3章-15 勝敗
そこからは、滅多打ちだった。
「いやぁ!」
パギーの悲鳴があがる。
「もう見てられないよ…」
こめかみからは血が流れ、歯は何本か折れ、
身体は衝撃で震え、立っているのでやっと。
でも、最低は、その眼だけはしっかり相手を見据えていた。
「どうした?動き止まったけど、これで終わり?」
ナオヤはつぶやく。
「おまえ、いい加減にしとかないと、死ぬぞ?」
「死なないよ、この程度で」
「しかし、最低だかなんだか知らないがおまえも悲しい男だな!
どうせ、頭もよくなけりゃ顔も醜いし、モテるわけでもない童貞だろ!
それに金も持ってねえし、人生、全てにおいて負け組だろ!
なんで生きてるんだよこのゴミ野郎!てめえみたいなのが俺様と戦うこと自体がナンセンスなんだよ!
へこへこと俺様の下で頭を下げて財産や食料を分けてもらいながら生きていけばいいんだよ!」
そう口で罵りながらディアスはひたすら最低を殴り続ける。
最低はボッコボコにされて、リングの端に体を預ける。
パギー(ひどい!)
「おら!
早くてめえもおれの配下に成り下がれ!そうしたら…」
「断る」
ボロボロになりながらも、最低はケリをディアスに入れた。
この状態で蹴りがこのスピードで出せるなんていうのは想定外だ。油断していたディアスに直撃する。
ディアスは後ろに倒れる。
会場がざわつく。
「あ、あのチャンピオンに、一撃、与えたぞ!!」
「信じられない!」
{ナオヤ…}
そこでいっきに最低が間合いを詰める。
「おまえはおれのことを、人生、負け組、そう言ったな」
「お前の言う通りだ。確かにおれは女に愛されたこともないし
頭も悪いし金もなければ友達もいない」
そう言いながら、ナオヤは二発、三発とディアスに拳をぶつける。
「でもな、おれは自分の人生が誰かの人生に負けてるなんて、
生まれてこの方一度も思ったことねえよ!」
ナオヤの渾身の蹴りが、ディアスに炸裂する。
ディアスは吹き飛び、大きく後ろに倒れこむ。
観客たちは、その場に繰り広げられている光景を見て、ただ、唖然としていた。
気が付けば一人が『最低』と声をあげ、二人三人、
次第には会場中から『最低』の大合唱が響き渡った。
『最低!
最低!
最低!』
「頑張れ最低!!
負けるな最低!!絶対に負けるな!!」
パギー{す、すごい…}
こんな応援、初めてだった。
…だが。
ディアス「面白いじゃねえか!」
ディアスの反撃。
最低は後ろに吹き飛ぶ。
会場から悲鳴が上がる。
ディアス「おれはずっと待っていた。
おれが戦うに値する相手の存在を!
でも、この町でも、どいつもこいつもザコ!ザコ!ザコばかりだった!」
「しかしおまえは違う!
おまえこそが、おれが戦うべき相手だったんだ!!」
ディアスは水を得た魚のように歓喜の声をあげつつ、自らのボルテージをさらにあげていった。




