2章-21 裏の話
ナオヤ「…はあ。…今回は取り乱しすぎた、悪い」
サヤ「…ううん、気にしてないけど…」
パギー「…これで、よかったのかな」
パギーがそっと呟いた。
ナオヤ「知らないほうがよかったと思うか?
確か恐怖を省みずに真実を突き止めろって言ってたよな」
パギー「…ううん、知ってよかったんだと、思う」
ナオヤ「…そうか。おれもそう思う。
…あと」
パギー「…?」
ナオヤ「…人質にとって、…その…ごめんな」
パギー「…ううん、気にしてない。
でも」
ナオヤ「どうした?」
パギー「なんで、人質にとったの?」
ナオヤ「それは」
パギー「パパが自殺するかもしれない、
って、わかってたの?」
ナオヤ「そういうことになるな」
そんなのは、この際どうでもいいことだ。
適当にごまかす。
パギー「もう一つ」
パギー「最低はパパのこと最初から知ってたんだよね」
ナオヤ「…」
パギー「今の今まで、忘れていた、なんて書いてたけど、嘘だよね」
ナオヤ「…まさかとは思うけど、おまえ」
パギー「キャットフードの焔日のこと、ノルンから聞いた」
ナオヤ「やっぱり。
それでおれをわざわざあの研究室へ招き入れたんだな?」
パギー「うん」
ナオヤ「…。じゃ今度はこっちから質問だ。
おまえ、どれだけ知ってたんだ、今回のこと」
パギー「……ほとんど、知ってた。
ごめんなさい。
お父さんが森に籠もった理由知らなかった、って言ったの、あれも嘘」
ナオヤ「じゃあおまえは、
端的に言えば、
俺たちをダシにして、
父親の件を内部告発したわけか」
パギー「……うん。
本当は、死ぬつもりだった。
最低に殺されても、よかった」
パパのしたことで、不幸になった人がいて。
その存在を、ありありと見せつけられて、
罪の意識に、耐えられなくなって。
ナオヤ「おまえも親子そろっておなじことを言われたいのか」
パギー「ごめんなさい。
でも、最低はわかってたんだよね?
わたしが死ぬつもりだって。
…だから、人質にとって逃げないようにした」
ナオヤ「…まぁ、
おまえあのとき、わざわざ一番近くに行ってたもんなぁ」
自分が殺されるつもりで。
道連れにするつもりで。
パギー「わたし、わたし」
ナオヤ「ケセラさんに感謝しろよ」
『死んだら何やっても許されるとか思って甘ったれてんじゃねえぞ』
なんでパパは、わざわざ最低が帰ってくるまで、自殺を思いとどまっていたのか。
あの言葉は、誰に向かって発せられたものだったのか。
ケセラ(あのときお嬢様を護れたのは、
あの黒服がスキを見せたから、
そして、そのスキを作ったのは…
最低さん…)
爆発させるぞ
手話でそう述べた最低。
それが本気だったのかどうかは分からない。
おそらく違うだろう。
(あの方は、パギーが大学へ行こうと言い出した時から、
全てを悟っていたのでは…
いや、あるいは、もっと前?)
『フルートは渡すわけにはいきません』
(ルーギー様があの場でフルートを渡さなかったのは、
後に、二人で最低さんと話をするため)
そして、そこでどんな話をした?
(ルーギー様は、きっと最低さんがこの館に来ると決まった時から、感づいていた。
彼がキャットフードの焔日の生き残りであることを)
そして、二人きりになって、打ち明けた。
(その時、お嬢様が自分を告発しようとしていることも、
そして、その結果、お嬢様が自分が死ぬことになっても構わないと考えていることも
感づいていた…としたら)
(フルートと引き換えに娘を助けてくれ…?だとして、
最低さんは、自分の母親を死に追いやった相手の娘を?)
(わからない)
結局のところ、本当のところは最低さんとルーギー様しか知らないのだろう。




