3章-08 偽善
俺たちは、外で被害者の一人に出会った。
「お前たちも追い出されたのか?」
ナオヤ「そうだが、あんたはどうしたんだ?」
「おれも追い出されたんだよ、この組織から」
パギー「なんで?同じ被害者なのに」
「いや、まぁ、この会の金を使い込んだから」
アヌビス「でも、自分たちの意に沿わない被害者は追い出すのかよ」
サヤ「そりゃそんなものよ、こんな団体」
「自分たちのための金じゃないのか、とは主張したんだがな。
あくまでほかの人を救うための金だ、お前ひとりの金じゃない、だとよ」
パギー「…結局、みんな、自分のためにしか動いてないってことだよね」
ナオヤ「…当たり前だろ。
…いくら正義だの同情だのなんだのって言ったって、
自分の得にならねえことなんて誰もしねえよ」
サヤ「そりゃそうだよね。
みんな、金のためにやってるんだもの」
ナオヤ「金だけとは限らねえけどな。
自己満足。
結局のところそれだと思う」
そうだ。正義だって、人助けだって。
そんなこと、知ってたはずだった。
あの勇者さんだってもちろん無償奉仕ではない。
正義の心もないとは言わない。あるのだろうが。
サヤ「…偽善」
わたしの一番嫌いな言葉だ。
パギー「…偽善だって…それが結果的にいいことになるなら、いい…と思う」
アヌビス「おれもそう思う」
ずいぶんいい子たちだ、私はそう思った。
サヤ「確かにそうだけど…、私としては、何ていったらいいかわかんないけど、
賛成できないところがある。
なんかそういうの嫌いなの。胡散臭いっていうか…」
アヌビス「そりゃ、サヤちゃんにはそう見えるかもしれないけど」
サヤ「…ね、最低、最低はどう思う?」
ナオヤ「…そうだな。
おれがどうってより、
おれが師匠と仰いでる、この世で唯一尊敬しているおっさんが
こんなこと言ってた」
パギー「なんて」
ナオヤ「『偽善がなかったら戦争なんて起きないよ』」
パギー「…」
ナオヤ「どういう意味だかおれには分からない。
おれ、戦争にはあんまり詳しくないから。
・・・・・・・・
ただ、そういうことかなってのは、わかる」
サヤ「戦争?」
なんかずれてないか。そう思った。
ナオヤ「ああ。テレビで映し出される戦争の光景を見ながら、
そのおっさんと語ってたのさ」
サヤ「変なの」
ナオヤ「おっさんは酒飲んでたから、
そんな真剣に言ったつもりじゃなかったのかもな。
でも、俺の中で、ずいぶん印象に残ってるな」




