2章-07 パンデミック
また豪華な食堂だ…
暖炉なんて、生まれてこの方初めて見た。
テーブルもこれまた高級そうで、その上に豪華なテーブルクロスがかけられている。
そのテーブルクロスが「こぼすな」と警告しているようで、なんだかとっても怖かった。
ケセラ「それでは、お好きな席におつき下さいませ」
男「おお、君たちがナオヤ君にアヌビス君にサラちゃんかね」
体つきの細い、不精髭の生えたおじさんが出てきた。
ケセラ「だんな様、それでは奥様をお呼びします」
旦那「おお、よろしく頼むよ、ケセラ君」
ケセラ「はい」
俺たち三人とパギー、旦那さん―確かルーギーさん?―がテーブルに向かい合わせになるような形で座った。
ルーギー「どうもはじめまして。この家の主人のルーギーです」
サヤ「サヤです。はじめまして」
ナオヤ「ナオヤです。最低と呼ばれてるんで、
それで呼んでもらえると助かります」
ルーギーさんとパギーがきょとん、とする。
サヤ「こいつはこういうやつなんであんまり気にしないでください」
パギー「最低…?」
ナオヤ「そう、最低。
よろしくな」
パギーはすごく食いついたようだった。
アヌビス「アヌビスです」
ルーギー「はじめまして。いや、どういったご用件かな?」
ナオヤ「早速で申し訳ないですが、
ずばり、八音の旋律をゆずってはいただけないでしょうか」
サヤ「は、早すぎるよ!」
ナオヤ「後回しにしても仕方ないだろ」
サヤ「…で、でも」
ルーギー「…なるほど。いきなりですのう。
話は、ノルンちゃんから聞いております」
ナオヤ「何と言ってました?」
ルーギー「…ええ。なんでも、
滅びる世界を救うために神がおっしゃった唯一の救済手段とか」
ナオヤ「…ものすごくうそ臭いでしょう?
でも願いをかなえてもらえるのもほんとらしいので、こうして俺が集めてるってわけです」
ルーギー「…それについて、話があります」
ルーギー「世界が滅びようとしているのは事実です」
サヤ「…え?」
パギー「そうだよ」
ナオヤ「…あのー、もしもし?」
ルーギー「1か月ほど前のことです。
地中に新たなウイルスの存在が確認されました。
とてつもなく感染力の強いウイルスで、
…そのウイルスが仮に人に感染したら、というシュミレーションを行ってみたところ、
恐ろしい結果が出たのです」
パギー「こわい」
ルーギー「恐ろしく殺傷能力の高いウイルスで感染したら1日と持たずに間違いなく死ぬ。
しかも、感染力がとても高く、数日、もって10日で世界は滅び去る、そう予測されています。しかも対処法、ワクチンらしきものは、現在のところない…」
サヤ「そんなことってあるんですか!?」
パギー「突然変異みたい」
ルーギー「これらのことは極秘事項にされているが、ある程度の研究をしている人ならかなりの人がそれに気づいているはずです」
サヤ「…そ、そのウイルスの正体は、一体、何なんですか?」
ルーギー「それが、分からないのです。その正体が何なのか、またどこから発生したのか、どうして今頃になって惑星表面に進出してきたのか、何も。惑星内部で何かの反応が爆発的におこって発生したのかもしれません」
ナオヤ「…なんじゃそりゃ。
まさか、それとあいつら、関係あるんじゃねえだろうな…」
サヤ「な、なんとかならないんですか!?」
ルーギー「…今はまだ、そのウイルスは我々の手の届かない地中深くに眠っているのです。
ただ、じわりじわりと地表に近づきつつあります。
もし手が届く所まで来たとしたら、その時には手遅れです」
サヤ「…そ、そんな…」
ルーギー「そんなときにいきなりノルン君からその話です。
…私は、神様はとにかく、世界が滅びようとしているのは事実だと断言します」
ナオヤ「でも、八音の旋律を集めたからってそれが止まるって保証はどこにもないよな」
ルーギー「うむ。私もそう思います。
というよりその話は非科学的すぎて私にはとうてい信じられない」
アヌビス「…あと、何日ぐらいで地表に到達するんです」
ルーギー「はっきりとしたことは言えません。…だが、もってあと1ヶ月が限度かと」
ナオヤ「…それは、ギャグじゃ…ないんだろうなあ」
…なんてことだ。
…世界の終わりは、本当にすぐ側まで、迫っていた。
神様(…?)は、言った。
星の源泉。
それが人を滅ぼそうとしている。
…なら、神様は、
どうして、人を救う?
…しかもなぜ、八音の旋律を集めさせる?
それを集めて、どうなると言うのだ?
…人間を、試そうとしておられるのです。
ふいに、その言葉が耳に蘇った。
…しかも、
よりによって。
何で、俺なんだよ。
ルーギー「…しかし」
ルーギーさんは、続けた。
ルーギー「私は、君たちに静寂のフルートを渡すことは、できない」




