2章-10 インディアンポーカー
(パギーの部屋)
サヤ「…広っ」
何畳ぐらいあるのだろう。この部屋だけで12畳はありそうだ。
そんな部屋に、ところ狭しといろんな怪しげなもの(実験器具?)や何が書かれているかさっぱり分からない紙、紙、紙、それにぬいぐるみやゲームが大量に置かれていた。
…しかし、散らかっていた。
…それはもう、中央部を除けば、足の踏み場もないぐらい。
…それでも中央だけをみるととてもすっきりしていた。
しかもふかふかのカーペットが床に引かれている。
そして、部屋の片隅には、なんとも豪華なベッドが。
サヤ「…すごい」
…あれ?
サヤ「パギー?」
…部屋を見渡してみる。…って、うっ。
パギーは隅のほうの棚の所に身を隠して、じっとこちらの様子を伺っていた。
サヤ「…あ…えっと…」
…。
こんな風に距離をとられると、接近できないタイプのサヤは、言葉を失ってしまう。
…。
…。
サヤ「ちょ、ちょっとわたしトイレ行ってくるね」
…冗談じゃない。
こんな空気にはとても耐えられなかった。
ついつい行きずりで了解してしまったが、そもそも初対面の、しかもたいして話もしていない相手の部屋に入るなんて、気まずいことこの上なかった。
そんな状況でもやっていける人はやっていけるんだろうが、サヤにはとても無理だった。
サヤ「もしもし、ノルン?」
携帯が通じたのは幸いだった。
ノルン「はーい、何の用?」
サヤ「私パギーの部屋に泊めてもらうことになったんだけど、…なんて言うか、微妙」
ノルン「微妙って?」
サヤ「その、なんかすごい警戒してるみたいでさ…なんか部屋の隅に隠れてこっちじっと見てくるのよ…耐え切れない」
ノルン「あ、そんなこと?いい?あいつは遊んでもらいたいのよ」
サヤ「…へ?」
ノルン「不思議なことしてれば何か構ってもらえるとでも思ってるんじゃない?あいつ自体が既に不思議なのに不思議なことやってるから本気でやってるように見えるけど、多分本人はギャグか何かのつもりよ」
サヤ「…へー」
笑えなかった。
ノルン「とりあえずぐっと接近だ!」
サヤ「…あ、ありがと」
…で。
…戻ってきたが。
…やっぱりサヤには声をかけるのは無理だった。
…そのうち緊張もなくなってきて、やることもないので床に寝転ぶ。
サヤ「…ふあー…」
退屈だった。
…ごそごそ。
…と、パギーが近くに寄ってきた。
サヤ「…?」
パギー「…たいくつ」
サヤ「…何かして遊ぼっか」
パギー「…うん」
さっきまでの時間は何だったんだ。
遊びたいなら、早くそう言えばよかったのに。
サヤ「…何する?」
パギー「トランプ」
定番中の定番だった。
サヤ「…だったらさ、ナオヤとアヌビスの部屋行って、4人でやろうよ」
…正直、この二人でやっても盛り上がらない気がした。
だって、さっきから表情の変化がないんだもん…
パギー「うん」
返事まで3秒もなかった。
…で、客室らしき部屋に案内された。
こんこん。
ノックをする。
「ふあ~い、どちらさまでしょうか~?」
とぼけた声が聞こえてきた。
サヤ「わたし。入るよー」
がらっ。
…。
ぴしゃ。
パギー「…?」
サヤ「…顔が赤かった」
パギー「…顔が赤?」
サヤ「…コップとなにやら水ではない液体の入ったビンがあった」
パギー「…あ、コーラ?」
サヤ「違う!アヌビスのほうはぐだぐだに酔っ払ってた」
パギー「あ、そういうこと」
サヤ「あいつら何歳なんだか…」
しかも、人様の家の借り部屋で飲むなんて…思わず感性を疑ってしまう。
…まあ、確かに最低ならそんなこと気にするはずがないが。
パギー「飲む?」
サヤ「遠慮しとく」
…さっきあれだけつまみを食べていた所をみると、こいつも結構いける口なのでは?
と、変に想像してしまった。
…。
で、仕方なくパギーの部屋に戻ってきた。
サヤ「じゃあしょうがないから二人でトランプしようか」
パギー「うん」
サヤ「で、何のゲームをする?7ならべ?ババ抜きは二人でやってもイマイチだし…神経衰弱?…なんかパギー得意そうだなあ…それともブラックジャックでもする?」
パギー「インディアンポーカー」
サヤ「…。
い、インディアンポーカー?」
パギー「うん」
サヤ「…何でわざわざ?」
パギー「おもしろい」
サヤ「…」
サヤは相手の申し出を無下に断れないタイプだった。




