4章-06 縄張り
中央演劇館の前にやってきた。
アヌビス「せっかくだし、見ていくか?」
サヤ「演劇なんてまったく興味ないんだけど」
パギー「見ていこうよ、せっかくだし」
ナオヤ「そうだな、芸術の町とやらがどれだけすごいのか、この目で拝んでおこう」
最初は、正直馬鹿にしていた。
しかし、その劇は、まさしく心に訴えかける内容だった。
パギー「…すごかったね」
ナオヤ「さすがプロって感じだな。
続きが気になってしょうがない」
そう、この劇はまだ前編だった。
「あら、坊やたち見慣れない顔ね。どうだった?」
女の人が話しかけてきた。
パギー「あ、さっきの女優さんだ!」
アヌビス「お久しぶりです、エンテさん」
エンテと呼ばれた女性はアヌビスに挨拶を返す。
エンテ「あら、アヌビスくん。久しぶりね。この子たちは友達?」
アヌビス「お久しぶりです。相変わらずですね」
サヤ「サヤです、はじめまして」
パギー「パギーです」
ナオヤ「最低です、よろしく」
エンテ「最低?」
アヌビス「ああ、こいつは変わってるんで。
そんなことより、今もここでがんばってるんですか?」
エンテ「ええ、一時期より厳しくはなってるけど、何とかね」
ナオヤ「いい演技でしたよ。次も見に行きます」
エンテ「あら、うれしい。お待ちしてるわね」
そこで、横やりが入った。
「まーだこんなくっだらない劇やってるの」
一人の女と、用心棒らしき二人組の男が現れた。
「くだらないかどうかは見てから言ってください」
エンテさんが返す。
「見る気にならないからくだらないって言ってるの。
そんなのどうでもいいの。あなたの相手をしに来たんじゃない」
そう言うと、女はナオヤの前に出る。
「最低さんかしら」
ナオヤ「そうだけど、あんたは?」
「わたしは弁護士のトリフ。
以後お見知りおきを」
ナオヤ「おれに何の用?」
トリフ「あなたの噂を聞いてね。
どんな人なのか見に来たってわけ」
サヤ「弁護士さんですか」
アヌビス「…こいつは弁護士と言っても、
暴力団の弁護とかそんなのばっかりやってる女だ」
パギー「ぼ、暴力団?」
トリフ「あら、暴力団の弁護をしたら問題があるのかしら。
彼らだって同じ人間なのよ」
アヌビス「ふざけんな。
あんたらのせいでどれだけの人間が泣いてきたと思ってるんだ」
トリフ「それは泣かされた人間の弱さでしかないと思うけど…
まぁ、そんなことはどうでもいいの。
最低さんに、忠告よ」
ナオヤ「おれに忠告?」 ・・・・・・・・・・
トリフ「そう。あなたとうちの組の長とは、キャラがかぶってるの。
つまり、どういうことかというと、さっさと出て行ってくれる?」
ナオヤ「ほう」
アヌビス「トップというと、あのライチのことか」
トリフ「ライチさんを呼び捨てにしないでもらえる?」
強い口調で、そのトリフという女は言った。
アヌビス「おまえは何様のつもりなんだ」
トリフ「縄張りの問題よ。
あなたみたいな人間は、一人で充分。
そう思わない?」
最低は、少し笑ったように見えた。
ナオヤ「そんなこと、おれの知ったこっちゃないね」
トリフ「そう」
トリフという女は、そう言い残すと、特に何もせず去って行った。
アヌビス「何しに来たんだ、あいつ…」
パギー「顔を見に来た、とかなのかな」
アヌビス「かもしれねえな。
幹部に報告してるのかもしれねえぞ」
パギー「こわい…」
ナオヤ「ヤクザだかなんだか知らねえけど、
おれとキャラがかぶるだなんて、珍しいな」
サヤ「ヤクザのトップとキャラがかぶってるって…」
はぁ。
サヤが深いため息をつく。




