序章⑥ 教会
予定の時刻より20分遅れて、教会についた。
教会では誰がどこに座るかまで全部きっちりと決まっている。
とりあえず中に入り、神父や周りの目を無視して指定の席に向かう。
指定された席…最前列の中央に置かれた椅子に腰掛けた。
なんでおれが最前列なのか。しかも中央なのか。
この村は、何かが間違っていると思う。
「遅いぞ最低!もう式はとっくに始まっている」
そして横からうるさいやつがちょっかいをかけてきた。
どっかの大人の真似だろうか。
「サヤ、お前が何を偉そうに」
言い返す。
…こいつはいつもこうだ。
初対面の人やら目上の人にはすごい言葉遣いが丁寧なのに、
おれに対してはこうだ。
…まあ、それはおれのせいだが。
「いいから早く席についてよ」
そんなことを考えてる間にもしつこく攻撃は続く。
「そうだ、遅いぞこの蛆虫、とっとと席に着け」
「むしろ来なくてもいいのに。なんで来るんだよ」
周りの一部の連中もそれに便乗するような形で攻撃してくる。
{はなから来たくねぇんだよ}
あくまで臨戦態勢をとってみるのも面白そうだが、
あとあとめんどいことになるので折れ、仕方なく席に着いた。
働いていると、こういうことで責任問題を考えなきゃいけなくなるから悲しい話だ。
「それではお祈りをはじめます。私の後に続いてください」
何事もなかったように式が続けられた。
お祈りの前座とされている「神父の誓い」をパスできたのは上出来だろう。
前で神様が古めかしい意味の全く分からない文を読み上げる。
なんかの説教なのだとは思うが、意味まで理解することはとてもできなかった。
こんな説教読み上げて、何の意味があるんだろう?
おれにもいずれ分かるようになる日が来るのか?
たぶん来ないと思う。
…しかし、ヒマだ。
…はっきり言って、バカバカしい以外の何者でもなかった。
…さっきも言ったが、俺にとって、そもそも神も信仰も全てどうでもいい。
何の役にも立たないからだ。
「…ふぁー…」
横からいかにも間の抜けたあくびの音が聞こえてきた。
もちろんあくびの主はサヤである。
こいつも神様とかは信じないタイプだ。
最前列中央で子供二人があくび。
ショーとしては最低だろう。
周りの大人も別段気にしていない。
信仰心とか、そういうものは、あんまりないのだろう。
あくまで伝統として続いているだけで、内実はその程度だった。
「つまんない」
そんなことを俺に言われても困る。
「何か面白いことでもしろ」
「面白いことって?」
そんなこと言われても知ったこっちゃないので適当に返す。
「奇声をあげるとか、狂ったように泣き叫ぶとか」
「なんでそんなヒステリックなことしなくちゃいけないのよ」
「おもしろいと思うぞ」
「おもしろくないよ」
「じゃああれだ、神父様に一発ビンタ入れて来い」
はあ。
「そんなことは最低がすりゃいいじゃない」
「おれがやったら怒られるのおれじゃねえか。
だからおまえにやれつってんだよ」
「あたしも怒られるのいやよ!」
「しーっ」
「…あ、はは…すいません」
「…」
「…なんかわたし一人が喋ってたみたいになっちゃったじゃない」
「事実おまえが一人で喋ってただろ」
「…はあ、もうやってられないよ」
くだらないやりとりが続く。
…まあ、これもいつものことだ。
神父のほうも何度注意しても聞かないので既に諦めている。
頼むから後ろの席にしてほしいと思う。
真面目に祈りたい人(そんな人が本当にいるのかどうか知らないが)に失礼だ。
「…はぁ…なにか面白いこと起こらないかな…」
そんなことを言っていたら、その日は、本当におもしろいことが起こってしまった。