2章-09 フードファイト
確か奥様の名前は…ラヴィーナといったはずだ。
ラヴィーナ「るんるんるーん♪ああ塩を入れすぎましたわ、砂糖を多めに入れれば大丈夫でしょああー今度はお肉が真っ黒にー!」
…(全員だんまり)
料理を作るときもうるさい。
…それだけならいいのだがいちいち失敗を口に出さないでほしかった。
ケセラ「奥様は料理がとてもお上手なのです。ただしばらく時間がかかると思われるのでそれまでこちらをお召し上がりになってください」
ナオヤ「本当に料理が上手なんですか?失敗してる声がたくさん聞こえてくるんですけど」
ケセラ「はい、いつもそうなのです。でも奥様が完成させた料理は、いつも素晴らしい味なのです」
…どういう意味ですばらしい味なのだろう。
ナオヤ「食えるものですよね」
サヤ「最低、失礼さの極みだよ、それ」
ナオヤ「いや、礼儀がどうこうという問題じゃない、こちらの生死に関わる死活問題だ。ちゃんと聞いとかなきゃいかん」
アヌビス「だから、それが失礼だと」
ナオヤ「…なんで?
なんでそこで気つかうの?
ちょっと、分かんない」
サヤ「だ、だって…」
ナオヤ「こっち一応お客様でしかも歓迎されてるっぽいんだぜ?
少なくともあの人にはな。
だったらこっちももっとお客様らしくふるまわないと。
それが、礼儀ってもんだ」
サヤ「…うーん…それはどうかな…」
パギー「ケセラ、かきのたね」
ケセラ「かしこまりました、お嬢様」
サヤ「…かきのたね?」
ケセラ「お嬢様の大好物でございます」
パギーは、こく、こくと2回頷いた。
サヤ「…これから、お食事だよ?」
パギー「いいの」
ケセラ「お嬢様はいつもご飯と一緒におやつを召し上がられるのです」
サヤ「…あ、そう…ごめんなさい」
…しばらくして。
ケセラ「お嬢様、かきのたねをお持ちしました」
パギーの前の皿に…皿に…
かきのたねがものすごいスピードで積み重なっていく。
袋を逆さにして中身を一気にぶちまけているのだから当然といえば当然だ。
そのまま3袋が空になった。
サヤ「…」(もうあいた口がふさがらない)
ナオヤ「…いや、いくらなんでも、おかしいだろ」
ケセラ「どうかされましたか?」
パギーが、?という表情を浮かべる。
ナオヤ「辛いだろ、どう考えても」
パギー「それがおいしい」
がりがりがり。
そのままパギーは一気にかきのたねをがっつき始める。
…信じられないくらいの速さだった。
ラヴィーナ「皆様お待たせしました予想していたより随分と時間がかかってしまいましたがそのかいもあってとってもおいしそうな鶏の丸焼きができましたよー」
まだだいぶ離れているというのにおいしそうな匂いがする。
サヤ「あっ、おいしそう!」
アヌビス「…こっ、こりゃまた高級そうな鶏肉を!わざわざ出していただいて…恐縮です…」
ラヴィーナ「それではみなさん長らくお待たせして申し訳ありませんでしたきっとお腹もすいていらっしゃることでしょうしお話はかんけつにさせていただきます我が家に訪れた3人の若き旅人との出会いを祝っていただきます」
ルーギー「遠慮せずにどんどんおかわりしてくれたまえ」
ナオヤ「では遠慮なくどこまでもおかわりします」
楽器の話は完全にこの場から消え去ってしまっていた。
ナオヤ{…遠慮するなといわれたからには食えるだけ食ってやる}
アヌビス「このソースもまた高級なやつですよね~
……!?何だこりゃぁ!?」
サヤ「辛いよ!何このソース!?水、水!」
ラヴィーナ「我が家特製のかきのたねソースですかきのたねをすりつぶし水やマヨネーズを混ぜ合わせ完全に溶けきるまでかき混ぜたものです最初はちょっと辛いかもしれないですがなれるととってもおいしいんですよ」
サヤ「…」(舌が痛くて喋ることすらままならない)
アヌビスは必死になって鶏をたいらげている。
出された以上、なんとしてでも食うつもりなのだろう。
サヤ「…ごめんなさい、ちょっと辛いのだめで…」
ラヴィーナ「あら!?そうだったのですかそうとは知らずに失礼な真似をすみませんね何か変わりのものを用意させていただきます」
サヤ「い、いえ…結構です…そんな。ちょっと今日食欲ないのでこれでご馳走様です」
ラヴィーナ「いいの?遠慮してない?こんな家に遠慮なんてしなくていいのよ」
サヤ「遠慮なんてしてません。ほんとに食欲がなくて」
そうして、サヤが食い終わる。
…で。
ナオヤ「…おかわり」
腹いっぱいになるまで食うといった以上、もう後には引き下がれなかった。
パギー「おかわり」
…で、なんとなく対抗意識を燃やしてしまったりした。
あれだけかきのたねを食べたやつに負けるなんて、考えられない。
…で。
結局勝敗はあっけなくついた。
ナオヤが鶏2匹分、パギーが鶏3匹という驚異的な記録を残してそれでもまだ結構余裕そうだった。
ナオヤ「…おまえ、フードファイターか」
パギー「…?」
ナオヤ「いつもこれぐらい食ってるのか」
パギー「…ソースが、おいしいから」
…俺はそのソースのせいで目から涙が零れ落ちそうになったわ。
…で、結局八音の旋律の話はそれ以上せず、お開きとなった。
…というより、それ以上話す気力がなかった。
ラヴィーナさんが、今日はもう遅いから泊まっていきなさいと勧めてくれたので、
他に行くところもないので、泊めてもらうことにした。
俺とアヌビスは客室に、サヤはパギーの部屋に泊めてもらうことになった。




