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世界で一番君が嫌い  作者: びゅー
4章 芸術
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4章-03 理想郷

レック「…うわ…」

パギー「…ひどい」

サヤ「…何これ…すごいスラムじゃない」

中に入っていちばん最初に目に映ったのは、寂れてあちこちにひびが入った家、外に干しっぱなしの洗濯物、そしていかにもみすぼらしい格好で歩く人々の姿だった。

アヌビス「…あっちが下流地区だ」

ナオヤ「ここが下流じゃないのか」

レック「…噂には聞いていたが、これほどとは思わなかった」

サヤ「…これじゃきっと…生活…苦しいんでしょうね…」

アヌビス「…甘い甘い。…ちっともそんなことはないんだよ」

サヤ「…へ?」

アヌビス「この町の一つ目の魅力を教えてやろうか。

…町の中央に位置する場所に、食料貯蔵庫というところがあって、食料はそこからもらえるのさ」

…。

……。

サヤ「…もらえる、って!?この町の人だけ!?」

アヌビス「いいや。お前らが貰ってもいいんだぜ」

ナオヤ「…んなバカな」

アヌビス「…丁度腹も減ってるだろ?行ってみるか。…こっちだ」

レック「…どう思う?」

ナオヤ「…騙してるようには見えないが…」

それにしても、おかしいだろ。

心の中で、そう思った。


食糧貯蔵庫

アヌビス「ここにどれだけ持ち出すかを書く。それで自由に食料がもらえる」

サヤ「…でも、そんなの、誰かが全部持ち出したりしたらどうするのさ」

アヌビス「…そんな奴はいない。

…なんでも自由に手に入るのに、なんでそれ以上欲しがるんだよ。

…それに、もしいても袋叩きにされる」

サヤ「…でも、町の人全部が自由に食料を持ち出すんでしょ?…あっという間になくなりそうなんだけど…」

アヌビス「見てみるか?」

ドアの向こうには、………。

それこそ地平線の果てまで続きそうなぐらいの広いスペースと、大量の食品が冷凍保存されていた。

サヤ「………」

ナオヤ「…」

レック「…こりゃ…すごいな」

アヌビス「どうだ?人一人が全部持ちきれるような量じゃ到底ねえだろ?」

サヤ「…一体どこから、こんなに集めてきたの?」

アヌビス「国で取れた食材は全部ここに運ばれる。…それもあるし、外の町から輸入したものもある。全部集まると、これぐらいになるんだ」

ナオヤ「…なら、遠慮なくいただくぞ」

アヌビス「ああ、遠慮せず食えるだけ食え」


…。

ナオヤ「ふー…食った食った。…こんだけ食ったのなんて生まれてはじめてかも知れねえ」

サヤ「…でもこれ、お代は…?」

アヌビス「…二つ目。…この町にはお金がない。…好きなものは好きなだけ貰えるのさ」

サヤ「………」

サヤが思考を停止させた。

レック「…んなばかな」

ナオヤ「…ありえないぞ、そんなの」

アヌビス「…ところが、ありえるんだなあ」

ナオヤ「…ど、どこから出て来るんだよ、そんなの。

気色悪いぞ」

アヌビス「…例えば、車。…この街には世界有数の車職人がいる。…そいつに頼めば車なんていくらでももらえるぞ」

ナオヤ「…んなあほな。…報酬は?」

アヌビス「ない」

ナオヤ「…んじゃその人は何のために車を作っているんだ」

アヌビス「車を作るのが好きだから、だ。

車さえ作れれば、あとは何でもいいんだそうだ」

ナオヤ「…んなばかな…無償奉仕なんて…ありえない」

アヌビス「…だろうな。…しかし実際は無償奉仕ってわけでもない。

車を貰った人たちの大半は感謝の印に自分達の作った者を差し出していく。

それは食料であったり、時には別の彫刻品であったり、様々だ。

…別にそうしないといけないわけでなくとも、礼儀でな」

ナオヤ「ギブアンドテイク…か」

アヌビス「日常品の大体はそんな感じだ。誰が頼んだってわけでもないのに、ボランティアでみんなが生産し市民一人一人に分け与えてる。その代わり生産者は称えられ、敬われる。そのためにみんな生産者になろうと努力する」

サヤ「………ほんとなの?」

アヌビス「ほんとだよ。どこの世界に自分達の故郷を嘘で汚す輩が居るというんだ」

いっぱいいるじゃないか…と思ったが、言わないでおく。

アヌビス「別に工業だけがボランティアってわけでもない。報道も、自治もみんなボランティアだ」

ナオヤ「…そんな…馬鹿な」

アヌビス「不思議なものでな、報酬なんかなくても市民のために報道活動を始めるものもいれば、自治を始める連中もいっぱい居る。人間そういうものなんだよ。

おまえらには分からないかもしれないがな」

…。

レック「………信じられない」

ナオヤ「これもまた、人間の姿、なのだろうか…」

アヌビス「ほら、これが掲示板だ。…ここに今日の出来事やら何やらをみんな好き勝手に書き込んでいく。…日記を書いてる奴もいれば、イベントレポートを勝手に書いてる奴もいる。…よし、俺も久しぶりに書いていくか」


アヌビス:久しぶりに帰ってきたぜてめーら!

元気にしてたかい?

数名の知り合いを連れてきた、丁重に扱ってやってくれ


アヌビス「ほら、お前らも自己紹介書いとけ」

サヤ「…え?ここに?」

アヌビス「ああ、ほとんどの連中は毎日ここをチェックしてる。中には数時間おきに見に来る奴すらいるんだ」

サヤ「…でも、自己紹介って…」

ナオヤ「…それが、この街のルールみたいなものかい」

アヌビス「ルール…じゃないな。仕来たりだ。決められてるわけじゃないんだが、大体の奴は守ってる」

ナオヤ「ふーん…じゃ、書くか」


最低:どうも

サヤ:はじめまして

パギー:押忍

レック:よろしくお願いします


アヌビス「…これだけかよ?…まいいか。行くぞ」


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