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世界で一番君が嫌い  作者: びゅー
プロローグ
9/116

序章⑨ - 交換条件

「………

………

………

……はあ?」

他人事だと思って話をあまり真剣に聞いていなかったため、いきなり自分の名前を出されて少々動揺する。

周りも相当動揺しているようだった。相当なんてもんじゃないか。

「えええええええええええええええええ!?」

「こいつがーーーーーーーー!?」

「こんなやつより適役いくらでもいるでしょ」

「こいつはまずい!どんな奴でもこいつよりかはましだ!」

サヤ「そうですよ!

信仰とかそういうのとかから一番遠いところにいる人間ですよ!」

「ていうかただのクズだし!」

「なんでおまえ生きてるんだよ!」

なんだか言われのない非難まで受ける羽目になってしまった。

でも、おれも同じだった。よりにもよって何でおれ。

ほかにいくらでもふさわしい人材がいるだろう。

「君が選ばれたんだよ。

八音の旋律、それを集めることができる存在は、世界中でただ一人ナオヤ君、君だけなんだ、理解したかい?」

優しくそう尋ねられ、

素直にはいと言うほどおれは人間ができていない。

「理解してない。

あと、名前で呼ぶな。最低にしろ」

サヤ「なんで命令形なのよ」

なんでおまえがツッコミをいれるんだ。

ナオヤ「命令してるからだ」

得体のしれない相手だが、

別に相手がだれであろうと関係はない。

おれは最低だ。

「第一俺は無償奉仕は嫌いだ。

世界が滅ぼうがそんなこと俺の知ったことじゃない。

帰ってくれ」

「なんてやつだ!」

「おまえみたいな人間がいるから世界が滅びるんだ!」

「おまえが滅びろ!」

「死ね!」

周りから、ブーイングが起こる。

いつものことなので、どうでもいい。

おれの性格ぐらい、みんな知ってるだろう。

「そもそもおれが集められるんなら他の奴でも集められるさ」

アヌビス「…いや、お前には十分すぎるぐらい才能があるぜ」

どこから湧いてきたのか分からないやつが発言をする。

「しゃしゃり出てくるな。関係ない奴は黙ってろ」

マイダス「神様が言っているのですよ」

ナオヤ「神様が言ってるか何様が言ってるか知らんが、納得いかん。

なぜそんなにおれを行かせたいのか納得のいく説明をしろ」

マイダス「…あなたが神に選ばれた者だからですよ。

それ以上の説明はありません」

粛々とそう告げる男。好かないタイプだ。

ナオヤ「そもそも世界が滅びるって本当なのか。

証拠がないものはおれは信じない」

マイダス「証明しろと言われても困りますがね…

さきほどの風や雷ではダメですか?」

ナオヤ「…だめだ。おれは信じない。

つーわけで信じてる人だれか集めてやってくれ。お願いします」

「おまえのわがままなんか聞いている場合か!人類の未来がかかっているんだぞ!」

ナオヤ「…だったら人に頼っていないでおまえが何とかしたらどうなんだ」

客席のほうを向いて言う。ああめんどくさい。

「神様は、八音の旋律を集めることのできる可能性のある人間は、君だけだ、

と告げている。

だから君を選んだ。それだけのことだ」

話がループしている。こういうときは核心だけを突くのが重要だ。

「…なにが可能性だ。何が神様だ。

必死な理由付けにしか見えないね。

そうまでして、なぜおれを呼びたがる?」

「その理由は君がよく心得ているんじゃないかな

・・

最低くん」

「俺なんかよりもっと適役がいくらでもいるだろ。

その神様に伝えてくれ。あんたの見込み違いです、ってな」

「最低、行ってくれ、頼む!世界が滅びてしまっては困るんだ」

「とっとと行け!だいたいお前ごときに選択する権利はない!」

「早く行け!おまえなんかどうせ死んでもいいから早く行け!というか死ね!」

あたりから色んな声が飛んでくる。

めちゃくちゃ言いやがる。

中には楽しんでるだけの奴もいるぞ、これ。

「頼まれても嫌だ。そんなに世界が滅びるのが怖いならあんたらが行け」

サヤ「…最低、諦めて行ったらどう?」

「うるさいサヤ、おまえは黙ってろ」

「…そうだろうね。きみはそう簡単に折れる人間じゃない。そんなことは分かっている。

…しかし、断言しよう。君は折れるね」

「そんな心理作戦はおれには通用しない」

しかし。おれは内心焦っていた。

向こうはすでにおれの名前を知っていた。

…それは、気持ち悪い。

最低と呼ばれていることなら知っていても不思議ではない。

自分で言うのもなんだが、おれは、それぐらいの有名人だからだ。

だが、ナオヤという名前は、あまり使っていない。

むしろそっちを知られたくないからこそ、最低という名で生きている。

どこから知った?

