4章-08 事情
アヌビス「どうだい、シアノヒルズ。素晴らしい町だと思わねえか?」
サヤ「…うらやましい」
パギー「…すごい」
レック「でも、この町の経営は事実上崩壊したって聞いたぞ」
アヌビス「…。そうだ。
…言っただろ?何千人もの職人の手によって経済が成り立ってたって」
レック「ああ」
アヌビス「そいつらのうちの8,9割は死んだか亡命した。
当然経済もぐちゃぐちゃになるわな。
…それでもう、今は、いつ滅びたっておかしくない状況だ」
パギー「なんで、8、9割も?」
サヤ「それに内乱もたびたびあったって聞いたよ。
…どうして?こんないい町で、内乱なんか?」
アヌビス「長くなるぞ?いいか?」
サヤ「うん。教えて教えて」
アヌビス「結局は、何やってもいいんだから、何やっても批判だらけなんだ、この町。
成功した奴らが嫉妬されて、誹謗、中傷の嵐。
それでそいつらとファンとの間で喧嘩になって、炎上してしまう…
そんなくだらない争いが、数え切れないほどあった。
…それでも芸術家たちは自分のために筆を取って取って、取り続けていた。
殴られても、殺されかけても、ただひたすらに。
ファンが回りに集ってそれを護る…そんな構図がしだいにできあがっていった。
それが、この町の伝統みたいなもんになったんだ。
そうなると文句を言う側は次第に駆逐されていって、孤立しちまって、
その町の構図に強い不信感を抱き始めた。
そして、その駆逐された連中だけで、一つの小さなグループができあがったんだ。
これが、始まりだ。
話は変わって、
たくさんの芸術家たちの中に、一つの超有名バンドがあった。
彼らのCDは既に全国で大ヒットしていて、世界の大スターになってたんだ。
…だが、彼らはこの町から外に出なかった。
よくわかんねえけど、ファンって言うのは、やっぱり生のアーティストの演奏を聞きたいのかな?
とにかく、町の外から、ライブを見させて!っていうお達しが次々と来たんだ。
…でも、ここは基本的に秘密主義の町なんだ。
来る者は拒まない、拒めないけど、出来るだけ来るな、っていう暗黙の了解があるんだ。
当然だよな。何もできない何もしないそんなやつがごみのようになだれこんできて
食料だけ漁って帰ったら、この町はろくなことにならないだろ?
だからこの町の住人はわざと悪い噂を流したりして、人を追い払っていたのさ。
だから、そいつらのファンの願いは長い間聞き入れられなかった。
でも、そのバンドの連中は、自分達のファンに対し、こんなことでいいのか、って思っちまってな。それで、アポなしで強行しちまったんだ。
外部のファンも集めた、大規模な生ライブを。
…で、外部からこの町にやってきたろくに何も作れない、何もできない、そんな連中が、この町の豊富な食糧やらに目をつけ、大量に住み込んじまったのさ。
当然、食糧やらその他の問題がぐちゃぐちゃになっちまった。
でも、元からの住人は表立ってそいつらを追い出すことも出来なかった。
むしろ歓迎する連中もいた。
でもって、バンド連中が責められたのだが、
「自分のやりたい事をした、何が悪い」という理屈と、
多数のファンの後押しによって、結局は許された。
一部の連中以外にはな。
でも、そいつらは、それではとても収まりが付かなくって、そいつらのことを過激派って命名するんだが、ついに過激派の連中はどんどん強硬策を取り始めたんだ。
まず、そいつらとそのバンドのアンチの連中が手を組んで、クーデターを起こした。
そして、バンド連中の根城である音楽ホールは焼かれ、レコードスタジオは壊され、ぐちゃぐちゃになった。
…それを、報道部がとりあげた。
その知らせを聞いて、さらに多数の便乗犯やバンド連中に恨みを抱いていた者が音楽大使館に集まり、ついにバンドの連中は皆殺しにされた」
サヤ「…ひどい…」
アヌビス「俺は当時そのバンドには全然興味なかったんだが、この町が出来た当時からいる世代の人たちは、大半がそいつらの曲の大ファンだった。…俺の親父もそうだった。
