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世界で一番君が嫌い  作者: びゅー
2章 学問
61/116

2章-18 科学と逆説

どれぐらい時間が流れただろう。

アヌビス「おい、最低」

ナオヤ「うっせえ!取り込み中だ、後にしろ!」

パギー「最低、これ…」

アヌビス「…どうやら、すごいもの見つけちまったみてえだ」

パロール「…!?しっ、しまった、この少年に気を取られている隙に!」

ナオヤ「…階段!?」

アヌビス「なんだかこの本棚だけ妙に動かした後があるから変だなと思って調べてみたら案の定これだ。…中に、隠し通路があるみたいだぜ」

パロール「そこへ入るな!」

パギー「…だまれ」

パロール「…げふっ!」

ケセラ「ぱ、パギー様!」

アヌビス「行くぞ!」


…真実を知りたいか?

それが、おまえにとって喜ばしいこととは限らないぞ?

自分で自分にそう問いかける。

そして、答えも決まっている。

…当たり前だ。


どこまでもどこまでも降り続けた。

一体何段あるのだろう、そう思っているうちに下にたどり着いた。

そこにドアがあった。それ以外は特に怪しい物はなかった。

ドアをこじ開けて、中に入る。

あちこちホコリまみれであまりいい気分ではなかった。

…そして、袋が積まれていた。

アヌビス「…なんだ、こりゃ」

ケセラ「触ってはいけません!」

ケセラのその悲鳴にアヌビスは思わず手を止める。

サヤ「見て!」

サヤの手にした本には、「研究レポート」と書かれていた。


パギーがそれを手に取り、読み始める。

報告書 新種のエネルギー物質アデナキシス

我々は原子力以上のエネルギーを生み出す方法をついに開発した。

それこそがアデナキシスによる、拡散反応である。

この物質の長所は、放射能を用いずに、原子力以上のエネルギーを発生させることの出来る点である。

反面、短所としては、取り扱いは大変危険であるし、とてつもなく広いスペースが要求される点である。


反応の概論を記す。

アデキナシスは空気中の酸素と結合し爆発する。

その後爆発した後に4つに分裂する。

…しかし、この4つに分裂したアデナキシスのうち

2つは一酸化アデナキシス、残り二つは縮小されたアデナキシスであり

アデナキシスの方は、再度酸素と結合し連鎖的に爆発する。

これが1秒間に何百万回と繰り返され、酸素さえあればほぼ無限のエネルギーを生産できる。

(中略)

広大な敷地内において、アデナキシスを用いることにより発生するエネルギーはまさに無限、アデナキシスはまさに人類史上最高のエネルギー物質となる可能性を秘めている


ルーギー=リンスター


パギー「…パパ」

アヌビス「…その、アデナキシスってのが、これか」

ケセラ「…ルーギー様は、そのとき、我々の研究室の教授でした」

ケセラさんは、語りだした。

ケセラ「我々の研究室内で、ローレンツさんとルーギー教授は、アデナキシスの研究をし、そしてついにアデナキシスを制御できるようになったのです。それで教授はこの研究を公にしようとされたのです」


ルーギー「これは歴史に残る大きな一歩となるだろう。

アデナキシスをエネルギー資源として用いることにより、各分野の技術はさらに急速に発展をとげるだろう。自動車、発電…いずれは、ロケットの燃料もアデナキシスになる日が来るかもしれない」


ケセラ「教授はたいそう喜んでおられました。…アデナキシスが人類の進歩に貢献する…そう信じて疑わなかったのです、教授も…私たちも」


ケセラ「…でも、この研究をめぐって、大学側とトラブルがありました。…大学はこの研究を大学のものであるとし、使用する権利は全部大学側とその研究室に組んでいた企業に回されてしまう結果になったのです」


ルーギー「話が違うぞ!!」

「あなたがこの物質を開発できたのも、わが大学の援助あってのこと。

つまり、この物質を使う権利は、我々にある、ということですよ」

ルーギー「わたしはアデナキシスを平和的に利用するために、今までこうやって開発してきたんだ。たのむ、止めてくれ!もしこれが軍事目的に利用されたら、世界は崩壊するぞ!」


