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03.スタッツの村

少女の見た目設定にこの先とずれが生じていたので直しました

 ゆっくりと浮上するように意識が覚醒していく。

 ぼやけた視界に映るのは茶色。

 はっきりとしかけた視界に映るのは知らない天井だった。


 俺はさっきまでチュートリアルをしていた。ようやくストーリーが始まったところなのだろうか。

 ゆっくりと体を起こす。先ほどまで吊っていた剣がない。アイテムボックスの中身を確認しようと思った矢先だった。


「あ、起きてる!」


 びっくりして声のするほうへ顔を向けた。

 女の子だった。

 明るい赤毛の小学校高学年くらいの少女。

 ぱあっと嬉しそうに桶を抱えてこちらに駆けてきた。


「良かった。無事だったのね。村の外で倒れていたのよ、覚えてる?」


 心配そうにのぞき込む少女。

 近い近い近い。俺は反射的にのけぞった。


「い、いや。君が助けてくれたのか。ありがとう」

「どういたしまして」


 横に置いてある桶には水が張られており、タオルが掛けてある。看病される直前だったらしい。


「あ、私、ミクニっていうの。あなたは?」

「俺はけんも…ゲフン。ブレイドだ」


 へーブレイドっていうんだー。とミクニはふんふんとうなずく。


「とりあえず立てる?歩ける?」


 俺は立って見せ、歩いて見せてミクニの心配を払拭した。


「まあ、大丈夫だな。それより、俺の荷物ほかに何かなかったか」

「えーっと、剣があったからあっちに置いてあるよ」


 ミクニが指さした方向、部屋の隅に俺の剣は置いてあった。


「お、あったあった」


 俺は剣を腰に吊り直した。

 俺が寝かされていたのは村長の家の一室らしい。

 ミクニは村長の娘で、倒れている俺を偶然見つけたんだとか。


「へえ、スタッツっていうのか。この村」

「そうなの。ところで、ブレイドは何であんなところに倒れていたの?」


 現在俺は村の中を散策していた。

 助けてくれたお礼を言いつつとりあえず家を出ることにしたのだ。

 ついでに何かクエストでも持っている村人はいないかと歩き回っているのだ。なぜかミクニを連れて。


「さあなあ。名前ぐらいしか思い出せないんだ」


 確か本家『大冒険の書』の主人公も記憶喪失だったのだ。

 俺は本家に則ることにした。別にゲームだし適当でいいだろ。


「ふーん。でも剣を持ってるってことは冒険者だったんじゃないの」

「そうかもな」


 ふらふらと当てもなく歩く。

 この村、案外小さくて、20軒くらいしか家がない。

 その中で特に大きくて村の真ん中にあるのが村長の家だ。ミクニはある意味お姫様だな。


「あら、ミクニちゃんじゃない」


 小さい村だと知らない人というのはいなくなる。声をかけてきたおばあさんもミクニの知り合いのようだった。


「こんにちは」

「こんにちは。そちらは…」

「ああ、ブレイドと言います」

「村の外で倒れていた人よ」


 ミクニの説明で納得がいったようだ。さすがは小さいコミュニティ、情報の速度がSNS並みだな。俺が拾われてからどれくらい経ったか知らないが。


「あんたもなんだか知らないけど大変だねえ。最近はこの辺りも物騒になってきたし、おちおち薬草取りにも行けないよ」


 お、クエストのフラグかな。


「最近物騒って何かあったんですか」

「この辺り、前までは結構平和だったんだけど、ゴブリンが近くをうろついてたりとか、魔物が山から出てきてるみたいなんだよ。男衆が頑張ってくれているけどまあ、一朝一夕じゃどうにもならないからね」