気持ち悪い。

どんな手を使ってくるか分かったものではない。

「スペシャルゲストの登場だ」

「…な」

おれは絶句した。

教会の入り口から、一人の女性が歩いてきた。

白い服、白いロングスカート。

その人の顔を、おれは知っていた。

知りすぎていた。

「…」

言葉が出なかった。  ・・・

「亡くなられた、きみの本当のお母さんだ」


「…」

目の前の女性は、思い出の中の母さんとそっくりそのまま一致した。

整形

化粧

変装

ちがうちがうちがう

そんなものじゃない

頭ではなく、本能で感じていた。

この人は絶対におれの母さんだ。

俺を産んでくれて、その後おれが5歳のときに姿を消した…。

「…」

おれは駆け出していた。

が、腕を、先ほどプロキアスと名乗った男に掴まれる。

「何しやがる!!」

「見たまえ」

「…?」

母さんを見て、気付いた。

母さんは、どこも見ていなかった。

いや、なんというか…生気が、なかった。

「…彼女は生きていない。正確に言えば現状は生きるしかばねの状態だ」

「…」                      ・・・

「だが、君が八音の旋律を集めた暁には、きみの母親を元通りに戻してやろう。

つまり、この世に蘇らせてやろう」

「…できるのか、そんなこと」

「ああ。約束しよう。わたしを信用しろ」

「…」

「世の中ギブアンドテイク。これはきみの好きな言葉のはずだ」

「…なんだと…」

なんでそんなことを知っているんだよ。

ああ、おれはその言葉が大好きだ。

「もう一つ君にギブを与えよう。

こちらは現実的なものだ。

君の会社に、君が長期休暇を取る権利を与えよう」

ギブを与えようとは日本語がおかしいが、そこまで突っ込むだけの余裕は俺にはなかった。

「長期、休暇?」

「名目上は1か月間の世界旅行だ。

その間に八音の旋律を集めてくればいいだけのことだ。

もう、きみの会社の方にも了承は得ている」

根回しが速かった。

「…」

いつの間に、そんなことをしたのか。

そこまで決まっているとは。

どうやら、おれに拒否権はないらしい。

「……わかった」

ついに、おれは折れてしまった。

「やったああああああ!!」

「がんばれよ最低!!おまえなら引き受けてくれると信じてた!!」

「とっとと集めて来いこのカス!!」

歓声が上がる。

「…ただ…だ、おい、おまえら!」

マイダスとかいうのとは反対を向いて、おれは宣言した。

「…な、何だ」

「…もし、集めるのに失敗したって、そんなのおれの知ったことじゃねえぞ。

責任はおれを選んだおまえらにもあるからな」

第一声は責任転嫁だ。これは基本だろう。

ふざけるな!というヤジが飛んできたが、無視する。

「では…私たちはこれで失礼する」

二人の男はそう言うと出て行った。

「…了解した。できるだけ早くに集めてくる」


と、出て行こうとした、まさにその時だった。

「…わかった、俺もその話乗った」

「…はあ?」

「俺も八音の旋律を集める手伝いをさせてもらうよ。

世界が滅びてもらっては俺も困るしな」

あの盗賊が、そう言ってきた。

「…お前の手伝いなんかいらん。

第一今出会ったばっかりの相手を信用できるか」

「…そう言うなよ。ほら、金だ。長い旅になりそうだし、金が無いと困るだろ?」

「金ぐらい、少しだが俺だって持っている」

一応、働いてるわけだし。

が、その盗賊は、大量の現金を見せた。

「わっ!すごいお金!」

「…金だけもらう」

「そこは交換条件だ!金を使わせてやる代わりに俺を連れて行ってくれ。どうだい、悪い選択じゃないだろ?」

「…はっきりいって、お前についてこられても迷惑なんだが」

「いいや!もう俺は行くと決めた!第一お前一人じゃ無理だろ、一人より二人だ。

俺もせっかく居合わせたんだ、行ってやるよ」

何だそれは。どんな狙いがあるのか。

「…。(言っても聞かないな…)で、みんなはどうするんだ」

この場に居合わせたものに対して、反応を聞いてみることにする。

「わ、私は仕事があるので、ここで失礼させてもらう」

「…私はここで最低の無事を祈っているよ」

「…何も力になることは出来ませんが…せめて最低が無事に帰ってくるように精一杯祈りをささげようと思います」

祈るばっかりだった。

あきれて言葉も出ない。

無責任なセリフが次々に返ってくる。

「…はあ、結局なーんもなしですか」

「…少ないが、旅の足しにしてくれ」

一人がお金を差し出してくれた。

ナオヤ「別にいいよ、そんなの」

言うだけ言っておいてなんだが、そんな…旅やら使命やらで金をもらうのは

なんとも嫌な気がした。

幸い、金のアテはある。


とかやっていたら、一方、祭壇の前では、またしても言い争いが始まっていた。

「…とにかくですね、まずは神父さん!ここにある八音の旋律を出したらどうなんです?