町の3分の2ぐらいの人が大好きだったバンドの死だ。それは衝撃的だったぞ」
パギー「それで、どうなったの…?」
アヌビス「悲劇は、それだけで終わらなかった。
そのバンドのファンの連中が今度は怒った。
しかし、怒りをぶつけようにも、バンドを襲った連中は当に行方をくらましていた。
…そして、責められたのは、マスコミだった」
サヤ「…どうして?」
アヌビス「マスコミの報道責任者の主張が、こうだった。
…バンドがファンを外部から取り入れたことにより、悲惨な事態が起きた。
外部から来た場所をわきまえないファンには、とっとと出て行ってもらいたいものだ」
パギー「うわきびしい報道!」
アヌビス「おれには正論にしか思えなかったけどな」
ナオヤ「正論ばかり振りかざしていてもいいとは限らないよな」
サヤ「あんたが言うな」
アヌビス「…まぁ、そいつらは、こう思ったんだろうよ。
最初の焼き討ち事件が公表されたから、それに便乗して各地からそのバンドに恨みを持った者たちが集まった。
バンドが死んだのは、マスコミのせいだ」
サヤ「そんなの…おかしいよ。…だって、あくまでその人は、自分の意見を主張しただけじゃん」
アヌビス「そりゃそうだ。だから自治会はそのマスコミの一派に責任を負わせ町から追い出すという意見に猛反発をした。
…だから、ついに強硬派が現れた」
サヤ「…強硬派?」
アヌビス「燃やしちまったんだよ、マスコミ本社のビルをな。
…同時に自治会もぐちゃぐちゃにしやがった。
…それで、自治は崩壊した。
めげずに自治会に来た奴らが何人も殺された」
サヤ「…」
アヌビス「…その中に、俺の親父もいた」
パギー「…」
レック「警察とか、そんな治安を守る組織はなかったのか」
アヌビス「この町は基本的に警察なんてねえ。
…自分の身は、自分で守るのが仕来たりだ。
それに悪いことをする輩は数の暴力で制裁される。
だから、基本的に何もおこらなかった。
…もし起こっても、すぐに解決した」
アヌビス「…だけど、その時は、そいつらの数が多すぎたんだ」
アヌビス「そこからは、もうむちゃくちゃだった。
強硬派は町中から叩かれるんだが、今度は強硬派の連中のが強くて
ついには、町中にケンカを売ったんだ。
…学校が焼かれ市民ホールが焼かれ私怨で民家が焼かれ…
人々に、強硬派に対抗するだけの力は無かった。
…だから、みんな逃げてくか、この町に残って、殺されるか、どっちかだった」
アヌビス「好きだった町なんだけどな、終わりなんて、あっという間だったよ。
止めようと思っても、怖くて何も出来なかった」
ナオヤ「なーんか他人事だねえ」
アヌビス「見てるしかできなかったんだよ、怖くてな」
パギー「今も、いい町」
アヌビス「そうかよ。
昔はこの何十倍も楽しい町だったんだぜ…
…でもな、俺、ちょっとだけ後悔してる」
サヤ「後悔…?」
アヌビス「たとえ死んでも、護らないといけない物もあるんだ…最近はそう思うようになった。もし…あの当時の俺が、そう思っていたなら…なんて、バカらしいよな」
ナオヤ「うん。バカバカしい」
サヤ「そんな冷たく蹴り落とさなくても…」
ナオヤ「後になって理由付けしたことを、その時点で思いついていたら…なんて、あほちゃうか、としか」
遠い目をして、ナオヤはそう言った。
アヌビス「ああ、その通りだな!!
…けっ」
ナオヤ「まあ、そうムキになるな。
ほんとに守りたいんなら、それ相応のことをしろ」
アヌビス「…ちくしょう…」
レック「でも、そんな過激派、見かけなかったような気がするが」
アヌビス「接近してきただろ、あの暴力団の弁護士の女が。
あのトップのライチって女が、過激派のトップだよ」
ナオヤ「おれとキャラがかぶってるとかなんとか言ってたな」
アヌビス「でも、あの女は罪もない人をもう何百人と殺してるような女だぞ。
おまえとは違う」




