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11.義姉

ここから二章です

新キャラ初登場回につき説明回です

 すっと、意識が浮上する感覚を覚える。

 現実世界に戻ってきたときの感じだ。


 …なんか寝た時よりも狭くなっている感じがする。

 俺は軽く身じろぎをすると壁に体が接するように寄っているのが分かった。


 俺の部屋ではベッドが壁と接するように設置されている。そのベッドの頭(をいつも向ける)側の奥のスペースにVRゲーム機の本体を設置し、ヘッドギアの線をつなげている。

 ゲーム開始前はベッドの中央で寝てからVR世界へとダイブしていた。つまり、俺の体が軽く身じろぎしたぐらいで壁に当たるなどおかしいのだ。

 壁側と反対側にも、壁ほど固くないが俺を圧迫するものを感じるし。


「あ、起きた?」


 壁でないほうの壁が俺に声をかけてくる。

 俺はため息をつきながら体を起こ…せない。

 肩を抑えられて首しか動かなかった。


 諦めて体の力を抜くとヘッドギアがとられる。

 俺のヘッドギアを持って、上から覗き込むように俺の顔を見ている、見慣れた整った顔立ちが目に入ってきた。

 さらさらと流れる黒髪が俺のほほに少しかかる。


「おはよう。司君」

「おかえり、静音」


 我が義姉、静音である。

 右手でその顔を制し、体を起こす。それから静音を見れば、非常に不服そうに頬を膨らませている。


「…家にいる時は『お姉ちゃん』と呼ぶこと」


 これである。

 剣持静音と言えば、才色兼備を地で行く秀才として学校内で知らぬ人はいないというほどの有名人だ。

 さらさらの黒髪、切れ長な目、整った目鼻立ち。十人とすれ違えば十一人振り返るといわれる美人っぷりである。見た目は。


 その実態は、頭を使うことをめんどくさがる脳筋のわがまま娘だ。

 そして俺に対して非常にお姉ちゃんであることを誇示してくる。それに付き合わないと後がめんどくさいいたずらをされるか、駄々をこねるかの二択だ。


「…いつ帰ってきたんだい、静ねぇ」


 一応姉として扱ってやるとくるっと態度を翻して嬉しそうにする。


「2、30分前かな。お目当てが売り切れてて早々に解散しちゃった」


 静ねぇは女友達と買い物に出ていたはず。もっと遅くなると思っていたのだが。


「それより見て見て」


 とベッドの脇に置いておいたのか紙袋を取り出し始める。

 じゃーん、という口での効果音とともに取り出したのはサッカーボールがすっぽり入りそうなほどの立方体の箱。

 見覚えのあるロゴに見覚えのある会社名。


「司君があんまりにも楽しそうにしていたから買ってきちゃった」


 てへ、とかわいく笑って見せる。こういうのが似合う人はズルだと思うのだ。

 静音が買ってきたのはヘッドギアだった。


「これで私も一緒に司君とゲームできるよ!」


 俺は頭を抱えたくなった。


 ヘッドギアは主に脳波の読み取りと、脳からの体への信号の遮断、そして個人データを記録するためのものだ。旧来のゲームで言えばコントローラーに当たると思ってほしい。ヘッドギアだけではゲームはできない。ゲーム機本体となるVRキューブと呼ばれるものにゲームカセット(昔のUSBメモリが近い)を差し込んでヘッドギアをつなげてゲームの世界へ飛び込むのだ。


 我が家には俺が『新・大冒険の書』に合わせて買ってきたVRキューブが一つ、ヘッドギアが一つしかなかった。

 一応、『新・大冒険の書』は2人までなら同時に遊べるのだが、2人目のプレイヤーとしての自由度は結構低い。

 メインプレイヤーと一緒に行動するのが原則だし、サブプレイヤーだけではフィールド間の移動はできない。

 それでもスキルや武器の自由度はメインプレイヤーと一緒だから、常に二人で行動することにさえ気を付ければ問題はないといえばないのだが…。


「静ねぇ…。これ、ゲームだよ?」


 静音は致命的にゲームが下手だった。


 その昔、テレビゲームを一緒にやりたいと言い出し、やり始めたら悲惨なことになった。

 コントローラーを用いて自機を動かす、ということが非常に苦手だったのだ。


 はっきり言って静音は天才肌だ。このタイミングでこういう動きをすれば相手の攻撃は必ずよけられるなどの、自分がしなければいけない動きは即座に理解できるらしい。それを十字キー、あるいはパッドで操作し、各ボタンをタイミングよく押す、という操作につなげられないのだ。

 一般的には少し不器用で済むのだが、ゲームに関してはあれだけやりたがっていたのに自分からもうやらないと言い出すほどだった。おそらく、自分と合わないのを感じ取ったのだろう。


