3章-18 大団円
チャンピオンにケンカを売った挑戦者のことはニュースになった。
ナオヤは傷の手当てを受け、意識が戻ったのは1時間後ぐらいだった。
パギー「…ナオヤぁ…」
ボロボロになりながらも戦い抜いたその様子に、パギーは涙を流す。
ナオヤ「わかったか。傷つこうが痛かろうが正しいことは正しいんだ」
サヤ「もう。下手したら死んでたかもしれないのよ」
ナオヤ「この程度で死なないよ」
と。
「ナオヤさん、さっきのでファンになりました、もらって下さい!」
たくさんの人から、花束やファイトマネーの寄付があった。
さらに…
ディアスが控室に来た。
ディアス「やい!!!!!!!!
最低!!!!!!!」
ナオヤ「うるせぇな…
何の用だ」
ディアス「いい勝負だった!!!!
礼を言いに来た!!!」
わたしは、きょとんとしてしまった。
正直、そんな人間には見えなかったからだ。
ナオヤ「礼か…
なら、二つ、頼みがある」
ナオヤ「一つ。
鳳凰のドラムを俺たちに譲ってくれ。
もう一つ。
ベトロシナミン…だったっけ?の管理が不十分だったという事実を
国営工場に認めさせてくれ」
ディアス「お安い御用だ!!」
サヤ「いいの!?」
ディアス「そんなことは俺にとってはそもそもどうでもいい問題だ!
おれは自分のすべてを出して戦えた、その事実だけで充分だ!!」
すがすがしかったが、それは一国のトップとしてどうなのだろう、とも思う。
サヤ(所詮は脳筋か…)
口には出さなかったが、そう思った。
そこに、エゼルさんもやってきた。
エゼル「最低、くん、聞いたよ」
ナオヤ「ファイトマネーもらったんだ。
少ないかもしれないけど、これ、好きなように使ってくれ」
エゼル「え、し、しかし」
ナオヤ「いいんだ、受け取ってくれ。これはおれの、単なる自己満足だから気にするな」
『謝っても仕方ないかな、って気持ちにさせるの、わかる?』
『口だけはどっちなんだよ』
パギー「最低…」
それを証明するために。
そのために、戦ったの?
ナオヤ「おれにだって意地がある。
言った以上実行しないといけない責任がある」
パギー「わからない、わからないよ」
正義正義を謳っていた連中は自らのプライドと政治的信念のために何もできず。
正義なんて大嫌いな最低がボロボロになり果てながらもその正義を実現させて。
ナオヤ「おまえほんとアホだな」
パギー「…うん」
ナオヤ「口でなんか、なんとでもいえるんだよ。
別にそいつが正義を謳っていようが正義が嫌いと公言していようが何の関係もない。
大事なのは、何をしたか、だ。
そうだろ?」
パギー「…」
ナオヤ「おれは、被害者が少しでも救われれば、ほかはなんでもいいんだよ」
もちろん、その正義のために、工場の連中の正義は踏みにじられることになるが、
そんなもの関係ない。おれは最低だから。
他人の正義を助けるだなんて最低らしからぬ行為かもしれないが、
たまには、ヒーロー気取り(そういうの)も悪くない。
もっとも、それで賞賛されるのは、おれにとって唯一望ましくない出来事だが。
パギー「最低…」
ナオヤ「勇者しか正義になれないのか?違うね。
普通の人だって、
どんな最低な人間だってなれる。そうであってこその正義だろ?」
サヤ「偽善なんて嫌いじゃなかったの?」
ナオヤ「おれは一言も嫌いなんて言った覚えはないぞ」
アヌビス「最低…」
ナオヤ「どうした、義賊さん」
アヌビス「どうすればいい。
本当の義賊になるには、どうしたらいいんだよ!教えてくれ」
ナオヤ「誰かにとっての正義は、誰かにとっての悪だ。
つまりそういうことだよ、義賊さん」
アヌビス「…」
ナオヤ「分かってんだろ?
本当に正義になろうと思うなら、悪にならないといけないんだよ」
パギー「…」
だから、盗賊になったんだろ?
具体的な悪に。
そうでもしないと実現できない正義があったから。
アヌビス「おれは…
そうだよ。正義のヒーローになりたかったんだよ」
ナオヤ「そうか。
…なれてるよ、もう」
誰にとってのヒーローなのかまでは知らないけど。
アヌビス「じゃあ、おまえは……?」
ナオヤ「おれは最低だ。
しかも望んでなったわけじゃない。
そう名付けられた存在だ。正義とかそんなもの関係ない」
やりたいようにやる。
ただそれだけだ。
アヌビス「…最低」
ナオヤ「なんだ」
アヌビス「ありがとう。
あと、ケガ、大丈夫だったのか?」
ナオヤ「痛いのは慣れてるから、特に問題ない」
サヤ「…アヌビス…」
アヌビス「何だ?」
サヤ「…ちょっと、意外」
アヌビス「…何がだよ」
サヤ「…アヌビスが、そんなに最低のことを真剣に心配しているなんて…」
アヌビス「…俺は確かにドロボウでヘタレで何のとりえもない人間だよ。
…だけどなあ、やるべきことだけはやるつもりなんだ」
サヤ「…」
アヌビス「…最低に会って、いろんなこと言われて、
色々考えさせられた。
…でも、俺が分かったのは一つだけだ。
…口だけじゃダメだ。行動しなきゃダメだ。
…失敗したって、行動しなきゃダメだ。
…それだけだ」
サヤ「…」
…そう、俺は変わっていた。
初めは、横取りを狙っていた。
…でも、いつの間にか、八音の旋律など、どうでもよくなっていた。
何かしている、その事実だけで十分だったのだ。




