3章-20 正義④ 世界が何と言おうが
パギー「正義、って自分が正しいと思ったことなのかな」
ナオヤ「そうだよ。
それがおまえにとっての正義だ」
パギー「正義になるためには悪になる必要があるんだよね」
ナオヤ「そうだ」
めんどくさいが、まじめに考えてるみたいなので付き合ってやる。
パギー「わたしは悪になれるかな」
ナオヤ「無理だな」
パギー「…」
そんな、はっきりと言わなくても。
ナオヤ「いいじゃないか。
みんながみんな正義じゃなくても」
パギー「わたしは正義になりたい!
大切な人を護りたい!友達を救いたい!」
ナオヤ「だったら覚悟しろ。
相手の正義を握りつぶす覚悟だ。
それは時に人を殺すことになるかもしれない。
その覚悟がおまえにあるのか?」
パギー「…」
ナオヤ「誰かを救うため、ほかの誰かを殺さないといけない時だってあるんだぞ」
サヤ「まだ考えてたの?
正義なんて、どうでもいいじゃない」
パギー「どうでもいいことないよ」
サヤ「金こそ正義。権力こそ正義。勝った方こそ正義。
わたしはそう思うわ」
この町にきて、よーーーーーーーく分かった。
ナオヤ「おまえらしいな」
レック「そんな自分勝手なことでいいのか?」
ナオヤ「いいんじゃないかな。
人間なんてみんな自分勝手なもんだよ。
そして、自分なりに自分の正しいと思うことを主張している」
レック「それはそうだが、
個人が個人でそれぞれの正義なんかを主張しだしたら
社会なんてものは成り立たないんじゃないか」
ナオヤ「おれはそうは思わない。
個人が個人の正義すら主張できないようなら、
それはもう社会とは呼べない、おれはそう思う」
パギー「…もう、わかんないよ」
頭を抱えているパギー。
ナオヤ「うーん。
端的に言えば、見方が違うんじゃないかな、おれとおまえで」
パギー「どう違うの?」
ナオヤ「おれにとって、個人の主張はぜんぶ正義だ。そいつ自身の。
それがたとえ犯罪的なものであろうと、
そいつの中では正義だ」
それこそ、殺人だろうと理由はあるだろうし、
無差別殺人だろうと、そんな人間になってしまっただけの理由はある。
強盗にだって理由はある。
もっともそいつらの主張する『正義』が認められることはないだろうが。
認められなかろうが、あるのだからそれは仕方ない。
パギー「…うん」
ナオヤ「おまえにとっての正義ってのも
サヤが言ってる正義ってのも、いわゆる社会正義って奴だ。
その点で、おれが言ってるのと、まったく別の話だ」
殺人に理由があれば、殺される人間にだって殺されたくないだけの理由がある。
ふつう社会正義は後者を救うだろう。
パギー「うん」
ナオヤ「でも、これだって。結局は個人の正義の寄せ集めに過ぎない。
おれはそう思うんだ。べつに間違ってるとまでは言わないけど」
パギー「それじゃ…どういうこと?」
ナオヤ「おれはこの世に悪なんてもの、存在しないと思う。
それは、正義が勝手につけたレッテルだと思う」
アヌビス「おまえがそんなこと言うんだな」
ナオヤ「おれが言ったら問題なのか」
アヌビス「いや、最低だし」
ナオヤ「最低が言おうが偉い政治家が言おうが学者さんが言おうが
言葉の本質は変わらない。誰が言おうと関係ない」
アヌビス「いや、おまえ、悪をこれまでいくらでも見てきただろ」
例えば最初の旅立ちの時。よってかかってサヤに暴言はいた連中。
ナオヤ「あれもあいつらにとっては正義だ。
アヌビスくん、おれの言ってる正義ってのはそういうことだよ」
レック「おまえは悪人じゃないのか」
ナオヤ「そんなものは、見方によって変わる。
誰かにとっておれは極悪人だろうし、誰かにとってはヒーローかもしれないな」
サヤ「ナオヤは勝った方こそ正義じゃないって言うの?」
サヤも適当に割って入る。
ナオヤ「ああ、それは違うな。
社会正義なら、それこそ勝った方が正義だろうけど…。
おれが言いたいのは、負けた方にだって正義ぐらいあるだろう。って話」
サヤ「…誰にだってその人の正義がある。
なら、わたしにも?」
ナオヤ「あたりまえだろ。おまえだけじゃない。
どんな犯罪者にだって
どんな最低な人間にだって、正義はある。
おれはそう思うんだ」
それが認められるか認められないかは別にして。
パギー「正義…」
ナオヤ「ああもう、正義正義うっとうしいなぁ。
どうでもいいじゃん、誰が正しかろうが誰が間違ってようが。
そんなもの、どうせみんな好き勝手言ってるだけなんだから」
アヌビス「おまえが言い出したんじゃないか!」
ナオヤ「誰が間違いと言おうが正しいものは正しいの」
パギー「…それじゃ、何が何だかわからないよ」
ナオヤ「めんどくさいなぁ。
おれが間違いと言おうが、世界中全員が間違いと言おうが、おまえはおまえで正しい。
それでいいんだよ」




