3章-07 同情
結局、追い出された。
当たり前だと思う。
サヤ「もう、何偉そうに言ってるのよ」
ナオヤ「おまえらはなんとも思わなかったのか。
あの被害者を見て。
そして、あの被害者に寄り添って自分たちの正義を語る
偽善づらした連中を見て」
サヤ「そりゃ、腹は立ったけど」
パギー「わたしは、
わたしは、
最低の言ってることの方が正しいと思う」
ナオヤ「正しいかどうかじゃないんだ。
おれが言いたいのはそれで面白いかどうかなんだ。
そうでないと人は動かない。
おれはそう思う」
パギー「…」
ナオヤ「おまえだって、
『おもしろそうだから』おれに着いてきたんだろ?」
パギー「…うん。
ねえ、最低、
最低は本気で人を救いたいと思ってるんだよね?」
ナオヤ「おれがそんなことを思う人間に見えるか」
パギー「見える。
だって、最低は、自分がバカにされてもそれで何かが変わるなら
いいって考えてるってことでしょ?」
ナオヤ「あのな、パギー。
おれはあのエゼルさんに心底同情したんだ。
あれだけの被害をうけてなお、政治的信念のためだけに利用されている、
あのエぜルさん含む被害者さんたちに。
何かを変えようなんて気持ちはこれっぽっちもない」
パギー「でも」
ナオヤ「あんなこと言ったぐらいであいつらが曲がるとでも思うか。
本気で救うんだったら、あいつらについて行って、
もっとギリギリのところでやらないといけない」
パギー「それは…」
ナオヤ「そこまでおれにはできないし、
やる義理もない。
他人だから」
冷たいと思う。でも本当のことだ。
他人を救うだなんてそんな綺麗ごとを言っていられるほどおれに余裕があるわけでもない。
サヤ「じゃあ、なんであんなこと言ったのさ」
ナオヤ「何も変わらなくたって、言っておかないといけないことはある。
ましておれは最低だ。おれが言わないで他に誰が言う」
パギー「…それで、嫌われることになっても?」
ナオヤ「すでに嫌われてるおれにとってそんなことどうでもいい。
言いたいことさえ言えりゃ、それでいいんだよ、おれは」
そう、あくまでも、おれは。
最低だから。
いつの間にか、最低になってしまったから。
そうするべきなのだろうし、そうしないといけないのだろう。
めんどくさいことだが。
パギー「なんで、そんなにまっすぐなの」
ナオヤ「おれは自分勝手なんだよ」
パギー「そうかな」
ナオヤ「パギー、おれをえらい人間か何かと勘違いしているみたいだから言っておくぞ。
おれは最低だ」
最低は、ちょっと目つきを変えて言った。
ナオヤ「おれはバカで気持ち悪くてクズで
その他すべての蔑称があてはまる」
だから。
ナオヤ「おれみたいな人間にはなるな。
絶対にだ。これだけは約束してくれ」
パギー「…どうして?
どうして、そんなこと言うの?」
ナオヤ「おれみたいな人間がこの世界にもう一人でもいるとしたら…
そんなこと、考えただけでも吐き気がする」
最低は、こっちを見ずに、そう言った。
パギー(じゃあ、なんで、最低なんて名乗ってるの?)
そのあたりは、きっと、
一言で片づけられないような、何かがあるのだろう。




