過で回復する。

 MP消費については戦闘中に気にしなければならないが、うまくやれるようになりたいものだ。


 この朝からの訓練の結果、得られたスキルポイントは6ポイントである。


 片手剣 Lv.1 12/100


 道のりは長いが確実に上がっている、ということで満足しよう。

 朝の訓練はミクニが訪れたことによって終了した。


「おはようー!ブレイド起きてるー?」


 ミクニは誰もいない小屋へとそう声をかけながら突撃していった。

 まったく、俺が着替えていたらどうするのだ。

 着替え持ってないけど。


「おーい、こっちだこっち」


 声をかけながらミクニの後を追って小屋に入る。

 声に気づいたのかミクニが俺のほうに振り返った。


「あ、起きてた。おはよう。ご飯できたけどどうする」

「ああ、すまん。いただくよ」


 剣を下げた状態で出てきた俺をミクニがまじまじと見つめる。


「もしかして、外で剣を振ってたの?」

「ああ」

「じゃあ先に体拭いたほうがいいね。ほら、行くよ」


 ミクニは俺を引っ張って小屋から出ていく。

 俺は慌てて剣を鞘にしまってついていった。


お読みいただきありがとうございます

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