 おばあさんはやれやれと首を振る。


「元気出しておばあちゃん。ほら、ブレイド冒険者っぽいし何かできるんじゃない。どう?」


 ミクニが俺に振ってくる。

 これは確実にクエストのフラグだな。


「何かお困りでしたら、俺でよければ手伝いますよ」


 俺は愛想よくそう言った。

 おばあさんはちょっと胡散臭げに見ていたけど、ミクニの任せなさいのどや顔を見て苦笑いして話してくれた。


「いや、家で貯めておいた薬草が切れちまってね。少しでもいいから取りに行ってきて欲しいんだよ」


 俺の頭の中だけでピロンとクエストの音が鳴る。

 が、ポップは出ない。


「分かった!任せて!」


 お前が受けるなよミクニ。


「まあ、薬草取りくらいなら受けましょう」


 そうしておばあさんから村の外や間際に向かっていったところの野原にて薬草取りのクエストを受注した…はずだ。


「ほら、ブレイド早く早く」


 なぜか俺よりミクニのほうが乗り気だが。

 ルンルンと楽しそうに歩くミクニの後ろをついていく。


 メニューからマップを開いてみると確かにこの先は山でありその手前には野原が広がっている。

えっと、中心の青丸が俺で、すぐ前の緑の丸がミクニ。てことは、このマップに点在する赤い三角形は敵さんですね。

 マップも自分を中心にある程度の距離までしか作られないらしく今はまだ灰色の地形も場所もよくわからないところに赤い三角があるだけだ。


 まあ、しばらくは敵さんに遭遇しないってことだろう。

 ついでにステータスも確認しておく。


名前 ブレイド

Lv. 3

HP 28/28

MP 15/15

STR 15 (+3) VIT 15 (+3)