 俺の不安げで不満げな顔を見て静音は少し顔を引きつらせる。

 おそらく過去の自分を思い出したのだろう。過去の静音のおかげで俺の大量に貯めに貯めた残機は0となったのだから。


「大丈夫!私、VRは得意だから!」


 俺の目が細くなったのを見て静音が慌てだす。


「嘘じゃないよ、ちゃんと試したから。友達の家でゲストで遊んで大丈夫だったから大丈夫!」


 確かに自分のしたい動きをコントローラー越しに動かす旧来のゲームとは違い、VRゲームはあくまで自分の体を動かすものだ。

 運動神経いいからね静音は。


 ゲームを見ているのに飽きた静音に何度外に連れ出されたことか。

 俺は納得したようにうなずいた。それを見て静音もぱぁっと明るくなる。

 俺はベッドから降りながら言う。


「まあ、とりあえずは夕飯の後だな」


 まずは夕飯の準備だ。静音も一緒にやるとなるとなおさら早めに作って手早く済ませてヘッドギアの初期設定からやらないとな。

 俺は夕飯の支度をするべく静音を連れてキッチンへと向かった。


* * *


 ここで静音こと、剣持静音について補足しておこう。


 歳は満17歳。俺と同じ高校2年生だ。誕生日が4月14日と俺よりも早いことからお姉ちゃんであることはまあぎりぎり正しい。

 もともと静音は従姉だ。血のつながりはないが。


 うちの母親の妹の結婚相手の連れ子というのが正確な説明になる。


 大変不幸なことに小学生の頃に事故により静音の両親が他界。ひと悶着あったんだかなかったんだか当時の俺は知る由もなかったが、結果としては我が剣持家で引き取ることとなり、剣持静音となった。

 現在、学業優秀、運動神経抜群、容姿端麗とお前はいったい何者なんだというハイスペック駄々っ子お姉ちゃんである。


 両親を亡くしてすぐのころはひどく落ち込んでいて見ているこっちがやられてしまうほどであった。

 そこから今のようになったのはまあ過程はどうあれ幸せなことだろう。

 一時期、俺を見ながら「家族になった」とか「司くんは私の家族」とか「私が司君の家族」とかつぶやいていたころよりは丸くなったし、幸せなことだろう。


 最近怖いのは「そういえば結婚届っていつから書けるようになるんでしたっけ」という会話を母親とする頻度が増えていることか。

 記憶力がいいくせになぜ何度も聞くのだ。忘れるのか。そんなバカな。


 さらさらの黒髪を肩甲骨のあたりまで伸ばし、通常はストレート、体育など、運動するときはポニーテール、一日中動き回ったり掃除したりする日はお団子とくるくると変わる髪形に一部男どもは大喜び。

 振った男の数は知れず、付き合っている男もいない。弟はそれが心配です。


 たまに俺と二人で出かける時は編み込みをしたり三つ編みにして片側にまとめてみたりと多種多様な髪形を披露してくれるのだが、そういうことは彼氏さんにしてあげてほしいと弟は思うのです。

 聞いたところによると告白の断り文句はだいたい同じで、「私には心に決めた人がいるので!」の後にのろけ話が入るらしい。一緒に歩いているとすっと車道側に入ってくる、とか一緒に買い物をするとさりげなく荷物を持って行ってくれる、とか自分のためにおいしい夕飯を作ってくれる、などなど。

 最初に聞いたときは驚いて誰だよそいつ、と声を荒げて友人に問い詰めてしまった。なお、そのあと手鏡を手渡された。


 最近気が付かないうちに部屋の中に入っていたりベッドに横になっていたりと気配を感じられない時が増えているのが怖いところだが、悪い姉ではないのだ。

 別に姉だと思っているわけでもないが。


 その、才色兼備な静音だが現在、俺のベッドの上でヘッドギアの初期設定中である。


 まずは個人データをヘッドギア内に設定してその容姿でゲーム内に現れるわけだ。とはいえ、ヘッドギアの初期設定の要旨はほぼスキャンで完了するので、容姿の設定ができるゲームでない限りは現実とあまり変わらない顔で始まるのだが。

 そこに生年月日やら個人認証設定やら身長やらなどを設定していく。

 自分でぺたぺた体中触ったりするんだよな。


 俺はというと静音の初期設定中に床に敷く毛布を取ってきたり、飲み物を飲んでおいたりといつでもゲームできるように準備している。

 一通り初期設定が終わったのか、静音が起き上がってヘッドギアを外した。


「ふう。初期設定終わったよ。司君」

「じゃあ、『新・大冒険の書』を始めるけど、トイレと水分補給はしっかり済ませておけよ。あと、ゲーム内では俺と一緒に行動するのが原則だから。メインは俺、サブが静ねぇだから」

「うん。了解」


 俺のヘッドギアもVRキューブに接続する。

 俺が床に寝転がると静音は不思議そうな顔をした。


「あれ、司君、ベッドで寝ないの?」

「ベッドは静ねぇが使っていいよ。俺は床でも大丈夫だから」


 静音はきょとんとした顔をしている。


「一緒に寝ればいいじゃん」

「一緒に寝るにはそのベッド狭いでしょ」


 静音が目をそらす。今舌打ちしなかったか?


