4章-04 芸術
ナオヤ「でも、おかしいだろ、どこからあれだけの食料を輸入しているんだ。輸入には絶対に金が要る。こんな街で、それに見合うだけの輸出なんて…」
アヌビス「芸術だよ」
ナオヤ「芸術ぅ!?」
アヌビス「この街は世界有数の芸術の発展した町でね、専門家の人たちから高い評価を受けているのさ」
ナオヤ「げ、芸術だけで、町一つ賄えるはずがないだろ」
アヌビス「だが、昔のこの町は、それができたんだ」
アヌビスは誇らしそうにそう告げる。
アヌビス「そもそもこの町はな、他の様々な大都市から迫害された人々が寄せ集まって出来た町でな、その中には一流芸術家が、たくさんいたんだ。
しかもここには何の規制もない。書きたい物を書きたいように書け、しかも好きなように批判される。その結果彼らの才能はさらに磨きに磨かれ、一流品となった。
そんな天才芸術家が、昔は何人も居たのさ。
彼らは食うためでなく、自分のために作品をただひたすら作っていられる。
元々才能のある連中にそんな環境が重なって、世界でも有数の作品を次々と生み出していったのさ」
パギー「そりゃ、こんな所なら
生活に何の不安もないだろうし、
心も豊かになるねっ」
ナオヤ「いや、いやいや」
おじいさん「おお、アヌビスではないか」
アヌビス「あ、スコーピオンさん。あいかわらず元気そうで」
おじいさん「当たり前じゃ。わしゃまだまだ若いもんには負けん。
…わしは死ぬまでこの世界に情熱を注ぐと決めたのじゃ。それから50年以上、まだわしは絶対に衰えん。この体が朽ちるまで書いて書いて書き続けてやるわい。はっはっは」
おじいさんはそういい残して去っていった。
アヌビス「あのおじいさんは、ああ見えても昔から比べるとかなりおとなしくなっちゃってるんだぜ。本人は認めないみてえだけどな。
昔…おれが子供のころは夜も昼も関係なく、ただ書くと決めたときには何十時間もずっと書き続ける人だった」
サヤ「小説家、なの?」
アヌビス「まあ、一種の…な」
サヤ「どんな小説を書いてるの?」
アヌビス「鬼畜系小説」
サヤ「………………へっ?」
アヌビス「代表作としては、「ナハタの指切り」とか、「聖夜の首切りディナー」とかだ。
「ナハタの指切り」は中世ごろ、ある若い少女が父親と対立関係にある家の刺客に監禁されて、指を切り落とされるとかいう話だ。
「聖夜の首切りディナー」…は…」
サヤ「説明しなくていい!」
ナオヤ「ぞっとしねえ話だ」
レック「この町の人は、そんなものが好きなのか」
アヌビス「んなわけねえだろ。実際あの人は、結構な数の連中から嫌われて石ぶつけられたり敬遠されたりしてるよ。
俺だって、そんな小説のどこがいいのだかさっぱりわかんねえ」
レック「そりゃそうだよな、びっくりしたぜ」
アヌビス「だがな、ああいうのが好きな人には、あの人の小説は人生にとって何よりの宝物らしいぜ。
「ナハタの指切り」は外じゃ3億で取引されてるし
「聖夜の首切りディナー」に至っては20億っていう破格の値段がついてる」
サヤ「に、にじゅうおく!!?」
パギー「さ、サヤちゃん?」
サヤ「に、にじゅうおく…たかが小説に…にじゅうおく…」
ナオヤ「だめだ、完全に我を失っている」
レック「でも、たかが小説に…20億…」
ナオヤ「ただのアホだな」
アヌビス「金持ちの考えることは、よくわからん」
そう言いながらも、アヌビスはうれしそうだった。
アヌビス「まあ、こんな小説を堂々と書けるのは、いくら世間広しといえど、ここぐらいのものだからな。それにどうもあの人は、このスジでのトップらしい」
ナオヤ「そんな人が、数千人いるのか」
アヌビス「正確には、いた、だな。しかもこんな町だったら作品は半年に一つは仕上がる。早い年なら1年に4作。それが各数十億。それが何千人…
それの売り上げは全部町に回される。本人たちは作品を作るだけで満足しているから特に報酬は期待しない。
どうだ、この町の成り立ちが分かったかい」
ナオヤ「…ありえない…」
アヌビス「おっと、そろそろ到着だ。
俺の親分にして、この町の一番のお偉いさんのお屋敷にな」