今度は、世界の命運がかかっているんですよ」

「だ、か、ら、ないといっとるだろうが!!」

「…ない?本当にないのか?」

「なんでそんなことでしつこくしつこく嘘をつき通さなきゃならんのだ!」

「…おかしいな…確かにここにあると聞いたのに…騙されたか」

盗賊は悔しそうに舌打ちをした。

ナオヤ「…で、どこに行けばその八音の旋律とやらがあるんだ?

俺はそんなの、一つだってどこにあるか知らねえぞ」

そう言って周りを見渡す。

「…俺しらね」

「…俺もしらね」

「私も…知らないです。お力になれなくて申し訳ありません」

「聖職者である私は、外部のことに疎いのです」

「…俺も残念ながら、一つたりとて知らねえな」

盗賊「おれは、ここにあるって言われてた一つの情報以外は全く知らない」

ナオヤ「誰も知らねえのかよ!?つっかえねえ奴らだな…。

どうしろってんだよ!?」

もう手詰まりだ。例の二人組のほうを見る。

「私はあくまで言葉を伝えに来ただけの者。

私が世界救済の手助けをすることはできません」

イライラする言い回しで拒否される。

サヤ「…。

私の知り合いに、八音の旋律の一つを持ってる子がいるよ」

ナオヤ「…マジ?」

サヤ「…うん。ノルンって言って、城下町キャットフードに住んでる」

ナオヤ「そうか。なら話は早い。案内してくれ」

サヤ「…マジ?」

サヤはめんどくさそうな目をした。

ナオヤ「大マジ。金はやる」

サヤ「用意してくる」

ほんとに、なんて女だろう。

金のにおいをちらつかせたら、反応が分かりやすく180度変わったぞ。

別に金に釣られても仕方ないと思うが、もうちょっと遠まわしに表現しろ。

「おい最低、お前も義理の母親に伝えてきたらどうだ」

町衆の一人が、そう言ってきた。

「…いいよ、別に」

「…命令する、行け」      

「どうせ向こうも俺みたいなのいようがいまいが知ったこっちゃないんだって」

「いいから行け」

「…わかったよ…そうだ、最後にくれぐれも言っておくが、

俺は最低だ。

世界を救おうなんて真似はこれっぽっちもない。

そういうところから一番遠い人間だ。あんまり期待するなよ」

「まだ言うか」

「…事実を言ってるだけだよ」

そこまで言って、ある意味神がなぜおれを選んだのかの理由が少しながら分かった気がした。

ようするに一番そういうところから遠い人間だからかもしれない。

人類の繁栄だの世界平和だの、正義だの愛だの生命だの。

そんなのを一番信用していない、おれだからこその指名だったのかもしれない。

そして、こころの中でつぶやいた。

(わかりました。最低らしく、

やりたいようにやらせていただきます)

アヌビス「これからは一緒に旅をする仲間だ!よろしくな」

「…よろしくな。

まぁ、お荷物にならないように、がんばれよ」

「そう言うなよ!お前ら二人だけじゃ八音の旋律を集めるなんてどうせ無理だって。

仲間は多ければ多いほどいい。

ちょっと考えたら分かるだろ?」

「…役立たずは少なければ少ないほどいい。

ちょっと考えたらわかると思うけど…」

アヌビス「なんだとてめぇ…」

「ほら、そんな程度ですぐ切れるから役立たずなんだって」

適当に煽ってみる。

簡単に頭に血が上ることからこいつの程度が分かる気がした。

こいつがいたところでプラスになりそうに思えない。

正直不安だった。

アヌビス「……」

ナオヤ「喧嘩してる場合かよ」

アヌビス「そ、そうだな。

ま、あんま嫌そうな顔すんなって!

これから一緒に戦う仲間だからな!よろしく!」

{そして八音の旋律を集め終わったところで、俺がこっそり掠め取る。

そうすれば苦労せずに集めることができるという戦法だ!

他の連中には悪いが、俺は神様なんてもんは絶対に信じないし、

世界が滅びようが知ったこっちゃないね}

そう、二人は割と似た者同士だったらしい。

この時のおれは気づいていなかったのだが。


…こうして、何故かおれは旅立つことになってしまった。


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