「(ま、司君のベッドで寝れるというので我慢しますか)」

「なんか今言った?」

「何にも言ってないよ」


 俺はヘッドギアを装着してベッドに寝転んだ。


「じゃあ、あっちの世界で会おう」

「了解です」


 俺たちはヘッドギアの電源を入れた。

 サブプレイヤーの一番最初のログイン時は俺と同じようにチュートリアルが入る。そのチュートリアルが終わるまで俺が待つことになるのだが、あまり時間を感じさせないようになっているとも説明されていた。


 いつも通り、目をゆっくり開けるとログアウト前にとった宿屋の一室だ。

 ある程度待てば合流できるらしいがどれくらい待つのか、どこで合流となるのか、よくわからないのでとりあえずここで待機だ。


 これからやることをリストアップして行こう。

 まず、冒険者ギルドを訪ねること。これで冒険者となることが第一段階だ。

 次に、防具の調達。現在、初期装備の普通の服のままだ。ここの防御力を上げていきたい。攻撃力についてはとりあえず保留だな。

 そしてクエストをこなすこと。これはこの世界でのお金を手に入れることとギルドランクを上げることが目標だ。


 現在、宿をとるにもお金がかかる。お金はたくさんあって困るものじゃない。

 そしてこの町でのストーリーがどのように進むのか現状ではわからない。クエストをこなしながらこの町に馴染むことから始めるべきだろう。

 うむ。当面の問題は朝6時に目が覚めてどこで朝の素振りをするかだな。うん。


 ふと、部屋の中に揺らぎができる。陽炎みたいなそれは、人の形よりも少し大きいくらいのもので。

 目を凝らしていたのにもかかわらず、揺らぎが消えたと思うとそこには静音がいた。

 髪は黒。ポニーテールでまとめられている。俺と同じような粗雑な服と靴を履いて腰には刀を下げていた。


 …刀にしたのか。

 そういえば静音の親父さん、古流剣術の師範代まで登りつめた人だったとか聞いたことあるな。その名残かな。

 静音はゆっくりと目を開ける。

 そして一瞬部屋を見渡し、俺を見つけてほほ笑んだ。


「良かった。無事司君のところに来れたね」

「ああ。でもこの世界では俺はブレイドだから。静ねぇは名前何にしたんだ?」

「名前?普通にシズネだけど。カタカナしかできなかったし」


 うむ。RPG感0なところが静音らしい。まあオンラインゲームではないので本名を使ったところで何の問題もないのだが。


「じゃあ俺はシズネって呼ぶけどいいよな」

「(なんか呼び捨てにされるのも)いいよ」

「で、俺はこの世界では記憶喪失でほとんど過去がない人間になっているんだがシズネはどうする?」


 静音がぽかんとした顔をする。俺はこの世界の設定を簡単に説明した。


「なるほど。つまり司く…ブレイド君は最終的に魔王と戦う勇者様になるけど現時点ではただの記憶喪失ってことだね」


 その通りなんだが、なんかヤだな、その言い方。


「ま、シズネに関しえ言えばこの町で知り合った新人冒険者でもいいんだが…」

「それだとずっと一緒にいたら勘違いされるんじゃない?」


 私は別にされてもいいけど、とちょっともじもじしながら言うのは止めなさい。


 もし冒険者同士にするんだったらシズネには宿の違う部屋を取ってもらわなきゃならない。外聞的に。

 その方が冒険者をするにあたってはいいんだが、部屋が別になるとちょっとした連絡手段が問題になる。

 このゲーム、基本的に一人プレイで行う想定だから、オンラインゲームみたいなチャット機能がない。つまり、すぐさま何かを伝えたいときに同じ部屋にいないと困ることがある、かもしれない。

 ということをシズネに伝えるとあからさまに困った顔をした。


「あ、じゃあ私は自称ブレイド君の姉ってことでいいんじゃない?記憶がないからはっきりとは分からないけど、信憑性は高いから一緒にいる、みたいな」


 そんな雑な設定があってたまるか、と思うのだが、いちいち考えるのも面倒になったのでそれで手を打った。

 問題が発生したら変えるようにしよう。


合法のシスコ…

静音を一言で表すと「ハイスペック駄々っ子お姉ちゃん」です。本文で言及した通り

お読みいただきありがとうございます

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