INT 13 MGI 12

AGI 12 DEX 12


スキル

片手剣Lv.1


 レベルが3に上がっている。ゴブリンを倒したからか、初期レベルがこれなのか…。まあ損はないだろう。

 もう一度マップを開いてみる。タッチしてスライドさせるとマップの中心位置がずれる。

 もしかしてと思い試しに拡大できないかとマップを触っていると大きくなった。

 このマップ案外使い勝手がいいのかもしれない。

 先ほどの村はマップに乗っている。どうやら行ったところは自動登録されるらしい。確かにスタッツ村と表示されていた。


「よし、この辺ならあるはずね」


 立ち止まったミクニに激突しそうになりながら俺も立ち止まる。


「ブレイドちゃんと薬草分かる?分かるよね?」


 う、そう言われるとどれが薬草だか実は分かっていない。


「分からないです」


 俺は正直に言うことにした。

 ミクニは嬉しそうに言う。


「じゃあ一緒に探してあげるよ」


 もしかしてこれが目的だったんじゃ。

 そうして俺たちの薬草探しが始まった。


「あったー」


 ミクニの声が空に吸い込まれていく。


「いい、この葉っぱが丸っこくてちょっとトゲっとしてるのが薬草だからね。葉っぱをむしらないように茎をちぎるのよ」


 俺はミクニのアドバイス通り薬草を採取する。


「これでブレイドも薬草つみできるわね」

「はいはい」


 見本なのか持たされた薬草を片手に俺も薬草探しを始めた。

 ふとマップが視界右上に出ていることに気づいた。注視するとウィンドウとなって胸元に出てくる。

 マップ上には先ほどなかった黄色の点が現れていた。


 細かすぎて見えないのでマップを拡大していく。

 …。これ、薬草の位置検索結果じゃ…。

 試しにマップの印通りの位置を探すと見本と同じ植物が見つかった。

 俺は採取した薬草と見本の薬草を両方とも《収納》する。

 あとはマップを頼りにひたすら採取を続けた。

 10株くらい採ったころだろうか。ミクニがこちらの様子を見に来たようだった。


「ブレイドさっきの見本どこやったのよ。もしかして捨てた?」


 ミクニは片手に4つほど薬草を持っている。

 残念だが俺のほうが多いな。


「いや、捨てるわけないだろ。《取り出し》」


 そして瞬時にアイテムボックスから摘んだ薬草をすべて《取りだす》。

 瞬間的に俺の手が薬草でいっぱいになるのを見てミクニは目を丸くした。


「なに…それ…。魔法?魔法なのね」


 すごーい、ブレイド、魔法が使えるんだ、とはしゃぎだすミクニ。

 いや、すごくねえよ。ただのアイテムボックスだよ。なんでNPCが驚くんだよ。といろいろ思ったがまあぐっとこらえた。

 よくできているゲームなんだろう。


「お前の薬草も預かろうか?」

「いいの?」


 俺は差し出された薬草を受け取り《収納》する。

 次は一瞬で消える薬草にミクニはまた眼を大きくした。


「すごいね」

「すごいか?」


 俺の横でミクニはすごいすごいを繰り返していた。

 そんなミクニを見ていたからだろう。俺はマップ上の赤い三角が近づいているのに気づいていなかった。

 気が付いたのはそいつが不快な声を上げたからだ。


 グギャ、キギャ。


 一度聞いたから分かる。俺の体に緊張が走った。

 ミクニも気が付いてそちら側を見る。

 緑色の影が二つ、近づいていた。

 俺はマップを確認しミクニの前に出る。


「ブレイド、魔物だわ…。逃げなきゃ」

「大丈夫だ」


 マップ上、後方には近づいてくる魔物はいない。今の脅威はこの二匹のゴブリンだけだ。


「お前は前に出るなよ」


 俺は剣を抜き、二三歩前に出て構えた。すでにゴブリンはその姿がはっきり認識できる距離にいる。二匹ともレベルは2だ。

 二匹のゴブリンはいやらしい笑みを浮かべてグギャグギャと笑っていた。

 子供が二人、どうにでもなるとでも思ってんのか。


 二匹とも手ぶらで俺が構えているのを見ると駆けだしてきた。

 どうせ下っ端だ。さっさと倒して村に戻ろう。

 俺は迎え撃つべく地を蹴る。

 一匹目を迎え撃つと同時に横一線。物は試しだ。


「《スラッシュ》」


 剣は淡く光りゴブリンを一刀のもと吹き飛ばす。

 HPを削りきることはできず、残り少しのところで止まったようだ。

 それでも多少の距離を稼ぐことができたので二匹目のほうを見る。

 仲間が吹っ飛んで動揺したのか完全に足が止まっていた。


 そこに上から一撃。剣を食らってひるんだところをしたから救い上げるように斬りかかる。吹き飛ばしたゴブリンがこちらに駆けよってくるのを視界に入れながら目の前のゴブリンにとどめを刺す。右からの袈裟斬りだ。


 HPバーが0になったのを確認してとびかかってくるゴブリンをよける。

 着地したところを後ろから首に向かって剣を叩き込んだ。残り少ないHPは即座に0になった。


「…すごい」


 ミクニは一連の戦闘を見て呆然としているようだ。


「全然すごくない。ゴブリンくらい、さっと倒せなきゃ」


 なんとなくかっこつけたくてブンブンと剣をふるってから鞘に戻す。

 血糊とか気にしなくていいんだろうか。まあ、ゲームだしな。


「さて、薬草摘みはもう終わりでいいかな」


 俺はミクニに尋ねる。


「十分だと思う」


 ミクニはこくこくと首を縦に振った。

 そしてそのままその場にしりもちをついた。


「ごめん」


 ミクニは困ったように笑って、俺を見上げた。


「立てなくなっちゃった」


 緊張が解けったってことだろう。

 俺は手を差し出した。


「立てるか」


 ミクニは俺の手を取り立ち上が…れなかった。


「ごめんなさい。完全に腰が抜けちゃったみたい」

「しょうがないな」


 俺はミクニを抱き上げる。


「え、ちょ…」

「ほら、サッサと村に戻るぞ」


 マップを確認して村のほうへと歩き出す。

 いやすごいな。重みを感じるけど疲れてくる気配がない。


「ちょ、これ、恥ずかしい、恥ずかしいってば」


 さすがにまだレベルは上がってないか。どれくらい倒せば上がるんだろう。

 今度レベル上げをしないとな。

 そういえば今の装備ってどんなんだろ。そういえば確認してなかったな。

 えーっと、装備はっと


 装備

武器 最初の片手剣 STR +3

頭  なし

体  普通の服 VIT +1

手  なし

脚  普通のズボン VIT +1 

足  普通の靴 VIT +1

アクセサリ なし


 まあ、初期装備なんてこんなもんだよな。

 なんかこう、格好いい服装したいよな。どうせ自分しか見る人いないんだから。ゲームだし。

 メニューをじっくりと確認していると気が付くと村がもうすぐだった。


 そこで抱えていたミクニを思い出す。

 ふと顔を下に向けると胸元で丸くなったミクニがスースーと寝息を立てていた。

 いくらゲームで疲れないからとはいえ寝ないでほしいな。


「ほら、ミクニ、起きろ」


 軽くゆすってやる。ふぇ、と情けない声を上げながらミクニが目を覚ました。


「もう村だぞ。立てるか?」


 ゆっくり降ろしてミクニを立たせる。

 ミクニはきちんとたってから軽く自分の体を見渡したり、跳ねたりする。


「うん、大丈夫」

「じゃあ、さっさとおばあさんのところに渡しに行くぞ」


 ミクニは勢いよくうなずいて俺の手を引っ張りながら村へと入っていった。

 おばあさんに薬草15本ほど渡して大変感謝された。


 普通はクエストの報酬にお金がもらえるはずなんだが、村では物々交換で何とかなるのであまり持っている人はいないらしい。

 というわけで、緑のHPポーションを3本ほどもらった。

 途中、俺がゴブリンを退治した時の事を無駄に張り切ってしゃべるミクニを制止するのが大変だった。


お読みくださりありがとうございます

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