ケセラ「教授は必死に大学側に訴えましたが、聞き入れられませんでした。

教授は焦りました。あのアデナキシスは、悪用しようと思えばいくらでも悪用される恐れのある代物なのです。

…爆弾として利用されたり、テロに用いられたりして、何千万もの命が失われたら、取り返しがつきません。

だからこそ自分たちが管理して自分たちだけで利用しようと考えていた矢先の出来事だったのです。

…当然わたし達の研究室は、大学と強く対立しました。…でも当時は、大学側の力が強くて…アデナキシスは全部学内に没収されてしまったのです。

…そして、アデナキシスは新兵器開発に役立てられることになってしまったのです。

…でも、

そのことにたいへん腹を立てていた、当時の院生…ヨシュア君が…大学に忍び込み、悪用されるならと、アデナキシスに火を放ちました。

…その結果、…あの大爆発が起きました」

アヌビス「…爆発が起こってたくさんの人が巻き添えになると…予想できなかったんですか?」

ケセラ「…わかりません。

ただ、きっと、

ヨシュア君は、将来の何千万人の人の死と、今生きている40000人の死を天秤にかけたのではないかと、思います」

ナオヤ「…その、ヨシュアって奴は、今、どこにいる」

声が震えるのを必死で押さえ、そう聞いた。

ケセラ「アデナキシスの爆発を間近で受けて…おそらくは、一瞬で灰になってしまったかと、思います」

ナオヤ「…」

くそっ。

かすかにそんな声が聞こえた気がした。

ケセラ「…アデナキシスは当時大学の3階に保管されていたのですが…その爆発力はすざまじく、炎は町全体まで広がりました。

…これを、町の人はキャットフードの大厄災と呼びました」

サヤ「…なぜ、その事実は、公にならなかったんです?」

ケセラ「…あの事件以来ローレンツさんは自分の研究に責任を感じ、精神を病んでしまわれました。…ルーギー様も、わたしも…そして助教授だったラヴィーナ様も…みな、心に、深い傷を負いました。

…にも関わらず、アデナキシスはまだたくさん残っていたのです。

…このままアデナキシスを用いれば、第二、第三の悲劇の引き金になりかねない。

もし、このことが世に知れたら。

…不純な目的で、アデナキシスが用いられることになれば…。

そう感じた我々は、アデナキシスを理学部の奥深くに封印し、パロールさんがそれを見張ることにし、教授たちは責任を取って大学を去りました。…それに、私もついていきました。

…他の研究員および大学関係者はほとんど焼け死にました。

真実を知っているものなど、他にはもう居なかったのです」

パギー「…だから、それが原因でパパは、森の奥に篭もってしまったの?」

ケセラ「…はい。

私もあの事件で少なからず心にショックを受けましたが、

アデナキシスの研究主任だったルーギー様とローレンツさんは…その比ではありませんでした」

アヌビス「…でも、いくらショックだったからって…自分の子供を育てることすらせずに引き篭もってしまうなんて…」

ケセラ「…科学者にとって、自分の発明は、自分の子供のような物です。…いつかそれが、必ず世の中の役に立つように…そんな願いを込めて我々はアデナキシスを研究し続けたのです。

…それが…まったく逆の結果になってしまったら、どう思うか分かりますか?

…あなた達は、ダイナマイトが人殺しに使われていると知ったエジソンがどれだけ絶望したか想像できますか?

…原子力が、兵器に用いられて、何十万もの命を奪ったという事実を聞かされたアインシュタインの気持ちが分かりますか?

信念のために生涯をかけて研究したもの…それが殺人のための便利な道具になってしまった、そのときの開発者が、どれだけ辛いか…あなたに、分かるんですか!」

アヌビス「…」

ナオヤ「…なあ、あんたら、間違ってんじゃねえか」

ケセラ「…?」

ナオヤ「…責任感じてるならどうして処分しない!?」

ケセラ「それは…」

ナオヤ「これだとどう考えても責任逃れのために隠蔽してるようにしか見えねえぞ!?」

?「その通り」

パロール「…これは、大学側の判断なんだ」

黒服の男が二人、拳銃を構えていた。

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